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パワハラと恋愛 北野武「首」感想

ネタバレあり
評価:3.9
生まれて初めての北野映画を
クリスマスに一人で見た
と言うと悲壮感が出て面白いかなと思ったけど
一人で来てる客いすぎて
クリスマスの過ごし方としては特別でも珍しくもなかった
映画の内容としては恋と仕事という月9みたいなテーマだったので、結果としてクリスマスにふさわしい映画だったのかもしれない
書いていたら感想というより隙あらば自分語りになり、北野武の芸風が無理みたいな話になった。
お暇でしたらご一緒ください

評価3.9の理由


評価は本当は4.3か4.5かなと思ったんだけど、
個人的に共感できたところや好きなところが一つもなかったので
主観に寄せる意図で評価はずっと下げた。
素晴らしい映画だったが、好きではなかった。

なのでなんか映画見たい気分なのに、見たい映画がないよぉ〜という映画難民の日本人がいたら間違いなくおすすめする。
値段以上の鑑賞体験をくれる作品だと思う。

子供の頃からビートたけしが怖かったからずっとおびえて観た


著者は昭和の最後の頃に生まれた。
まだ昭和の気配を色濃く残した平成の初期に子供時代を過ごしたが、
その頃のテレビは暴力的で性的だった。
その時代の「お笑い」と「暴力・犯罪・加害」の混ざり合ったお笑い番組は、
いわば、教室で起きているイジメを、イヤだなと感じても、みんな笑ってるから「イジメ」とも認識できず、でも面白くもないから笑うこともできず、どうしていいかわからず、困って呆然と見てるだけの教室の傍観者の気分にさせた。

そういう際どいお笑いの中心には、いつもビートたけしがいた。
映画を見ながら気付いたのだが、
私の中でビートたけしはイジメっ子の象徴としてイメージがこびりついているようだった。

映画を見ることとは、映画監督に自分の五感のうち、視覚と聴覚の二つを預けることだと思う。
そういうイジメっ子である、同情心の欠けた、倫理観がない相手、と自分の認識している監督に、
五感の二つを預けるのは恐ろしく、
どんなイヤな思いをさせられるのだろう、とビクビクしながら観た。
ならなんでそんなの見に行ったのかと自分でも思うが……
というか、岡田斗司夫が面白い、と言っていたので見る気になったのだ。
それに、大人になってからの先入観は壊してこそととも思っている。
あまり気が進まなかったが、勇気を出して、怖いもの見たさで、観てきたのだった。
結果としては観て良かったと思う。
好きではないが、映画体験としては文句のつけようがないという感じだったからだ。

こういう感じが普通に怖かった

ダントツで美しい日本の風景のカット


やはり特筆すべきは美しい日本の風景だろう。
こんなにも、日本人として納得感のある「日本の風景」の画作りは邦画でもあまり見かけない気がする。
比較として出していいのか分からないが、
NHKの大河ドラマや時代モノの朝ドラと同等か、それ以上に「日本らしい」画を切り取っていると感じた。
このあたりはやはり、長年テレビ業界にいてたくさんの映像作品に触れてきた人間のなせるワザだなと感心した。上からだけど……

具体的にこのシーン、と言いたいのだが、決められないくらい全てのカットに日本的な美しさが添えられていた。
海外から観光地として熱視線を浴びる我が国土の美しさを雄弁に語る画作り、
海外の映画賞をたびたび受賞してきた北野監督の受賞歴にも納得がいくと思った。

北野武の考えた織田信長の人物像


尾張の大うつけ、織田信長といえば、
あらゆるフィクションでたびたびモチーフにされてきた、日本史において最も人気のある人物かもしれない。

あなたは、織田信長とはどのような人物であったと思うか?

また、「本能寺の変」で明智光秀が謀反を起こしたのは、いったい何故だったと思うか?

北野武も、織田信長とはどのような人であったのか?また、明智光秀の謀反の原因が何だったのか?
現代のたくさんのクリエイターたちが取り組んで手垢のつきまくったこの論題に、ついに取り組んでみたというわけだ。

北野武の描写した「織田信長」とは、
本能のままに、突飛な言動で周りを振り回す、気分屋の暴君であった。
つかめなくて、時には魅力的にも映るんだけど、
まさに「触らぬ神に祟りなし」
できれば生涯関わりたくないキャラクターだ。
確かに、かの織田信長とは、このような人だったのかもしれない。
なんかこう、北野武はこの信長のモチーフになった人物に会ったことがあるのではないかと思った。
というのも、たまに、テレビ業界や、実業家?の集まりで傍若無人に振る舞う権力者のウワサを、どこからともなく聞くことがある。
そういう、「最低最悪の極悪テレビプロデューサー」のイメージにピッタリだったからだ。
私のまわりに、こういう傍若無人な権力者は今のところはいない。
しかし現代でも、事業が当たった起業家など、六本木で狼藉千万を働いたあげく、驕り高ぶり、人が離れ、次第に転落していくエピソードを耳にすることがある。
人間、権力を手に入れ、誰も言い逆らうことがなく、すべての願いがたちどころに叶うようになって、感情のまま、衝動のままに行動するようになると、みなこのように振る舞うのかもしれない。
背すじが寒くなる思いがした。
権力が無くてよかった。

名のある俳優で時代劇アベンジャーズ


登場人物のほとんどがテレビで見たことある人気の俳優ばかりで、見ていて楽しかった。
名前のついている登場人物のほぼ全員が、
民放のドラマなどで名脇役・実力派・個性派と言われる俳優ばかり。
普段の民放ドラマでは、事務所の売り出したそ〜な感じの若い美男・美女の拙い主演を脇から支える職人芸をされているキャリアのある俳優が、
誰かを立てる演技ではなく、本気で俳優やってる姿に痺れる思いがした。

特に良かったのはもちろん遠藤憲一だろう。
垢抜けなくて、仕事にも恋にも打算がなく、一生懸命で間抜けな武士、荒木村重を好演していた。

また何かとゲイの役をやりがちな西島秀俊の清涼感が、織田信長の不愉快さとくっきり対照的で、劇中で最も魅力的な人物として描かれる三日天下の裏切り者、明智光秀のキャラクターに説得力を与えていた。

岸部一徳の千利休も良かった。茶道家のため、武士や幕府とは本来まったく関係ない領域の人のはずで、しかし織田信長や豊臣秀吉と懇意だった史実もあり、中世ヨーロッパにおける枢機卿のような微妙な立ち位置の権力者であったと描写される。現代でも、表には出てこないが、一般人の肩書きで、ほぼ政治家として活動している人もいるのかも、と考えたりした。少なくとも、ビートたけしはその手合の人間に心当たりがあるのだろう。

忍者の寺島進も良かった。コミカルな役柄も多い役者だが、やはりこういうシリアスな役柄をやらせたら最高にカッコいい。

また加瀬亮の織田信長に触れないわけにはいかないだろう。加瀬亮の熱演なくしては成り立たない作品だった。何言ってるかわかるようでたまにわからない本格的な三河弁にもシビレた。愛知の出身なのかな?練習したんならスゴい。

キム兄はいい役すぎてちょっとシラケちゃったかな笑。
中村獅童も勝村政信も小林薫も良かった。

そうだ、北野武も良かったな。このように自分で書いた脚本に自分で出る場合は、どういう役を自分がやりたいと思っているのか、本心が出るものだ。北野武は、織田・豊臣・徳川の三人の中では秀吉に一番シンパシーを感じるのだろう。
また、当事者たちを少し俯瞰して見る位置の、他人に寛大に施しをする、いつもそばに子分がいてくれる、人を笑わせる、バカだけどそれゆえに人がついてくる、そういう人になりたいと思っているのかなということが伝わってきた。
自分に対しての宛書であるぶん、無理のない、魅力的なキャラクターだった。

まとめッ


PG15のレーティングの通り、不快なシーンの多い映画だが、NHKの大河では描けないような、ソリッドで無駄がない、洗練されたエンタメとして完成せれており、こういうマジョリティの感性にアクセスできる(みんなが面白い!と言える、という意味)本格派時代劇を作れるのはもしかして北野武だけなのではないかと感じた。

とまぁ、客観的に語ろうとすればするほど絶賛するしかないのだが、
個人的にエンタメから元気をもらいたいと思っているHSP女子である私(笑)は、やはりこれが好きか?と言われるとどうしても好きとは言えない。
でも素晴らしかった。面白かった。う〜〜〜んこの感じ伝われ〜〜〜

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