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バレンタインの掌編小説「素直じゃないふたり」

「みんな~! ハッピーバレンタイン!」
「おっ、有馬ぁ。もしかしてこれって」
「ンなわけないでしょ。はい、黒川にも」

そう言って有馬はクラスの男子にチョコレートをばらまいている。チョコといってもどうやら市販のチョコレートの菓子パックを何種類か詰め合わせているだけのようだが、一つひとつ袋詰めしてリボンをかけているだけで時間も労力もかかるだろう。

「ポイント稼ぎかよ」

──あ、やべ。声に出てた!
そう思った時にはもう遅くて、有馬はスカートのくせにずかずかと大股でこちらへと向かってきた。

「ねえ城崎、チョコがほしいなら素直にいいなよ」
「お、お前のなんかほしくねぇよ!」
「お前の、ねえ。ふーん、もしかしてもらえそうな相手いるの?」
「うっ……」

言葉につまる俺を見て、有馬は満足そうに不敵な笑みを浮かべた。

「ほらね。あたしからもらえるんだから素直に受け取ったら? あ、そうだ。こんなのあるけど、いる?」

そういって有馬が大きな紙袋の中からゴソゴソ取り出したのは、目に余る毒気のある濃いピンクのパッケージ。そこに大きな黒のゴシック体で書かれていたのは……

「18禁、チョコレート……」
「面白そうだから買ってみたの! 誰にあげようかなって思っていたんだけど城崎、あんたこの前誕生日だったでしょ? 18歳じゃん。あんたにぴったりじゃない」

なんで知ってんの、と尋ねる間もなく有馬は俺の胸に18禁チョコレートを押し付けた。

「大人の味がするらしいよ? 食べたら感想教えてね?」

俺にくすりと笑いかけて、有馬はまた別の男へチョコを渡しに行った。

「……義理だよな?」

──もらって、しまった。

「あ、城崎お前何ニヤけてんだよ。18禁に反応するなんて童貞かよ」
「ちげぇよバカ!」
「ウッソお前いつ卒業したんだよ」
「いやそれもちげえって」

うーわ面倒なことになった。ニヤけたのは18禁だからとかじゃなく……などと説明しても厳しいな、これ。
「そこんとこ詳しく」と鼻息を荒げる級友を何とかかわしながら、呑気にチョコを配り歩く全ての元凶をにらみつける。

──有馬お前、1ヶ月後覚えてろよ。

その真意、尋ねてやる。そして、俺からも……。

******

──わたして、しまった。

城崎に18禁チョコレートを押し付けた後、あたしは逃げるように奴の席から離れてその辺にいた男子にチョコ配りを再開した。
「ポイント稼ぎかよ」って、違うわボケ! あー腹立つわ。あたしだってこんなお金のかかることしたくなかったよ。おかげで2月は赤字なの。欲しかったリップ我慢したんだからね? まあ、3Bのクラスみんなのことは大好きだから全然いいんだけどね。

今年逃したらもう二度とあんたにチョコあげられる機会ないじゃん。だから何とか自然に渡せる方法ないか千代とたくさん考えた。あんたがチョコもらえたのはあたしと千代のおかげなんだから、感謝しろ!

……でもまあ、他の女の子からもらったことなかったみたいだから安心したかな。

18禁チョコレートなら話のネタにもなるし一目で義理だってわかるねって千代と相談してたけど、まさかあんないじり方されるなんてね。文字だけで興奮するなんて、男子ってほんとバカ。ってあれ、嘘でしょ???? 城崎あんた童貞卒業してんの???? 何それ聞いてない。いや話すわけないか。でもでもでも

何食わぬ顔でチョコを配るフリをしながら、あたしは内心気が気じゃなかった。

あーもう城崎! ちゃんと18禁チョコレートの味の感想ちょうだいね。そして、その時はちゃんと本命のチョコ、あんたに渡すから。だから、この1ヶ月はあたしのことだけ考えていてほしい……。



ハッピーバレンタイン!
やっぱりバレンタインといえばこの曲ですよね~と思って、聴きながら書いたのがこの作品でした!

お願い 想いが 届くようにね
とても心込めた甘いの
お願い 想いが 届くといいな
対決の日が来た

Perfume/チョコレイト・ディスコ

※素敵なイラストをお借りしました。ありがとうございました!


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