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短編小説 「雨の日の下駄箱」


高校の校舎の窓に雨粒が激しく打ちつけている。

下駄箱の隅に黒髪ロングの女子が外を見つめていた。傘を忘れて雨が止むのを待っているのか、迎えを待っているのかわからない。声をかけてみるか無視して帰るか。迷う。そっとカバンに入ってる折り畳み傘を貸してあげようかな。それか一本の傘を二人でさすか。まぁ迷っても声をかける度胸は僕にはない。

「ねぇそこの男子」と女の声が聞こえた。

声の方へ顔を向けると黒髪ロングの女子が僕を見ていた。僕に声をかけたのか、いやまさか。

「そこの青と赤のメガネ」

あぁ、僕のことだ。僕に声をかけるなんて物好きな女子だな。僕に惚れたのか。僕は結婚前提じゃないと付き合わないから。

「なんでありますか?」と敬礼をしながら言った。

「土砂降りなのに帰るの?傘さしても濡れるよ」と女子は言った。

僕を気にかけることは僕の好きなのか。どうしようか、どうしようか。あぁ、心臓がバクバクしてる。額に汗が滲み出てきている。手汗もすごい。女子の目を見ると目がキョロキョロしてしまう。どうしよう、雨に打たれようか。

すると、女子は敬礼をしながら口を開いた。

「雨が弱まるまで、私とお喋りをするのであります」

「了解であります」と僕は答えた。

変わった女子だ僕に敬礼を返してくれるなんて。名前は?趣味は?血液型は?星座は?生年月日は?好きな映画は?好きな食べ物は?好きなモビルのスーツは?知りたい。あれもこれも知りたい。

「あなた名前は?私はマリ。真木野マリ」

「セイタ。関野セイタであります」

名前を知ることができた。次は?僕の番か。

「好きな炭酸はなんでありますか?僕はカルピスのソーダ」と質問すると、真木野マリは手で口をおさえながら笑った。

「メロンのソーダ。さくらんぼ付きの。好きなハンバーガーは?」と真木野マリは微笑みながら答え、質問をした。

「チキンのフィレオであります」

「いいね食べたい。私はテリヤキのバーガー。口にたっぷりテリヤキソースつけながら食べたい」

女子と会話できている。明日がなくてもいいな。今日があれば十分だ。ずっと雨が降っていればいい。このまま今日が続いてほしい。

「雨止んできたね。帰るでありますか?」と真木野マリは嬉しそうに言った。

あぁ、早かった。早すぎる。僕から早く声をかければよかった。どうしよう、下駄箱を倒したい。靴に履き替えて下駄箱を蹴りたい。

「私、帰るね。明日はそのメガネの話をしよう」と真木野マリは小さく手を振った。

「はいであります」と僕は敬礼して真木野マリを見送った。




時間を割いてくれてありがとうございました。

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