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後継者の悩み 先代のカルチャーVS自分のカルチャー

前回の記事

解決策 自分のカルチャーを明文化しよう

続いて、カルチャーを文章として表し、見える化していきます。

先代までは空気感として「ウチの社風はこんな感じだよね」と、
ふわふわとして曖昧だったものを、きちんと経営者の言葉として表し、
カルチャーを従業員一人ひとりに認知させるのです。

 例えば、前回の日下部社長の〈「昔からこうです」と言わない〉という
カルチャーを明文化せずに、口頭で伝えるだけでは、「単なる社長の好み」「好き嫌いの問題にすぎない」「殿のご乱心」と誤解されたり陰口を
叩かれたりするのが関の山です。

 当然ながら、構築するカルチャーも、後継者が目指す方向性に合わせて練り込んでいかなければ説得力もなく、従業員の一人ひとりの心には刺さりません。
 
◯リッツ・カールトンの「クレド」
 そこで、改めて考えていただきたいのが以前お伝えした
「パーパス(存在意義)」です。

繰り返すと、
「社会の中で、企業が何のために存在しているか」
「そのためにどのような事業を展開するのか」
「社員は何のために働いているのか」
など、企業や企業に属する個人の目的や
存在意義(価値)を意味する言葉です。

 先の例では、松下幸之助の「水道哲学」を紹介しましたが、
もう一つ、世界的なホテルチェーンであるリッツ・カールトンの「クレド」も有名でしょう。
クレドとはラテン語の「Credo」が由来で、信念や信条という意味です。
企業におけるクレドとは、「共有されている価値観や信念」であり、
これはパーパスそのものです。
そして――。

「お客様への心のこもったおもてなしと快適さを提供することをもっとも大切な使命とこころえています(以下略)」

ザ・リッツ・カールトン



 これがリッツ・カールトンのクレドです。さらに、具体的な行動指針に
落とし込んだものが「ザ・リッツ・カールトンベーシック」です。

「ホテル館内でお客様に場所をたずねられたら、ただ指さすのではなく、その場所までお客様をご案内します」
 つまり、「お客様への心のこもったおもてなし……」という存在意義や価値観を一人ひとりが実践するには、どのように行動すべきなのかということが、具体的に明文化されているわけです。

ザ・リッツ・カールトンベーシック

◯カルチャーを書いたTシャツを社員に配る


 パーパスを出発点として、仔細に練り込まれた行動指針としての
カルチャーを構築していくことで、従業員の心に刺さるものになります。「カルチャーの構築」関する私のセミナーでは、後継者に、
以下の手順でカルチャーを作ってもらいます。

 カルチャーは作って、週1回の朝礼の場で確認してというだけでは、
まだ不十分といえます。
 また、ホームページやSNS上で発信している企業もありますが、
そもそも従業員の多くはよほどの用がなければ自社の
ホームページなど開かないので、社内に浸透させることはできません。

 皆がいつでも価値観を共有できるよう、明文化したものを
リッツ・カールトンのようにカードにして配布している
企業も多くあります。
さらに、ポスターを作って掲示したり、ベンチャー企業などでは
カルチャーが書かれたオリジナルのTシャツを作ったりしています。

 このように共有していかなければカルチャーは浸透していかないのです。
①自社の存在意義を書く
②経営で大事にしていること、仕事で大切にしていること
③その理由、価値観は?
 ここまで聞くと、けっこういろいろと出てくるものです。
 出来上がったカルチャーを明文化して、あとはどのように社員の間で
共有していくかが大切になります。
 先のリッツ・カールトンでは、従業員に浸透させるために、
「ザ・リッツ・カールトンベーシック」が記載された
「クレドカード」を常に従業員に携帯させています。

解決策 10年かけて幹部を全員入れ替えて構わない

 自社のカルチャーを明文化し、社員に浸透させていくことによって、
自社のカルチャーに合う人と合わない人が浮き彫りになっていきます。

もともと先代のときはカルチャーがなかったので、さまざまなカルチャーを持った人たちが働いています。
また、もしカルチャーがあったとしても、先代の時代とは異なる
カルチャーを導入しているので、カルチャーに合わなくなってしまった
人もいるでしょう。

 そこで、カルチャーが少し浸透してきたら後継者に試していただきたい
フレームワークがあります。「価値観と成果のマトリックス」です


著:後継社長力

 横軸の「社長の大切なおもいや考え」は、カルチャーや価値観のことで、縦軸は仕事の成果です。カルチャーが「合う」「合わない」、
成果が「出ている」「出ていない」の部分に、
現在の幹部や将来の幹部候補の名前を記入してみてください。
すると、
本章「事業承継成功のステップ1」の「バスに誰を乗せるか決める」が
明確になるはずです。

 もちろん、バスに乗せるのは、右側のカルチャーが「合う」、
成果が「出ている」「出ていない」幹部や幹部候補者です。

右上のカルチャーが合い、かつ成果が出ている人材は、
積極的に登用してさらなるレベルアップを目指してもらいます。
また、カルチャーは「合う」ものの成果が「出ていない」人材は
これからじっくりと育成をして、成果の出せる人材にしていく
必要があります。

 

◯カルチャーの合わない優秀な社員


 一方、左側のカルチャーが「合わない」人たちには、
どのように向き合えばいいのでしょう? 厳しい言い方をすれば、
「このバスにあなたの席はありません」。

つまりご退場願うということになります。
 そうはいっても、カルチャーは合わないけど、成果を出している人を
バスに乗せないのは、会社にとってマイナスではないかと考える
経営者もいるでしょう。
確かに難しいポイントではありますが、周りに悪影響を及ぼす
リスクもあります。

 カルチャーが合わない幹部や従業員が集まって派閥を作り経営者に
対抗したり、周りを攻撃して全体的な生産性を
下げたりすることもあります。

また、カルチャーが合わなくても仕事ができれば許されるという承認を
組織に対して与えてしまいます。
けっきょくカルチャーがバラバラの組織になってしまうことのデメリットは先にもお伝えしたとおりです。

 しかし、高齢の幹部にはなかなかハードルが高いのではないか? 
という質問をいただきます。

その答えとしてドラッカーは以下のように言ってます。

「高齢の役員は、ラインの長ではなく、独立して行える仕事、専門家として大きな貢献ができる仕事、助言、教育、基準の設定、紛争の解決などの仕事に移るべきである。マネジメントの仕事を行わせるべきではない」

『マネジメント・フロンティア』より


 肝心なのは、こうしたカルチャーが合わない人たちに対して、
後継者は悩まないほうがいいということです。
時間はかかりますが、カルチャーに合う優秀な人材へと
少しずつ入れ替えていくことです。

 私は、転職や退職を促すよりも、人事評価を下げるなどしてポ
ジションを下げていくほうが、日本の企業文化に合うのではないかと
思います。
会社として、どういった人材を優先すべきなのかについて
カルチャーを通じて明確化するということです。
その優先順位が明確に現れるのが、

次回で紹介する「人事評価」になります。

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