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70 発達障害の特性が生活や学習に与える影響と、特性に配慮した指導や支援について考える

前回、長期記憶の仕組みから、
指導や支援の方策について紹介しました。
では、発達障害のある子どもたちは、
それぞれの特性が、
どのように生活や学習に
影響を与えているのでしょうか。
また、
それらの特性に配慮した指導や支援は
どのように行っていけばよいのでしょうか。
次の事例をもとに、考えていきます。

明日は、ワークスペースで友達の誕生日会を行います。
皆さん、友達のために用意したプレゼントを明日学校に
持ってきてくださいね。

ぜひ、
現在関わっている子ども、
もしくは過去に関わった子どもを
思い浮かべながら読んでください。


ADHDの特性が生活や学習に与える影響

ADHDの特性の1つに、不注意があります。
不注意とは、注意の対象がそれやすく、
持続時間が短い特性があります。

その不注意が、
短期記憶やワーキングメモリの働きに
直接影響を与えるのです。
注意の対象を選択する時点で、
短期記憶やワーキングメモリの働きにかけて
何らかの困難が生じるといえます。

例えば、
「先生の服装」
「部屋の外から聞こえる鳥の鳴き声」
に注意を向けると、
それ以外の情報は入らずに、
気を取られて席を立ってしまうことが起きます。

この場合、
「誕生会」
の話も情報として入っているのですが、
注意を向けた内容が
先生の話ではありません。

また、
先生の話に注意を向けることができたとしても、
その注意時間が短いため
「ワークスペース」
「プレゼント」
等の情報を短期記憶に留め置けず、
一部の情報しか長期記憶に送れないことになります。

他にも、
先生の話を聞き、長期記憶に蓄えられている
先月の誕生会を浮かべているうちに、
「自分がもらったプレゼント」
を思い出し、
そのことで短期記憶やワーキングメモリが
満たされていきます。
そうなると、
今何をすべきか目的を失ってしまうことで
目の前の先生の話は、
きちんと長期記憶に蓄えられないことになるので、
結果的に明日、
プレゼントを持ってこないことに
なってしまうでしょう。

日々やるべきことのし忘れ、
よく物をなくしてしまうことや、
腰をすえて同じ作業に
長く取り組むことができない背景には、
注意を選択する時に、
短期記憶、ワーキングメモリの活動が
うまく働かない可能性が見えてきます。

LD の記憶特性が生活や学習に与える影響

学力の基礎となる読み書き、計算等の技能のうち、
いずれかが、その子どもの全般的な学力とは
不釣り合いに遅れている状態をLDといいます。

小学校に入り、本格的な学習が始まるころになると、
困り感が明確になってくるでしょう。
読み書きに障害のある子どもは、
これまで例に挙げてきた
明日の誕生日会の予定や持ち物の説明が
文章で書かれていると、
これらを音読したり、文から意味を理解するのに
相当な時間を要します。

一方、他の子は
「プレゼント」
「ワークスペース」
等の短期記憶に留めた情報を、
どんどん長期記憶に送るための
覚える段階に進んで行きます。
LDのある子は、
音読だけでつかれてしまい、
覚えるまでには至りません。
同年齢の子よりも文字を音に変え、
また意味を考えながら理解する過程に
相当な時間と労力がかかる
ため、限られた学習時間では、
長期記憶に情報がうまく送られない
ことが予想されます。

よって、
「明日の誕生日会は、どういったスケジュールなのか」
「何を持ってくるのか」
の理解がぼんやりすることも不思議ではありません。
こういった特性のある子には、
文字よりも音声言語の方が理解しやすい
可能性があることも
知っておく必要があります。

他にも、
算数障害のある子どもでは、
時計、計算の流れ、単位や図形などを
数秒間頭に留めておいたり、
それらを活用して計算したり、
図形であれば展開図を頭の中で何通りも考えたりする

ワーキングメモリに困難があることも知られています。

ASDの記憶特性が生活や学習に与える影響

ASDの特徴として
第1に、
人との相互関係を自然に
築くことが難しいこと
第2に、
物事が一定不変であることへの
執着と同じ行動を反復すること

といった2つの特徴があります。
目や耳を通じて入力する感覚記憶の段階に、
偏りがあることが分かっています。

例えば、
感覚記憶に入る段階で、
「先生の話」
「表情」
ではなく、
「近くにいる子どもの声」
がより大きく聞こえるといったことがあります。

こうなると、
その後の選択的注意がうまく働いたとしても、
先生の誕生会の話は、
短期記憶に送れないことになります。

もし、
「ワークスペースで誕生会」
「プレゼント」
等の情報に注意が向けられれば、
その後の覚える活動に進むことになります。

しかし、
ASDのある子どもは、
その後の覚えることや思い出すことに困難がある
という多数の報告があります。

例えば、
「20回リハーサルして覚えれば長期記憶に蓄えられるだろう」
と思っても、
ASDの特性としてはそうはいきません。
いったん思い出しても、
すぐに忘れてしまうという特徴があります。

また、
覚えた時のように思い出せない特徴があります。
繰り返し覚えたとしても、
それが必ずしも思い出すことには
直接繋がらない可能性があります。
学習内容の定着に困難が出て当然です。

また、
自分が過去に体験した誕生会を
浮かべて覚えるイメージ化も有効ではないようです。

覚える時に自分の性格や体験と関連付けると、
それだけ長期記憶に蓄えられやすいことを
自己関連づけ効果
と呼びますが、
ASDの人はこれがうまく働きません。
それよりも、
ダジャレなどを利用した学習が
ASDの長期記憶への定着を促す方法かもしれません。
ASDの長期記憶にある内容の蓄えられ方も、
頻繁に経験する類似した出来事が近くに
結びついているというよりは、
個々の記憶がバラバラに保存されている可能性があります。

つまり、
ASDの記憶特性として、
似た経験や知識が互いに関連し合って
強く結びついて蓄えられていない可能性が考えられます。
他にも、忘れてしまった方が良い経験を
一生懸命忘れようとしても忘れられないといった
不器用さがあります。

ASDの記憶特性を要約すると、
覚えたと思ってもうまく思い出せない、
忘れてもいいのに複数の刺激を忘れられない
といった
柔軟に記憶の働きをコントロールすることに
苦手さがあります。

記憶の特性に配慮した指導、支援

発達障害に関する、
有用な記憶研究の多くは、
青年や成人を対象にしています。

記憶の働きを知ると、
親や教師、療育の立場にある支援者は、
記憶の様々な段階で
具体的にどうすべきか
現実的な視点で支援を考えることが
できるようになります。

過去から学び、現在、未来を
修正する働きであると考えれば、
この仕組みを知ることは
その子の適応状態を知ることと
同じではないかと考えます。

最も避けたいのは、
どれだけ覚えてもできない、
あきらめやわかってくれない
という経験を知らず知らずのうちに
強い自覚とともに積んでしまうことです。

その後においての
「人生においての挑戦」
「課題を乗り越えようとする機会」
を減らし、豊かな生き方につながらないからです。
うまくコントロールできない
記憶の働きが辛い人生経験の蓄積につながり、
これが2次障害を引き起こす要因となります。

絵カードを使って子どもに
何度も同じことを言いっても
行動と違うことをする子がいるとします。
「指示を聞いていないのか」
「理解できていないのか」
それとも、
「忘れてしまうのか」

ASDは先に説明したように、
教えられたようには思い出せない特性と
明日という未来に自分をタイムスリップさせ、
何がおきるか考える見通しの持ちにくさが
その子の適応を妨げる可能性が大いに考えられます。

その子が適切に行動するためには、
教えられたことを
いつ、どこで思い出すべきか
のサインである
「音を鳴らす」
「特別な声かけ」
「絵の提示」…などなど
一緒に考え、
それらをその子自ら思い出せる支援が
必要になります。

私達は教えることには注意をむけますが、
いつ、どこで、どのように思い出すかは
目を向けていないことが
多いのではないでしょうか。

その子が忘れたと気づくことができるのは、
自ら思い出そうとしたときだけです。
これが自覚でき、困った経験をした子は
「先生の話を聞かないと忘れてしまう」
と気づくでしょう。

覚えることだけでなく、
生活や学習場面で必要になる情報が、
どのように蓄えられているか
適切に思い出すことができるか
に目を向けた支援は、
その子ども自身の記憶活動を
ふり返る発達を促すために重要なのです。

ぜひ、
発達障害に応じた特性を知った上で
目の前の子ども達が適切に記憶へと定着し、
成功体験を積むことができるように
していきましょう。

今回の記事は以上になります。
最後までお読みくださり、ありがとうございました。

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