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力発揮のタイミング。脳卒中者は早期に出現

📖 文献情報 と 抄録和訳

脳卒中後の片麻痺患者では、推進力に関連するバイオメカニクス変数のタイミングが損なわれている

📕Alam, Zahin, et al. "Timing of Propulsion-Related Biomechanical Variables is Impaired in Individuals with Post-Stroke Hemiparesis." Gait & Posture (2022). https://doi.org/10.1016/j.gaitpost.2022.05.022
🔗 DOI, PubMed, Google Scholar 🌲MORE⤴ >>> not applicable
🔑 Key points
- 脳卒中麻痺脚の歩行サイクルにおいて、前方への床反力(anterior ground reaction forces: AGRF)、パワー、モーメントのピークがより早く出現することを示した。
- 脳卒中の歩行障害において、タイミングの異常は重要であるが、十分に研究されていない可能性がある。
- 今後の研究では、バイオフィードバックがタイミングの異常を正常化するかどうかを調査することができる。

[背景・目的] 脳卒中後の片麻痺患者では、前部地面反応力(AGRF)を通じて測定される麻痺性脚の推進力の低下が、一般的かつ機能的に関連した歩行障害である。足底屈筋モーメント、足首のパワー、足首の伸展力など、他の生体力学的変数の欠損が推進力の低下に寄与している。脳卒中後の推進力の低下はよく研究されているが、ここでは、推進力に関連する生体力学的変数のタイミングを比較することを目的とした。研究疑問:脳卒中後の健常者、麻痺脚、非麻痺脚の間で、推進力および推進力に関連する生体力学的変数のタイミングに違いがあるか?

[方法] 健常者9名と脳卒中後遺症者13名が、トレッドミルによる各自選択した速度での歩行試行を含む歩行分析セッションに参加した。脳卒中後の麻痺脚と非麻痺脚、健常者の麻痺脚と利き脚の間の従属変数のタイミングの違いを検出するために、2つの独立標本t検定を計画的に実施した。

[結果] 脳卒中後遺症者は、麻痺側脚のAGRFピークが非麻痺側脚や健常者よりも有意に早いタイミングであることが示された。脳卒中後の参加者は、麻痺側脚のパワーピークのタイミングが非麻痺側脚や健常者よりも早く、麻痺側脚の足関節モーメントのピークタイミングが健常者よりも早いことを示した。足関節角度のピークのタイミングについては、有意差は検出されなかった。

[意義] AGRF、足関節パワー、足関節モーメントのピークが早くなることは、脳卒中歩行障害の基礎となる重要かつ十分に研究されていない生体力学的因子であり、脳卒中歩行再教育の治療目標となる可能性が示唆された。今後の研究では、これらのピークのタイミングを正常化し、脳卒中後の推進力と歩行機能を向上させるための歩行バイオフィードバックなどの介入方法を検討することができる。

🌱 So What?:何が面白いと感じたか?

世の中のあらゆるものは、総量が同じであったとしても、その分散により意味を変える。
たとえば、力学的な分散。スクワットをするとき、股関節の動員が乏しければ荷重負荷が膝関節に集中し、障害を引き起こす可能性が高まる(このような考え方を協調分散理論という)。

✅ 協調分散理論;coordinated distribution theory
- 京都大学の建内先生の講義より
- ある関節運動, 動作において全身のすべての部位が個々に適切な役割を果たし、かつ互いに協調することで ストレスが分散され, 組織損傷につながる局所へのストレスの過剰集中が回避される

たとえば、栄養。世界の農家は毎日、地球上の一人当たり2,868キロカロリーを生産している。これは、世界食糧計画が推奨する一日の摂取カロリー2,100キロカロリーを上回り、90億に迫る人口を支えるのに十分な量。だが、栄養不足に苦しんでいる人々は、まだまだいる。(National geographic December 2014 P19)

そして、今回抄読の論文は、経時的な分散に着眼している。
具体的には、脳卒中者の歩行における力発揮の経時的な分散の特徴を明らかにした。
結論は、『早期に出現する』ということ。
これは、臨床上納得のいく話だ。
脳卒中者の歩行の多くは、立脚中期〜終期がほぼ欠落したような歩容を呈しやすい。すなわち、歩行の前半期(山登り)に力を使い、その後は尻窄みというか、下手したら消失している。
それを、床反力や足関節モーメント、パワーの側面から眺めると『早期の力発揮』になるということ。
これでは、前方推進力は生まれにくいだろうし、立脚中期〜終期における膝折れ・転倒リスクも高そうだ。脳卒中者の歩行介入の質的な部分として、「立脚中期〜終期の運動制御」はキーポイントとなろう。

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