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家事の威力:記憶力や注意力を高めるアンチエイジング効果

📖 文献情報 と 抄録和訳

若年および高齢の地域居住成人における家事と認知、身体および感覚運動機能との横断的関連性:Yishun Study

Lee, Shuen Yee, et al. "Cross-sectional associations of housework with cognitive, physical and sensorimotor functions in younger and older community-dwelling adults: the Yishun Study." BMJ open 11.11 (2021): e052557.

🔗 DOI, PubMed, Google Scholar

[背景・目的] 中等度から強度のレクリエーション身体活動(PA)を定期的に行うことで、身体機能および認知機能が改善される。しかし、レクリエーション以外の身体活動と機能的能力の年齢による関連性については、まだあまり検討されていない。我々は、シンガポールの若年および高齢の地域在住成人を対象に、家事と機能的健康との関連性を検討した。

[方法] デザイン は、横断的研究。シンガポールの大規模な住宅都市から若年者(65歳未満、n=249)および高齢者(65歳以上、n=240)の地域居住成人を無作為に募集した。身体機能は、Short Physical Performance Battery(SPPB)、反復座位-立位、歩行速度で評価した。認知機能および感覚運動機能は、それぞれ反復神経心理学的状態評価用バッテリー(RBANS)および生理学的プロファイル評価(PPA)を用いて評価した。軽度の家事(LH)と重度の家事(HH)、レクリエーション、職業・交通関連のPAは、PA質問票を使用して評価した。参加者は、LHとHHを低容量群と高容量群に二分した。レクリエーションやその他の非レクリエーション的なPAのレベルで調整された。

[結果] 若年者ではなく高齢者において、RBANSスコアは低HH群およびLH群と比較して、高HH群およびLH群でそれぞれ8%および5%高かった(p=0.012およびp=0.016)。特に、HHは注意力のスコアが14%高く(p=0.014)、LHは即時記憶と遅延記憶のスコアがそれぞれ12%と8%高かった(p<0.001、p=0.004)。高齢者では、高HH群は低HH群に比べ、座位-立位時間およびPPAスコアがそれぞれ8%および23%低かった(p=0.011、p=0.040)。SPPBと歩行速度は年齢やHHによる差はなかった。LHは身体機能や感覚運動機能との関連はなかった。

[結論] 高齢者において、家事は高い認知機能、特に注意と記憶と関連していた。家事と身体機能および感覚運動能力との関連は強度依存的であった。家事は、レクリエーションやその他の非レクリエーション的なPAとは無関係に、地域在住の高齢者の機能的健康と正の相関がある。因果関係を明らかにするためには、さらなる縦断的研究および介入研究が必要である。

🌱 So What?:何が面白いと感じたか?

ただ機能の駆動だけが、強化を保証する。
使うほど、使いやすくなる。それだけが世界の原則だ。
GIVEは駆動であり、TAKEは享受である。

では、家事を行う、GIVEすることは、何を駆動するだろう?

今回の論文は、その『家事の機能需要』を明らかにしたともいえる。
B-ADL(Basic-Activity of Daily Living)は、生活という階層から眺めると原色的であり、素数的な存在だ。
B-ADLである歩行や移動、排泄、更衣などは1つの生活動作を構成する1つのブロックであり、生活の全体ではない。
一方、家事は、生活の構成体の1つ、生活の全体の1つだ。
そこには、組み合わせの妙、制御(コントロール)の要素が出てくる。

たとえば、洗濯。
洗濯の中にも、洗う、干す、取り込む、畳むなどの部分がある。
そして、その順番をどうするか。干してある洗濯物を畳むことから始めるのか、または洗濯機のボタンを押して洗うことを始めてから、取り込んで畳むのか。
また、畳んだ後、どこに運び、何をどこにしまうか。
さらに、干すといっても、どこに干すのか、家の中か、外か。
さらにさらに、干すのはハンガーを使うのか、洗濯バサミか。
・・・etc...
順番、道具の使用、移動の動線、自由度の数は多い。

これが、家事の機能需要の1つである。
頭の中で記憶された部分を組み合わせたり、順番を変えたり、1つのことをやりながら、他のことを考えたり・・・。
集約すると、「認知機能」「注意機能」といえるかもしれない。
そして、今回の論文の結果は、家事動作が「認知機能」「注意機能」と関連したことを報告している。
家事動作は「認知機能」「注意機能」を駆動させる可能性の高い資源といえる。

✅ 家事に関する面白い研究
1000以上の引用をもつ、非常に著名な研究がある。
この研究では、夫と妻それぞれに「家の掃除・整理整頓へのあなた自身の貢献度はどのぐらいですか?」と質問する。回答者はパーセンテージで答える。このほか「ゴミ出し」や「社交的な行事」などについても同様の質問をする。
夫と妻が答えた貢献度を合計すると、ちょうど100%になるか、それとも上回るか、下回るか。
結果は、貢献度の合計が100%を上回る。
仕組みとしては単純で、夫も妻も、自分のやっている家事は、相手のやったことよりはるかにはっきりと思い出すことができる。
📕 Ross, Michael, and Fiore Sicoly. Journal of personality and social psychology37.3 (1979): 322. >>> doi.

上の研究には、前提となる「価値観」が根付いている。
その価値観とは、「家事はできたら相手にやってほしい、しょうがなくやっている仕事」である。だからこそ、貢献度を相手にしっかりと示して、「もっとしっかりやってくれよ」といいたくなるわけだ。
だが、家事は相手に求めるもの、求めた方がいいものだろうか。
今回の研究を顧みると、「家事をTAKEの対象にしていてはもったいない」という気がしてきた。
せっかく、施す相手がいて、「認知」「注意」機能を駆動させる『家事』という仕事が、資源が、ある。
施そう、与えよう!
心持ちひとつが、「仕事」を「資源」に変えるかもしれない。

与えることだよ
ただひとつのほんとうの喜びは
与えることだ!

チャーリー・ブラウン

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