見出し画像

感覚運動ワンダリング。赤ちゃんの手足の動きには意味がある!

📖 文献情報 と 抄録和訳

ヒトの初期発達における自由形状の運動は感覚運動情報を構造化する

📕Kanazawa, Hoshinori, et al. "Open-ended movements structure sensorimotor information in early human development." Proceedings of the National Academy of Sciences 120.1 (2023): e2209953120. https://doi.org/10.1073/pnas.2209953120
🔗 DOI, PubMed, Google Scholar, pre-release
🌲MORE⤴ >>> Not applicable.

🔑 Key points
🔹赤ちゃんの自発的な運動について、詳細なモーションキャプチャと筋骨格モデルを併用することで、筋肉の活動と感覚を推定し、それらの間に生じている情報の流れについて解析した。
🔹意識的な運動をほとんど行えない生後数か月の赤ちゃんにも、自発運動を通して筋の感覚や運動の時空間パターンが生まれていることや、それらをもとにした発達的な変化が起きている可能性が示された。
🔹本研究によって、赤ちゃんが運動時にどのように感じて、なにを発達させているかについて検証可能となり、ヒトの行動的/認知的発達過程のさらなる追究に貢献することが期待できる。

[背景・目的] 生後数か月頃の赤ちゃんは、何をするでもなく手足を動かしている。このような運動は外部の刺激によらずに赤ちゃん自身が行っていることから「自発運動」と呼ばれる。この時期の赤ちゃんは周囲の環境や世界についてあまり理解できていないだけでなく、自分の身体を自由にコントロールすることもできないが、この自発運動にはヒトの発達に関する重要な要素が潜んでいると古くから考えられてきた。その一方で、自発運動によって赤ちゃんの身体になにが起きているのか?どのような意味を持っているのか?は具体的にはわかっていなかった。そこで、赤ちゃんの動きの観察から筋肉の活動や感覚を推定し、それらの間で生じている情報の流れを詳細に解析することで、発達初期の自発運動が持つ意味を探った。

[方法] 新生児と3ヶ月齢の乳児が対象。詳細なモーションキャプチャと筋骨格系シミュレーションを組み合わせることで、全身の筋活動や固有感覚間の感覚運動情報の流れを取得した。その後、感覚運動情報フローにおける空間モジュールと時間状態を抽出した。

[結果] 初期の自発運動は身体依存的な感覚運動モジュールを誘発し、その組み合わせや方向によって、加齢に伴う変化を示すことが明らかになった。また、感覚運動相互作用は、大脳皮質や脊髄の自発的活動に見られるような時間的な非ランダムな揺らぎを示すことがわかった。さらに、複数の参加者にわたって繰り返される状態配列のパターンを発見し、新生児のパターンに比べて乳児では大幅に増加することを特徴としている。したがって、早期の自発運動は、感覚運動相互作用における時空間構造を誘導し、その後の発達的変化をもたらすことがわかった。

[結論] これらの結果は、早期自発運動が特定の神経基盤から生まれ、具現化を通じて感覚運動相互作用を制御し、その後の協調行動に寄与することを示唆している。また、初期の自発運動と自発的な神経活動を時空間特性という観点から概念的に結びつけることができた。

🌱 So What?:何が面白いと感じたか?

「面白い!!!」
まず、この研究を目にしたとき、そう思った。
筋シナジーに関する研究は、僕自身も片足を突っ込んでいる領域だし、また発達に関するところは全人的に重要なテーマだ。
発達早期からの自発運動には筋シナジーがあって、その「感覚運動ワンダリング」が発達にも影響を及ぼしている可能性があると。
・・・「面白い!!!」

そして、現実的な課題にこの研究を落とし込もうとした時に、脳卒中重症者が思い浮かんだ。
脳卒中重症者は、重度の運動、感覚麻痺、高次脳機能障害によって、「一見無意味に思われる手足の運動」が観察されることがある。
しばしば、脳卒中後の回復過程は、人間の発達過程に近似するような説明がなされる。
もしその立場に立つならば、脳卒中後の無意味に見える自発運動が感覚運動ワンダリングである可能性は否めない。

だが、入院中の患者においてはその自発運動が「挿管抜去」「掻き壊し」「オムツいじり」などにつながるという理由から、『身体抑制』につながることが多い。
もし、これらの自発運動が感覚運動ワンダリングだったとしたら?
それは、脳卒中後の回復(再発達)を妨げていることにならないか?
脳卒中後における入院中のケアとして、望ましいこととは一体何だろうか?
いろいろ考えさせられる、インパクトの大きい研究だ。

○●━━━━━━━━━━━・・・‥ ‥ ‥ ‥
良質なリハ医学関連・英論文抄読『アリ:ARI』
こちらから♪
↓↓↓

‥ ‥ ‥ ‥・・・━━━━━━━━━━━●○
#️⃣ #理学療法 #臨床研究 #研究 #リハビリテーション #英論文 #文献抄読 #英文抄読 #エビデンス #サイエンス #毎日更新 #最近の学び

この記事が参加している募集

最近の学び