お盆と蜻蛉。【短編小説】
「とんぼ。貴大の背中にとんぼがとまってる」
仕事から帰宅した弟の背中を指さして
母が言った。
たしかに弟のワイシャツの背中の
肩に近いところに、
手のひらより少し小さいくらいのとんぼが
とまっていた。
弟は、どこどこ、と振り向いて、
懸命に背中に腕を回すけれど、
とんぼには届かない。
素敵なバッチみたいでいいじゃない、
そのままにしておけば、と私が言うと
「姉ちゃんとってよ。
このままじゃオレ、ソファに転がれないじゃん」
疲れてるのにさと、弟がぶーぶー喚くので、
仕方なく私は