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これがわたしの純情です。

小さなお話です。
あざみの物語。

いつでも棘を持って生きてきた。
あざみは、あざみだった。

あざみのことを知りたくて
近づいてくる人の手を、
棘でちくりと刺した。
ぎぎっと引っ掻いた。


あざみは
とにかくすべてが棘だらけだった。
背中
 胸
  手
   脚
    頭
そして、唇。
皮膚は棘のある鱗。
言葉は毒のある吹き矢。
周りじゅうを傷つけた。


***

独白。


手の甲にできたみみず腫れを舐めながら、
あの人が悲しそうに遠ざかってゆく。

ほらね。
灰色の空みたいな気持ちで
去ってゆく背中をずっとずっと、
見つめていた。
見えなくなるまで。


霞んで霞んで
滲んで溶けて。
黄昏の中で見失う。
宵闇があの人を隠したことに
悲しく安心する。
涙のせいなんかじゃないから。
夜が来る前に
あの人は自分の居場所へ
帰っていった。
ただ、それだけだって。



後悔なんてしない。
わたしはわたしを守りたいだけ。
離れるくらいなら、近寄らないで。

永遠なんて、
誰にも誓えないとわかってる。
でも、守れない約束をする人はキライ。


***


あざみは棘だらけだけれど、
花を咲かせることはできる。


ぎしぎしな360度。
棘で守られた球体の蕾から、
思わずあふれた純情みたいに。
戸惑いながら、
釣り合わない色を頭に乗せて。
春風みたいな自分が
少し恥ずかしかった。


せわしない働き蜂が
ひと休みする花の上。
小さな羽音がこそばゆい。
蜂が纏った花粉は金色だから、
あざみの花にも彩りが降る。
棘を持つもの同士のやり方で
孤独を忘れるつかの間の時。
はららり、ほろろ。
雨の雫が茎を伝う。

あざみは、あざみ。
どこまで許されるのか、
棘を伸ばしながら探っている。
どこまで刺したら失望されるのか、
棘を研ぎながら試している。

わかっているのに。
みんな離れていってしまうって、
わかっているくせに。
どうせ、やっぱり、のために
自分の内側を傷つけている。


からだじゅうの棘の先から
言葉にならないコトバが
滴る。
ひとりごとは風に飛ばされて消える。
弱さを匿う棘は
枯れたって硬いままだろう。


今日もまた
いつもの場所で咲いている。
棘ごと摘みにきてくれる手を待ちながら、
そんなそぶりも見せないでいる。
寂しがり屋の、あまのじゃく。
綿毛になって自由になるまで、
ここから一歩も動かずにいる。


Fin. 


*********

通りを歩きながらみかけた、あざみの花。
花の根元にびっしりと生えた
棘の鋭さにおののきました。
でも
花はとても可憐でした。
ツンツンしてとんがっているけれど、
可愛らしい一面を持つ女の子のようだなと
思いました。
意外性でいっぱいの花でした。
見かけたら、
優しくしてあげてください。


*********

小説や詩を書くと
『これはあなた自身のことですか?』
と、聞かれることがありますが、
そうではありません。笑。
物事において、残念ながら
私は黙って耐えて待っているような
殊勝な人間ではないのです。
ただ、臆病だからこそ、の
《攻撃は最大の防御》
としてしまう気持ちは、
わからないでもありません。

それにしても、
棘、という漢字は何かすごいですね。





文章を書いて生きていきたい。 ✳︎ 紙媒体の本を創りたい。という目標があります。