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源氏物語ー融和抄ー

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『源氏物語』を独自の視点で掘り下げ、紫式部という女流作家の思想にアプローチしています。
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源氏物語ー融和抄ー結び

源氏物語ー融和抄ー結び

 浄土思想に占められた物語のようにみえて、紫式部自身にそれを感じるかというと、そう思えないところがあります。
 それは世相を反映したに過ぎなかったのではないかと。
 何故そう思うのか、私自身事あるごとに物語を思い返しながら、この数ヶ月を過ごしていました。
 「ある時から物語は一人歩きをはじめた」そう感じます。
 王朝文化への憧れに胸を躍らせ、大いにそれを感受しながらも、鬱屈とする思いを持て余す日々

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紫を書き終えて…

紫を書き終えて…

しばらく筆を止めていたこともあって、今は何かを書けることが単純に嬉しいです。
止めることがなかったら、今こんな風に感じることもなかったかもしれません。
平安中期頃というのは、まだまだ紙が大変貴重で、紫式部も紙が手に入ったら書く、という状態だったとも言われています。
彰子に仕えるようになってからは、藤原道長直々の仰せで執筆しますから、もう紙に不自由することもなかったでしょう。
けれど、ブレイクする前

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源氏物語ー融和抄ー玉鬘

源氏物語ー融和抄ー玉鬘

 玉鬘は夕顔と頭の中将との娘ですが、母の夕顔とは、夕顔が光源氏に連れ出されたきり亡くなるという形で別れることとなり、その存在を父頭の中将が知ることもないまま、乳母の夫の赴任地である筑紫へ下ることになります。乳母の夫が亡くなった後は、肥前松浦で乳母やその息子達と暮らしていましたが、玉鬘が二十歳になると、乳母は意を決して玉鬘を連れ京へ出ていきます。
 願掛けに訪れた初瀬寺で、奇跡が起こります。夕顔の側

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源氏物語ー融和抄ー標野の光

源氏物語ー融和抄ー標野の光

 近年、人気の映画、ドラマやアニメに出てくる場所を“聖地”と崇めて訪れる旅が流行したりしています。それらのファンにとっては心のオアシス的に重要な場所になるのでしょう。私が、神社や寺院などを参拝する時には、信仰対象としての聖地という意味合いの他に、歴史的事実のあった場所として見る向きもありますので、展開しているのが、二次元なのか三次元なのかの違いだけで、本質的には同じなのだと思います。

 しかしそ

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源氏物語ー融和抄ー弥勒の世の契り

源氏物語ー融和抄ー弥勒の世の契り

 息長川の枕詞に使われる鳰鳥は、水中に長く潜っていることができる鳥です。鳰鳥と共に息長の時の川へ潜ってみると、水底には確かに尽きない何かが秘されているようです。物事には頃合いというものがあり。玉鬘にこの星は未だ揺れることを思えば、それはまた別のお話へとゆずっておくことにいたしましょう。

 夕顔が身を寄せる邸にて、来世までも約束を結ぶよう仏に願い、自分を頼みにするようにと言い聞かせる光源氏は、忍ぶ

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源氏物語ー融和抄ー山吹の咲く頃に

源氏物語ー融和抄ー山吹の咲く頃に

 若紫のことを、もう少しお話ししておきたいと思います。
 昔読み通した頃には全く気にとめていなかったことが、紫の上の幼少の頃の様子を描く、紫式部の目線の柔らかさです。
 今回読み直すと、その描写の中に顕われる、くすぐったいような爛漫さ、それが愛おしくてたまらない様子が胸に迫ってくるのです。
 それが不思議で、書き進めながらもずっと心の中にひっかかっていたのが、ある日突然こう思ったのです。
 娘の大

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源氏物語ー融和抄ー黄昏に映ゆる時

源氏物語ー融和抄ー黄昏に映ゆる時

 

 万葉集の巻頭を飾る歌です。古来より、雄略天皇の求婚歌と伝えられてきました。雄略天皇自身が作ったというより、雄略天皇を象徴するような歌として歌い継がれたということでしょう。
 古代史を調べる中で、何度となく紐解いたこの辺りの事情を、まさか『源氏物語』を通して改めて紡ぎ直す時がくるとは考えもしませんでした。
 呆れるくらいの時間を費やして、馬鹿にも程があるくらいの要領の悪さではありますが、気分

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源氏物語ー融和抄ー河原の語源に迫る②

源氏物語ー融和抄ー河原の語源に迫る②

 冬のダイヤモンドの一角を担う、ぎょしゃ座のカペラ。その和名を河原星という。

 ぎょしゃ座は老人が子山羊を抱いている形をしていますが、カペラとは、「雌の子山羊」を意味します。
 ぎょしゃ座の神話についてはいくつかの説がありますが、一般的に知られているのはアテナイ王エリクトニオスの話でしょう。
 ですがどの話を参考にしても、何故子山羊を抱いているのかが不明です。

 カペラにあたる雌の子山羊が意味

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源氏物語ー融和抄ー河原の語源に迫る①

源氏物語ー融和抄ー河原の語源に迫る①

 中大兄皇子(天智天皇)が、母斉明天皇(皇極天皇)を弔う為に建てたのが奈良県明日香村の川原寺です。このお寺の礎石に使われたのが石山寺から切り出された石なのです。不思議な縁です。
 以前、川原の語源を考えていた時、ただ川の側に在ったからという理由だけではなく、他にもあるのではないかという気がして、よく似た響きの瓦の語源を調べてみました。
 日本においてはその語源は、サンスクリット語のカパーラにあるの

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源氏物語ー融和抄ー輝く日の宮

源氏物語ー融和抄ー輝く日の宮

 五十四帖に秘められた事について書いたところですが、実は『源氏物語』には失われた巻があると伝わっています。
 現代までにたくさんの写本が存在し流布してきただけに、数え切れないほどの異説があるわけで、完全に解明できる日がくるとは到底考えられないほどです。

 そこでひとつ考えられる事を述べるとすれば、現在の巻名、巻数に落ち着くに当たって、後世の人の手が加わっている可能性は大きいということです。つまり

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源氏物語ー融和抄ー五十四帖に秘された世界②

源氏物語ー融和抄ー五十四帖に秘された世界②

 語り手によって様々な印象を与える『源氏物語』ですが、それとは全く無関係だと思っていた、ある書籍に目を通していた時のことです。索引の表を見ていると、目が止まる人名の数々。もしや?と期待は高まり、その索引を引き続けた結果、期待は確信に変わりました。

 その本は、福岡県、現在の那珂川市に伝わっていた伝承をまとめた『儺の國の星』、著者は真鍋大覚。その伝承の実態は、物部氏あるいは安曇族という古代氏族に関

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源氏物語ー融和抄ー五十四帖に秘された世界①

源氏物語ー融和抄ー五十四帖に秘された世界①

 平安時代、ちょうど紫式部や他の女流文学者達が活躍した中期頃には、観音信仰が流行し、特に石山寺や初瀬寺にはこぞって参詣していました。
 初瀬寺(長谷寺)を訪れると、今でもたくさんの歌碑があり、往時の様子が伺えます。
 始めは貴族を中心に広まりましたが、次第に庶民へも広がっていきました。

 今回のお話は、光源氏が亡くなった後、柏木と女三の宮の間の子薫と、光源氏と明石の君の間に生まれた明石の姫君が入

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源氏物語ー融和抄ー横笛の秘密

源氏物語ー融和抄ー横笛の秘密

 光源氏の好敵手頭中将の子柏木は、光源氏の正妻となった女三の宮の姿を、御簾がめくれ上がった拍子に見てしまいます。それ以来抱いてしまった恋心を抑えきれず一線を超えてしまい、女三の宮は懐妊してしまいます。
 光源氏は事情を察してはいますが、自身もまた父である当時の桐壺帝の寵妃、藤壺の宮と子を成した(後の冷泉帝)経緯があり責め立てることも出来ず、時間だけが過ぎていきます。
 そんな中柏木は自身が犯してし

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源氏物語ー融和抄ー住吉の神の導き

源氏物語ー融和抄ー住吉の神の導き

 宮城県塩釜の鹽竈神社には、塩土老翁という海の神様が祀られています。日本の神話に海幸彦山幸彦の話がありますが、山幸彦が海幸彦から借りた釣り針を海に落として失くしてしまい困っていると、竜宮の王に相談してみなさいと、竜宮城まで案内をした神様です。一般的に航海の安全を守るなどのご神徳があります。

 光源氏が下向した須磨・明石の風情を読むと、塩を焼く描写があります。海辺はどこも同じようだったのか、それと

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