【牧水の恋の歌⑥】君を得ぬ
君を得ぬいよいよ海の涯(はて)なきに白帆を上げぬ何のなみだぞ
思いつづけていた人と、やっと結ばれた牧水。心は惹かれあっているのに、なぜか体の関係を拒みつづけてきた小枝子が、年末年始の旅行を承諾してくれたのだ。二人は、千葉の根本海岸で明治四十一年の初春を迎えた。感慨と感激と感動と。まさに三つの感極まる歌と言っていいだろう。
君を得た! という初句の簡潔な言い切りが印象的だ。『万葉集』の「われはもや安見児(やすみこ)得たり皆人の得難にすとふ安見児得たり 藤原鎌足」(私は安