アメリカ製保健室|毎週ショートショートnote
「えーと……」
私の戸惑う様子を察したのか、男子生徒は「3年7組の大崎です」と早口で名乗った。いつも授業をサボりに来る生徒ではなく、至って真面目そうな生徒だ。体調不良だろうか。
「どうかした?」
大崎は何も言わず、さっきから私の肩越しをじっと見ている。振り向いてその視線の先を追うと、棚の上に飾ってある小さな黒い石に辿り着いた。
「先生、あの石は?」
「あれは……前任者が置いて行ったものね。アメリカから輸入したらしくて、ご利益が減るから、ここから動かすなって言われたわ」
「ご利益?」
顔をしかめた大崎は、ようやく私に視線を合わせた。
「先生、確か赴任して半年でしたよね? ここにいて何か異変は感じませんでしたか?」
「異変? さぁ、特に感じないけど……」
そう言い終わる前に大崎は立ち上がり、石を両手で持った。
「ご利益なんてとんでもないですよ。悪や魔を呼び寄せる元凶です」
意味が分からずに口を開けていると、大崎は石を閉じ、囁くようにお経のような言葉を発した。
「この石は僕が預かりますね。心配要りませんよ」
***
それからしばらくして、
――不登校だった生徒が学校に来た。
――病気で長期入院していた生徒が退院した。
――○○部が全国大会に出場することになった。
などのいいニュースが続いた。
そして、なぜか私はクビを言い渡された。
学校を去る直前、大崎とすれ違った。
お互いに何も言わなかったが、すれ違う直前、大崎がニヤリと口元を歪めたような気がした。
(了)
たらはかにさんの企画「毎週ショートショートnote」、今週のお題は「アメリカ製保健室」でした。
学校以外のネタにしようと思いましたが、「保健室」という時点で無理でした…。
先週のお題は「ドローンの課長」でした。
ありがとうございます!(・∀・) 大切に使わせて頂きます!