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忙しさの気晴らしは、古書店の冒険で

最近、ずっと忙しい……。
集中力なんて持続しないから、いっそ気晴らししようと腰を上げた。

そんなことは言い訳とか詭弁だとか言われても、私、もう止まらない。
お出かけである。行き先は神保町の古書店めぐりだ。

Amazonやネット書店で本が購入できる手軽さは嬉しいけれど、書店巡りの楽しさはやっぱり格別。目的本があろうとなかろうと、そこにはさまざまな出会いがある。
知らない本を見つけ、知らない面白さや楽しさに出会えるワンダーランドなのだから。

普通の本屋さんもいいけれど、古書店巡りは冒険である。
お宝ハンターの昂揚感で本を物色。収穫無ければショボンだけれど、いろいろ見歩く探検魂は満たされる。

東京神田・神保町界隈は、多くの古書店が集中する聖地である。悲しいことに年々古書店は減るばかり。この界隈もご多分に漏れずではあるが、お目当ての店は幸いながら健在だ。


堂々たる矢口書店


何はともあれまず矢口書店に足が向く。シナリオ本や映画関連本はここで決まりだ。古書店というより専門書店の位置づけかな、私の中では。

矢口書店のあとは書泉グランデマニアなフロアを堪能し、次に一番のお楽しみ・八木書店へと赴く。



近代文学本なら八木書店
。ここを見ずには始まらない。
ぶらりと足を運んだとはいえ、お目当てはいつも頭の中に焼き付いている。ここで探したいのは初版複刻本だ。初版ではなく、初版を完全再現で複刻した本である。



お得で嬉しい初版複刻本★


初版複刻本の古書はホンモノの初版本より安価、初版本より発行年が新しいため「美品」レベルの古書が期待できる。一石二鳥のお得本なのだ。

前回の記事で、ネット古書店で購入した夏目漱石の『四篇』と谷崎潤一郎の『春琴抄』を紹介した。これら初版復刻本は装丁の美しさが命。ネットで根気よく探してはいるものの、現物を見て買いたいに決まっている


八木書店では作家別の棚を丹念に探した後、初版複刻本のコーナーをギラギラと物色。熱い視線で見倒すのである。ネットで常に「SOLD OUT」の谷崎潤一郎があればと願っていたが、やはりなし。でもこんなものを見つけた。

購入後、我が家のリビングにて撮影


田山花袋たやまかたい『田舎教師』の初版複刻本だ。本の厚さは4センチもある大判。まるでお菓子の箱のようなケースに、本がすっぽり収まる珍しい仕様である。


ケースはこんな風に開ける。
中に本が収まっている。

表紙のタイトル部分が凝っている。
タイトルは金の箔押し。
火垂のイラストが風情あり


絵画風の扉絵もキレイ


田山花袋たやまかたいといえば、私は蒲団ふとんを心底愛している。『蒲団ふとん』の初版複刻があれば多少高額でも絶対に買うだろう。いや、喉から手が出るほど欲しい

でも花袋かたい先生ご自身は、『蒲団ふとん』よりも数段『田舎教師』を愛し推され、もっと評価されて然るべきと願っておられた

花袋かたい先生、お気持ちはわかります。
でも私、蒲団ふとん』を無視するなんてできませぬ。

こんな記事も書いておりますゆえ↓



『田舎教師』は今回はパスと思ったが、こんな立派な装丁でしかも美品。なのにたったの500円。驚愕の500円! 
こんなの買わなきゃ女がすたる。

そして室生犀星むろうさいせいの『性に目覚める頃』も購入。

カバーと本の表紙の模様が美しい。カバーにタイトルは書いてあるが、本の表紙にタイトルなしという珍しい装丁だ。


『性に目覚める頃』
表紙には紋章のような模様のみ



表紙は青一色で赤のアクセントが効いた金の箔押し模様。青色が退色していて残念。2,000円也。

これで2,000円だから、『田舎教師』500円はすこぶるお得だ。




ファン多し! 洋食屋キッチン南海★


午前中めいっぱい書店徘徊した後のランチは、キッチン南海がお決まりコースである。ペコペコお腹にズドンと効いてほわっと美味しい。

いつも行列のキッチン南海。
並んでも食べたい洋食


カツカレーで有名なキッチン南海
だが、私はチキンカツ生姜焼きにした。
この店は行列待ちの真っ最中に注文をとりにくる。早めに注文を聞いて早めに厨房で用意。案内されたらさっさと食べて出て行くのが流儀。だから並んでいても流れるように自分の順番がやってくる。


とにかく安い。
そしてすごいボリューム、
もちろんお味もナイスな
町の洋食屋さん


写真では普通量に見えるが、
とんでもない量!

ランチを食べた後に書店巡りもう一巡して、
お茶するのはお決まりの
「さぼうる」




オマケでご披露、手持ちの複刻本★


今回購入した本はちょっと地味だったかな。収穫品としてはまあまあというレベル。
最後にオマケとして、手持ちの初版複刻本の中からお気に入りの谷崎と漱石をワンセットずつ紹介させていただこう。

まずは谷崎の『春琴抄』。前回は黒漆塗り本を紹介した。今回は朱塗りの漆塗り本をお披露目したい。残念ながらまたまた夫の所有本

夫のヤツ、朱色の漆塗り本まで入手していたとは。表紙が違うだけで中身は同じ。彼、私に自慢したい様子がダダ漏れである。写真撮影させてもらうことを条件に、入手武勇伝話にお付き合いした。

漆塗りが美しいなあ。ホレボレ……。
この本自体、すでに工芸品としての品格あり
でも古書なので値段は安い。本の状態によって値段の差こそあれ、安価である。



こちらは大好きな装丁の夏目漱石本より、『吾輩は猫である』3冊セットの初版複刻本。漱石本は装丁の可愛さではピカイチだ。イチピカだ。

背表紙も味のある上中下3巻セット


上中下それぞれの扉ページ。
猫の版画が美しくてお茶目

『吾輩は猫である』の初版複刻本は、初版と同様にページの下部が仕上げ断ちされていないアンカットと呼ばれる仮製本。読むときにペーパーナイフで裁断する楽しみが残されている。きれいに裁断できないと涙……。


本文ページの版画にもウルウル



写真でおわかりいただけるだろうか。
本の上部が金色である。これは天金と呼ばれるもので、金箔が施されている。豪華じゃないか。泣かせるじゃないか。

『吾輩は猫である』3冊セットは初版の本物であれば200万円はすると聞いた。恐ろしや。

でもこれは初版の複刻本。さらに古書ということで、私は3冊セット5,000円で入手している。古書の状態も「美品」レベル
ああ、ああああああああシアワセ。

いつまでも麗しき愉しき癒やしの趣味に呆けてられない。
さっさと切り上げて仕事にもどれ、ワタシ。