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海と山に囲まれ神仏妖かしが蠢く和歌山県のご当地怪談本『紀州怪談』(田辺青蛙著)著者コメント+収録話「妖怪の瓶詰」試し読み

熊野、高野… 神仏、妖かしが巣食う和歌山県のご当地怪談


★トークショー&サイン会開催!

和歌山各地で収集した怪談・民話などをホラーテイストでまとめた1冊『紀州怪談』(竹書房)発売記念!
著者田辺青蛙さんと、ゲストに九度山・真田ミュージアム名誉館長北川央先生をお招きしてのトークショー&サイン会を開催します。
ここでしか聞けない制作秘話やご当地怪談の裏話をお楽しみに。

■イベント概要■

日時:2023年6月25日(日) 14:00から
会場:TSUTAYA WAYガーデンパーク和歌山店内 スターバックス前イベントスペース

※参加方法など詳細はこちらをご覧ください
 

あらすじ・内容

海と山に囲まれ様々な妖怪や不思議が息づく和歌山、魅惑の裏ガイドブック

熊野、高野の深山幽谷から海辺、市街の幽霊譚まで、
ホラー作家・田辺青蛙が紀伊半島各地の怖い話を発掘したご当地実話怪談集

「和歌山は妖怪の木乃伊が多いんだよ」各地に鴉天狗や人魚、雷獣が… (「人魚の思い出」より)

幼い頃、和歌山の古寺に住んでいた大叔父に連れられて見た人魚の木乃伊――。ホラー作家・田辺青蛙が、原体験から手繰り寄せた紀州・和歌山の怪異奇譚の数々!
・印南町にきた行商人から買った肉を食べ…「旅商人の肉
・ある日突然、庭先に転がる何百もの蜜柑「みかんの神
・瓶詰になった怪しい代物「妖怪を売る男
・分厚いアルバムが落ちていて中身を見ると…「虫喰岩
・登山道にあるたくさんの能面、そして現れた女が…「面の森
そして、熊野街道を辿り紀南へ修行に来ていた陰陽師・安倍晴明の伝説とは!
海と山に囲まれ様々な妖怪や不思議が息づく和歌山、魅惑の裏ガイド!

著者コメント

 和歌山の橋本市に親戚の寺院があったので、そこによく遊びに行っていた。
 私は幼い時は大阪の天下茶屋に住んでいたので、南海電車に乗って車窓の景色を眺めながら季節の移ろいを感じつつ和歌山に通っていた。
 小さい頃、薄暗い寺院での体験や聞いた話が、未だに私の心を強く捉えて離さない。
 いつかそんな和歌山での思い出話を元にした幻想小説を書こうかなと思っていた矢先のことだった。
『大阪怪談』シリーズでも大変お世話になった北川央先生が、大阪城天守閣の館長職を退任されて和歌山、九度山・真田ミュージアムの名誉館長に赴任されていたことを、MBSラジオ『茶屋町怪談・アカデミックナイト』の収録時にお会いした時に知った。
 その縁で、北川先生のお誘いで、事故物件住みます芸人の松原タニシさんと共に和歌山に行こうということになった。
 そして北川先生達のご厚意で、和歌山内の様々なスポットを案内していただいただけでなく、九度山町役場・産業振興課・商工観光係の方から地元に纏まつわる不思議な話の資料をいただき、お話を伺うことができた。
 そんな時に絶妙なタイミングで、竹書房から『紀州怪談』の執筆依頼がきた。
 それだけでなく過去にゲストとして参加していた『和歌山文芸フェスティバル』で知り合った戸部信夫さんの紹介で、和歌山市田辺民話の会の皆さまとも繋がることができた。
 こういった経緯からか、いわゆる怖い話だけでなく民話的な不思議な話もこの本には多く含まれている。
 海と山に囲まれた和歌山の魅力を、この本を通じて少しでも感じていただけたら嬉しい。

本書「はじめに」より全文抜粋

試し読み1話

妖怪の瓶詰  (田辺市)

「妖怪の瓶詰があるから見にいこうよ」そう私に声をかけてくれたのは誰だったか……。
 白浜町にある南方熊楠みなかたくまぐす記念館に、ホルマリンに漬けられて瓶詰めにされた妖怪が展示されている。その妖怪の名は「ウガ」と言い、昭和四年(一九二九)六月一日に昭和天皇に熊楠がキャラメル箱に入った粘菌と共にウガを見せた記録が残っている。

 熊楠はこのウガの標本をとても大切にしていて、地震があるとまずこの瓶が倒れていないかと心配になって確認したそうで、南方熊楠「ウガという魚のこと【追記】」『南方熊楠全集2』(平凡社 一九七五年刊行)にはこのように記載されている。

 一昨年〔大正十三年〕六月二十七日夜、田辺町大字江川の漁婦浜本とも、この物を持ち来たり、一夜桶に潮水を入れて蓄い、翌日アルコールに漬して保存し、去年四月九日、朝比奈春彦博士、緒方正資氏来訪された時一覧に供せり。これ近海にしばしば見る黄色黒斑の海蛇の尾に、帯紫肉紅色で介殻なきエボシ貝(バーナックルの茎あるもの)八、九個寄生し、鰓、鬚を舞してその体を屈伸廻旋すること速ければ、略見には画にかける宝珠が線毛状の光明を放ちながら廻転するごとし。この介甲虫群にアマモの葉一枚長く紛れ著き脱すべからず。尾三つに分かれというは、こんな物が時として三つも掛かりおるをいうならん。
 この「ウガ」という妖怪、海の中では紫色の光を発し、尾の先に玉がついている。
 その玉を船に付けると大漁になるそうだ。

南方熊楠「ウガという魚のこと【追記】」『南方熊楠全集2』(平凡社 1975年刊行)

 田辺市の海では時折「ウガ」が現れ、熊楠の標本にならってか、捕らえようとする者が度々いたらしい。一人か二人は成功したらしいが、いつの間にか瓶から抜け出てしまい、中にはするすると天に昇って行く姿を見たという。

 先日、記念館に「ウガ」の瓶詰を見に行ってみたところ、ホルマリンのせいか色が白く抜けていた。体は細長く、先にぴらぴらとした尾のような物が幾つか花びらのようについていた。
 紫色の光を発し、竜が珠を抱く姿で泳ぐとも言われている「ウガ」。
 熊楠はどんな気持ちで眺めていたのだろうか。

 後日、田辺市在住の方から「ウガ」に纏わる話を一つ聞くことが出来た。
 その方は「ウガ」は人頭蛇身でとぐろを巻く姿の神、宇賀神のことではないかと思っているそうだ。
 その理由はというと、海で一人泳いでいた時に、沖合に笑っている顔の人がいて手招きされたので、誰か知り合いかと思いそこまで泳いで行った。すると、その笑っている顔の人の首から下は長い紐のような体で、ばちゃばちゃと白い飛沫しぶきを上げながら凄い速さで遠くまで泳いであっという間に見えなくなってしまった。
 凄い物を見てしまった怖さで体が強張こわばってしまったが、必死の思いで岸を目指して泳ぎ、海岸についた時にその人は力尽きてしまった。
 慌てて泳いだせいか海水を沢山飲んでしまい、喉が渇いて声が出なかった。
 その後、家に戻ってから酷い熱を出し、何度か吐いてしまったそうだ。
 夜更け過ぎに目を覚ますと、天井に海で見た体が細い紐のような笑顔の人の顔がとぐろを巻いて張り付いていたので、悲鳴をあげてしまい、家中の人が起きて集まって来た。
 そこで擦れた声で天井を指さして、異形の存在がいることを伝えた。
 集まった家族全員が天井の方に顔を向けると同時に異形の姿は、天井から網戸の隙間を伝ってするすると外に出て行ってしまった。
 その姿を家族全員が目にしていたが、漁師の手伝いをしていた兄があれは天皇陛下も見たという「ウガ」の姿ではないだろうかと言いだし、学校で似た者の姿が無いか翌日調べてくると言った。
 そして兄が学校の図書館の本の中で見つけた、夜天井で見た異形の姿に似た者というのが「宇賀神」の像だった。なので、その人は「ウガ」は宇賀神のことだと思っているそうだ。

 私は記念館の「ウガ」は見たことはありますか? と聞いてみたところ、恐ろしくて見に行く気になれません。あの海上で見た笑顔が今もまぶたの裏にハッキリと焼き付いているので……とその人は答えた。

―了―

◎著者紹介

田辺青蛙 (たなべ・せいあ)

『生き屏風』で日本ホラー小説大賞短編賞を受賞。
著書に「大阪怪談」シリーズ、『関西怪談』『北海道怪談』『魂追い』『皐月鬼』『あめだま 青蛙モノノケ語り』『モルテンおいしいです^q^』『人魚の石』など。
共著に「京都怪談」「てのひら怪談」「恐怖通信 鳥肌ゾーン」各シリーズ、『怪しき我が家』『怪談実話FKB饗宴』『読書で離婚を考えた』など。

シリーズ好評既刊

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☑#紀州怪談プレゼント をつけ、紀州怪談の画像を添付してツイート

☑6月5日 12:00まで!

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