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メモ 政治学は公務員の汚職をどのようなモデルで説明するのか?

一般に公務員は高い倫理意識を維持することが期待されていますが、彼らも普通の人間であり、何らかの程度において利己心を持っています。最初は職務を通じて、国や地域に貢献しようと理想に燃えていた若者であっても、5年、10年と経験を積むにつれて、職務に対して報酬が見合っていないと不満を感じるようになると、あるきっかけで汚職に手を伸ばすようになることがあります。

政治学、特に政治経済学の分野で公務員の不正行為のモデルの基礎を確立したのはBecker and Stigler(1974)でした。これは彼らは、公務員の賃金の水準と不正行為が発覚したときに受ける懲罰の費用という二つの要因から、公務員の不正行為が増加したり、減少したりするというモデルを考えています。

もし汚職を行って、それが発覚すれば、その公務員は職を失うことになるでしょう。つまり、公務員として受け取っている給与などの報酬を失うことになるのですが、その損失はあくまでも不正行為が発覚した場合に発生するものなので、極めて発見が難しい不正行為の手法を編み出したのであれば、期待される損失は、不正行為から期待される利益を上回らないかもしれません。また、公務員の職を失っても、民間企業の賃金水準が公務員のそれよりも高いのであれば、それも不正行為の発覚を恐れなくなる一因になる恐れがあります。

この理論で想定されるのは、いわゆる怠業モデルであり、公務員に限らず労働者は最小限の労働で最大限の収入を得ようとするという行動パターンです。このような想定を踏まえると、公務員の汚職を防止するには、単に公務員の意識を改革するだけでは不十分であり、彼らの職務状況を監視するという情報的コストを引き受け、不正行為の期待収益を引き下げた上で、民間企業の従業員に比べて公務員の賃金水準があまりにも不利にならないように調整しなければなりません。

日本の地方公務員を対象にした総務省の調査では、最も一般的な汚職は横領と収賄であり、金銭的な利益を追求して汚職が行われていることが分かっています。汚職の形態としては土木・建築工事の施行に関するものが多いのですが、この形態の汚職も給与水準の引き上げで防ぐことが期待できることが示唆されています(米岡 2020)。行政各部で勤務する公務員を汚職から遠ざける上で給与に注意を払うことは重要です。また、このような知見が、軍隊における規律を維持する方法を考える上でも有効であることも指摘しておきます。

参考文献

Becker, G. S., & Stigler, G. J. (1974). Law enforcement, malfeasance, and compensation of enforcers. The Journal of Legal Studies, 3(1), 1-18.
米岡秀眞. (2020). わが国の地方自治体における汚職の要因分析. 年報行政研究, 55, 100-120. https://doi.org/10.11290/jspa.55.0_100

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