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【東京オリンピック始末期】今後、オリンピックを見る目が変わる

オススメ度(最大☆5つ)
☆☆☆

〜強くオリンピックに反対する1冊〜

あれだけ開催の是非で世間が騒いだ「東京2020オリンピック」だが、今ではその話題を聞くことはほとんどない。しかし、コロナ禍で「強行された」とも言える「東京2020」を「もう終わったもの」としてしまっていいのか?
本書は「東京2020」に限らず、オリンピックの存在意義そのものを問うものである。

ちなみに、僕自身、「東京2020」の開催については「どちらかというと反対」という程度の意見しか持っていなかった。そもそも、僕がスポーツに興味が無いということも大きいのだが、オリンピックはある種の「お祭り」だという認識である。そんな「お祭り」を、こんなコロナで大変な時期に、わざわざ多くの人とお金を割いてまでやる意味はあるの?というぐらいの意見であった。

本書はオリンピックを否定する熱量が凄まじく、「どちらかというと反対」という意識だった僕が読んでも少し目眩がするほどだった。
しかしながら、強くオリンピックに反対する人は何を理由に反対しているのか、を知ると、少しオリンピックというものに対する見方が変わる。

著者のやや過激とも言える意見から、毒にも薬にもなり得る一冊だと思うが、「東京2020」における世の中の動向に少しでも疑問を持つ人は、一度読んでみてもいいだろう。


〜ココが変だよオリンピック〜

さて、もともとオリンピックにそこまで興味のなかった僕が本書を読んでいて、新たに知ったことをいくつか書き出してみようと思う(そんなこと何回も報道されてたよ!ということも含まれてるかも知れないが、オリンピックに関するニュースをほとんどスルーした僕が知らなかっただけのことなので、悪しからず)

まず、IOC(国際オリンピック委員会)はただのNGO/NPO(非政府非営利団体)であり、ただのオリンピックの興行主である、ということ。

バッハ会長の日本政府に対する態度などを見ると、ものすごい権力を持った組織なのかと勘違いしていたけど、いわばただのオリンピック主催者という立場だったわけだ。なのに、一国の政府を相手にして「緊急事態宣言があっても、開催する」「日本の首相が反対しても、それはただの個人の意見だ」など発言し、強弁をふるう姿はたしかに違和感がある。「IOCが言うのなら、やるしかないのか」という空気も少なからずあったように記憶してるが、IOCの言うことに日本政府が押される筋合いはどこにもなかったわけだ。
IOCの強気な態度にも、言いなりとも思える日本政府の態度も、ものすごく違和感があった。


次に、「東京2020」の負債は思いの外大きいことだ。

たかが、1ヶ月ほどの「お祭り」のために、いくつも競技場を建設して、オリンピック終わった後、これ、どうするんだろう?と思っていたが、これらの維持費・運営費でかかる負債はかなり大きい。
実際、1998年に行われた長野オリンピックの負債は完済したのが2018年であり、20年間オリンピックの負債に悩まされていた。
同規模の負債を4年ごとに世界中のあらゆる場所で作り続けるオリンピック。もちろん「お祭り」なので、お金がかかることは理解できるが、やっぱりコロナ禍の東京において、「そんなに無理してやることだったのか?」という疑問は拭えない。


〜「スポーツの力」という曖昧なもの〜

本書の中で特に印象的だった言葉が「スポーツウォッシュ」という言葉だ。
不況や不安がある中、「スポーツの力で人々を元気にしよう!」というようなスローガンを掲げ、社会の問題を無かったことにしてしまう、または解決したことにしてしまう、そんな状況を皮肉めいて表現した言葉だ。

すごく冷酷なことを言えば、「スポーツの力」で現実の問題は何も解決しない。しかし、オリンピックのような大きなイベントではしばしば耳にする言葉だ。
特に「東京2020」においては「スポーツの力でコロナを乗り越える」みたいなことを言われていたが、オリンピックが終わったって、コロナは収束しなかった。

これは別にオリンピックに限った話じゃない。
「スポーツの力」「音楽の力」「アートの力」。
様々な文化が、現実を忘れさせるために使われている。
もちろん、実際にスポーツをするアスリートや作品を作る芸術家に罪があるわけではないと考える。彼らは自分の生業の中で出来ることをやるべきなのだ。
問題はそれらを「力」という曖昧な表現で、社会的・政治的に利用する輩がいる、ということだ。

「平和の祭典」は「平和になるための祭典」にはなり得ない。
本当に政治的に独立した「平和の祭典」であるためには、世界が平和でないと成り立たない。無理に4年に1度やる必要なんてないと思う。

オリンピック、というものの存在意義を考え直す1冊であった。

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