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【きこえる】(ネタバレあり!)音声で楽しむ新しい読書体験・蛸文の回答

オススメ度(最大☆5つ)
☆☆☆☆☆

最近ハマってる道尾秀介さんの最新作。五つの短編からなる本作は、各物語の最後にQRコードがあり、そこから得られる音声を聞くことでそれまで読んでいた物語の意外な真実が判明する、という「耳」を使った新感覚ミステリー小説だ。
いけない「いけないⅡ」の系譜とも言える。
たしかに他の小説では味わえない新感覚であり、小説を読まない人でも一つの謎解きエンタメとして楽しめるだろう。
とはいえ、「いけない」シリーズと同じく、最後の音声にあきらかな正解が示されているわけではなく、音声をもとに読者がある程度推理をしなければならない。この、推理のための余白が絶妙でほんとに楽しい。

今年のベスト候補にあがるぐらい、かなり物語に没入した。正直、この物語の謎を考えて仕事も全く集中できなかったほどだ(笑)

というわけで、今回じっくりと味わった本作をネタバレ全開で僕の回答をお示ししたい。
未読の方は絶対にこれ以上読まないように。




注意!ここからネタバレです!!


第1話 聞こえる

最初の音声から夕紀乃のつぶやく声がCDの音源から聞こえたように思えたが、最後の音声を聞くとそれはヘッドホンから聞こえた声ではなかった。
(本文通りに読むと、その声は良美の頭の中から聞こえた声ということになるが、本当に良美の頭の中の声なのかはわからない)
ともあれ、夕紀乃の声はヘッドホンの外側から聞こえたものであり、重要なことを伝えている。
「これから来る人はお父さんじゃない。その人に殺されたんです。ヘッドホンを外してください。聞いてください」
これから来る人、というのはすなわち、父を名乗り良美に会いにきた男。良美自身はハッキリと顔を覚えていなかったが、見たことのある気がする人物であった。
夕紀乃の葬儀場にいた喪服の人々の中にいた顔なのだろう、と良美は察し部屋に男を招き入れるのだが、おそらくこの男は田上家の玄関口で女性の弔問客に声をかけていた人物である。男は父親のフリをして良美の部屋から夕紀乃の荷物を回収するためにやってきたのである。
そして、本文の最後で長野ナンバーの軽トラックでやって来た2人の男女が夕紀乃の本当の父母だと考えられる。
夕紀乃の荷物を取りに来た父と母は、一つ残らず荷物が無くなった夕紀乃の部屋を見てどう思うのか。そして、その事実に気付いた良美はどうするのか…。


第2話 にんげん玉

タイトルの「にんげん」という字が裏返っていたり、コインの裏表の話があったり、本作は裏と表がひっくり返る仕掛けがあるのだろうと想像する。

その仕掛けは最後の音声にあった。
本文を読んでいると、老いた男がたまたま参加した投資セミナーの講師としていた寺門徹を見つけ、彼が過去の女性教師殺人の犯人であることを思い出し、トイレで寺門徹を脅迫する、というように思えるのだが、これが大きなミスリードとなっている。
音声を聞くと、脅迫しているのは若い男の声、脅迫されているのが老いた男の声であり、実際には寺門徹が老いた男を脅迫していることがわかる。そして、過去の女性教師殺人の犯人もこの男だろう。
そして、この老いた男の正体は殺された女性教師の生前に交際していた数学教師Sである。これは、寺門徹が「計算は得意でしょ?」と男に言う場面や、最初の点呼の場面で「シンカワ」のすぐ後に名前を呼ばれたこと、何より最後の老刑事の一言「元教師が元教え子をねぇ…」が根拠として挙げられる。

つまり、この話は、寺門徹が元数学教師Sを投資セミナーで発見し、Sを脅迫。その報復としてSは寺門徹を刺殺した、というのが真相なのである。

Sはなぜ女性教師を殺害したのか。それは当時高校生だった片野徹と女性教師が関係を持っていたからだと考えられる。交際していたSは交際中の女性教師の住むアパートから徹(高校時点では片野性徹が出てきたところを目撃し、犯行に及んだものと推測できる。

と、これが大まかな正解で大丈夫だと思うのだが、この話は細かく読むともっと色んな秘密が隠されてそうである…。

一点よくわからなかったのが、Sが寺門徹に渡すために用意したハズの100万円を握りしめながら「何でもできる」とつぶやいた場面、ここの意図だけよくわからなかったのだけど、誰かわかる人コメントください(笑)


第3話 セミ

最後の音声は時間的には本文(十一)の終盤。この音声を耳にしている主はセミである。
毎日十時に呼び鈴を鳴らして秀一の家に来ていたセミは、ひどい言葉を浴びせられた翌日も十時に秀一の家に来ていた。そして、その同じタイミングで部屋で寝込んでいた秀一は、祖父母と父母が会話するテープをラジカセで聞いていた。
中盤にある音声を聞いていたらわかるように、秀一の父母の声はかなり小さく聞き取りにくいのに対して、ラジカセの近くで話をしていた祖父母の声はかなりハッキリ聞こえる。外からこの録音を聞くセミには祖父母の声しか聞こえなかっただろう。
セミはそれが録音だと知らず(セミはテープの話は聞いていたが、テープそのものは聞いたことがない)、その声が家の中で秀一の祖父母が話をしているものだと勘違いした。
そして、そのセミに聞こえた祖父母の会話を要約すると、
「心臓移植でしか治らない病気だ」
「莫大な金がかかる」
「皆川さんとこの聖矢君のをもらってくるか」
「こないだ会った時、もういらないって言ってたし」

中盤の録音を聴いた人ならこの会話が、
「心臓移植でしか治らない病気だ」
「莫大な金がかかる」
→秀一の父の病気の話

「皆川さんとこの聖矢君のをもらってくるか」
「こないだ会った時、もういらないって言ってたし」
→秀一のオムツの話

であることはわかるのだが、祖父母の声しか聞こえないセミにはこう聞こえる。

「心臓移植でしか治らない病気だ」
「莫大な金がかかる」
→秀一が重い病気にかかっている


「皆川さんとこの聖矢君のをもらってくるか」
自分(セミ)の心臓の話

「こないだ会った時、もういらないって言ってたし」
→自分(セミ)は、親にももういらない子だと思われている。

こうした勘違いしたのであれば、セミの最後の行動も説明できる。
死を決意し、遺書を残して自分のお金を秀一にやり、治療費の足しにしようした。秀一の車に乗り込み、自分が死ぬことと引き換えに秀一に心臓を渡すため、親から逃げ急いで病院に向かおうとした。

つまり、セミは散々ひどいことを言われ、親からも見捨てられ(たと勘違いして)、絶望の中にいながらも、最期に自分の命を犠牲にして秀一を救おうとしたのである。
そして、その意図に気付いた秀一は「なんて馬鹿なんだ!」と言いながらも、嬉しさでいっぱいになっていたのである。


というのが一応の正解で良いかとおもうのだが、なんとなく腑に落ちない点もいくつかあり、完全な正解である自信は無い。
何かこの解答で見逃している点があればぜひ教えていただきたい。


第4話 ハリガネムシ

この最後の音声はかなり心臓に悪かった。

本文中の「人生やり直すのを…手伝ってください」という高垣紗耶の声が2回目の「手伝ってください」で急に大きくなる。
これは、高垣紗耶が盗聴マイクに向かって言ったと考えられ、「手伝ってください」という言葉が、盗聴をしていた塾講師の"僕"に向けられていたものだということになる。
すなわち、USBアダプタが盗聴のためのものだと高垣はわかっていた。そのため、マイクの近くで船や生命保険の話をして、盗聴先にある"僕"に家庭の事情がわかるようにしていたのである。

そうなると、最後の田浦の殺人の推理における共犯者は"僕"ということになる。何よりの証拠はラストシーンで"僕"自身でUSBアダプタを捨てたこと。これは高垣紗耶から直接USBアダプタを受け取ったことを指す。


第5話 死者の耳

「耳」で楽しむミステリー、って言いながら最後だけこれはズルくない!?
と思わずつっこみたくなったのだが、まぁとりあえずそこはあまり強く言わないでおくことにする。

さて、本文の中で示された謎は以下の通り。
・滝沢鐘一は本当に自殺だったのか。
・鐘一の遺体はなぜ元妻に預けたアトリエの絵と同じポーズになっていたのか。
・怜那と飯田は何を話していたのだろうか。
・怜那はなぜマンションの窓から飛び降りたのか。


最後の音声の後半、2分ほどで全てが明らかになる。

まず、怜那と美歩が電話を切った後、怜那と飯田が会話が聞こえる。
ここで2人が共謀し鐘一を自殺に見せかけて殺そうとしており、ウイスキーに睡眠薬を入れて炭素ガス自殺に見せかける計画を立てていたことがわかる。美歩に録音させたのは、飯田の名前が録音に残ってしまったことに動揺している様子から、自殺した現場を怜那自身が見つけたかのように偽るための2人の計画の一部であった。
しかし、この会話の中で①サイレースという睡眠薬は水に溶けると青く変色することを2人は知らなかった、②アトリエの絵と同じポーズで遺体を残すことは2人の計画には無かった、ことに気がつく。
そして、最後、怜那が計画を遂行するために窓を開けて自分に言い聞かせている時、急に映像が動き出し、なんと倒れていた鐘一(と思われる人物)が起き上がり、光の方(窓と思われる)へと歩き出すシーンが流れる。

この音声(+映像)から導き出されるのは、まず怜那が家に入った時、鐘一は眠っているフリをしていた。そして、怜那のスキを見て玲奈を窓から突き落としたことである。
鐘一はなぜ眠ったフリをしていたのか?それは、いつも午後4時のウイスキータイムで鶴のボトルからウイスキーを注いだ時に、ウイスキーの色が青色に変色していたことに気付いた。サイレースが水に溶けると青色になることを、怜那と飯田は知らなかったが、当然その薬を定期的に飲んでいる鐘一は知っている。ちなみに、美浜たちの捜査で直近の鐘一に色覚異常の症状は無かったことも判明しているため、青いウイスキーを見分けることは可能である。この青いウイスキーを見た時、妻の怜那がウイスキーに睡眠薬を混入したことにすぐに気がついただろう。
これは推測だが、鐘一は「なぜ妻は自分のウイスキーに睡眠薬を入れたのか?」を知るために眠ったフリをして妻を待ち構えていたのではないだろうか。そして、不倫相手と計画されたものだと知り、そのまま妻を殺害した。
そして、その後妻に裏切られて絶望した鐘一はアトリエと同じポーズで自殺した。

つまり、本文で示された謎は以下のように回答出来る。

・滝沢鐘一は本当に自殺だったのか。
→自殺である。しかし、妻を殺害した後である。

・鐘一の遺体はなぜ元妻に預けたアトリエの絵と同じポーズになっていたのか。
→本文にも出てきた通り、遺書として書かれた絵と同じポーズで本人が自殺したため。しかし、その遺書は元妻に理解してもらうため。
(元妻に手紙を書いていたのは、まだ元妻に鐘一が未練があったからだと考えられる。しかし、残念ながら元妻は夫の絵を一枚も見たことがないので、美浜たちの訪問が無ければその絵を目にすることも無かったかもしれないのだが…)

・怜那と飯田は何を話していたのだろうか。
→鐘一を殺害する計画について。

・怜那はなぜマンションの窓から飛び降りたのか。
→眠ったフリをしていた鐘一に突き落とされた。


と、これが一応の正解で良いかと思う。

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