見出し画像

【感想文】雁/森鴎外

『岡田元結もっとい

本書『がん』読後の乃公だいこう、愚にもつかぬ雑感以下に編み出したり。

▼あらすじ:

金貸しの末造すえぞうが妻に内緒でお玉というめかけを持ったけどアホみたいなきっかけでそれがバレてしまい妻が地雷系メンヘラ女子に変貌する一方でお玉は医学生の岡田にベタボレしたんだけど結局彼はドイツに行っちゃったからお玉の恋は成就しなかったよ可哀想だよねっていう「僕」の回想録。

▼読書感想文:

本書は人情モノの落語である。[感想文・完]

▼余談 ~『雁』は人情噺か否か ~

前述の根拠を説明する前にまず、落語における「人情噺にんじょうばなし」について触れておくと、人情噺とは『寿限無じゅげむ』『まんじゅうこわい』といったいわゆる滑稽談ではなく、世情・人情を主軸に置いた噺がそうであり、例えば『芝浜』『文七元結ぶんしちもっとい』『子別れ』がそれに該当する。なお、『牡丹灯籠ぼたんどうろう』なんかは作中に幽霊が登場するため一見すると怪談噺ではあるものの、全体を通して男女の愛憎、親子の情愛が強調されているため、これも大別すれば人情噺である。で、私の場合、本書『雁』を人情噺として読んだ(黙読の際は全ての表記が六代目三遊亭圓生えんしょうの声で脳内再生されていた。圓生は人情噺の名跡めいせきだからだろう)。

それでは本書がなぜ人情噺かというに、前述の「▼あらすじ」に記載した様な悲恋&嫉妬の筋立ては、前述の人情噺の特徴に合致しており、さらに本書は人情噺あるあるの、

①男が俗物になりがち
②女性がメンヘラ化しがち
③恋愛は成就しないがち
④因果の報いを受けがち
⑤女性が死にがち

に該当しているからである。ただし、「⑤女性が死にがち」に関して「お玉は死んでないじゃないか!」という反論がありそうなので補足しておくと、たしかにお玉は死んではいないがその代わり、本書第二十三章で岡田の投げた石に当たった雁が死んでおり、この「たまたま石が命中して死んだ雁」と「たまたま知り合った岡田との恋に砕け散ったお玉」という境遇がカブっており、この場合、岡田は石の役目を果たす。なぜなら、岡田は医学生だから医師、つまり医師→いし→石へと変換できるからである。とすれば、お玉は岡田という石が命中して死んだようなものではないか。まあ雁のくだりのおかげで文学性が生じてしまったため一読して人情噺に思えないかもしれないがこれでどうにか説明はついた。

といったことを考えながら、以上の事から本書は「相思相愛の二人であったにも関わらず、岡田は知らず知らずの内にお玉を殺してしまった悲恋な人情噺」だと考えて差し支えは、これ、もう、ホントに、一切、ない。

以上

この記事が参加している募集

読書感想文

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?