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【感想文】佐々木の場合/志賀直哉

『信者ビジネスをやりたい方は必見!』

▼あらすじ

「僕と女中のとみがイチャイチャしてたせいでお嬢さんが大ヤケドを負ってしまい以降の富は尼僧にそう同然に改心したそうだがそりゃあ僕だって良心の呵責はあったけどそれ以上にやっぱり僕は富とイチャイチャしたいんじゃあ!文句あんのかあ!」的な佐々木からの手紙を読んだ友人がドン引きする話。

▼読書感想文 ~ 信者ビジネスをやりたい方へ ~

本書『佐々木の場合』を読んでふと思ったのは「信者ビジネス」「情弱ビジネス」「ファンビジネス」といった最近流行している謎のビジネスモデルである(この三点はどれも似たようなものなので以降は信者ビジネスに絞って説明する)。たしかに、本書に登場する佐々木と富は、当初から金銭上の利害関係はなく、佐々木も営利目的で富に近づくわけではない。が、強者・佐々木と弱者・富の気質から考えるに、信者ビジネスの仕組みに置き換えることができる。

◎各人物の特徴:
佐々木は、生来の気質なのか若さゆえの推進力なのか知らないが、富によらず他者の心境を一方的に決めつけたりととにかく強気で傲慢な行動者であり、たまにちらつく道義心&犠牲心なんかじゃ制御できないほどの「イキり」がある。富はというと、佐々木が「弱虫」と断定しているように弱者のコンテクスト満載であり、佐々木との会話における「強虫さん」「お利巧」「キッスだけよ」という彼女の言葉からは、完全な依存とまではいかないが佐々木への色恋とは異質の媚びがあるように思われ、彼の強気な姿勢に圧倒されて徐々に蹂躙じゅうりんされている様にも見える。で、その両者に割って入るお嬢さんは富を窮地から救う役割を果たしている(※後述)。あと、佐々木の友人は冷静な態度でドン引きしてる(※後述)。ってな感じで、ここまでに述べた各人物の特徴を踏まえて信者ビジネスに適用してみる。

◎信者ビジネス成功の秘訣:
成功の秘訣は「他者の意志を制御できるかどうか」、つまり「自分が絶対に正しいと思わせられるかどうか」に懸かっている。
弱者(富)は意志が無い。仮にあったとしても弱い。私から見ても富は馬鹿だと思う。ここに強者(佐々木)の付け入る隙がある。謎の自信に満ち溢れている強者は、弱者に対してまず「弱虫」「馬鹿」と罵っては自信喪失させておき、反面、物置小屋で逢引きすることで喪失した自信を埋めてやる、つまり弱者を認めてやるのである。これを繰り返すことで「意志薄弱の馬鹿な富を受け入れてくれるありがたい佐々木」と錯覚させることができ、弱者の意志は強者に委ねられ、あとは思うがままである。

◎弱者に共通する傾向:
知的マウントを取ってくる者もそうだが、あらゆる分野において強者と弱者は一定数存在する。弱者一同に共通するのは物事に対する「判断力」と「洞察力」が著しく欠けていることであり、なぜなら自分に自信が無いからである。己の意志で物事を見極めたくないから強者に依拠(=マル投げ)しているともいえる。なるほど、これは何も考えなくていいから非常に楽チンだろう。マウントばかり取って来る者に不快感を示すのではなく、不思議とありがたがる者が存在するのは「楽チンだから」なのかもしれない。で、その結果、うさんくさい情報商材&クラウドファウンディングに大金をブッ込んで、誤った知識や二束三文のバックをありがたがる者が後を絶たないのは、強者の強引な知的操作と弱者の堕落した料簡がガチっと噛みあったからだろう。強者が意志を制御することで弱者が盲信から抜け出せない状態、これでは人間の姿をしたただの木偶でくではないか。なんだかホスト狂の女や共依存カップルと同じ理屈になってきた。

◎弱者が意志を取り戻すケース:
とはいえ、弱者が意志を取り戻すケースも当然あって、例えば、本書の様な劇的な展開(大ヤケドしたお嬢さんのために富みずから尻の肉を提供するくだり)が身に起これば、自身の意志を取り戻して佐々木からの誘いを断固拒否することもできる。なお、本書ラストにおいて手紙を読み終えた友人が、富を <<従順な弱い性質>> 、佐々木を <<強さの欲情>> と評価しているが、こうした平等な態度で物事を判断できるこの友人は、何にも毒されない割とマトモな人間だと思う。

といったことを考えながら、対話型AIに「私も信者ビジネスで荒稼ぎしたいんだけど素質はありますか?」と入力したら「お前じゃムリ」という回答が表示された。

以上

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