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谷郁雄の詩のノート29

スニーカーの靴底がすり減り、ずいぶんくたびれてきたので、新しいのを買いました。新しいスニーカーで、ランチのあとの散歩がてらに高円寺駅前にある氷川神社に寄ってみました。小さな聖域。ここに来るのはひさしぶりです。粗末な木のベンチに座りぼーっと過ごす時間が好きです。見るともなく、お参りにくる男女を眺めます。みんな何をお願いにきたのかな? お願いが叶うことを祈ります。これからぼくは、新しいスニーカーとともに新たな日々のページをめくっていきます。たぶん、そんなに長くはない人生の残りのページを。元気を出して、さあ歩こう!(詩集「詩を読みたくなる日」も読んでいただけると嬉しいです)


「新種」

人間の
野原に生まれ
君は
風にそよぐ
一本の草

名も無き
草たちの
仲間

ある日
君は摘み取られ
新種の草として
標本にされるかもしれない

みんなに
見られ
不自由な思いを
味わうことになるだろう

野原が
恋しくて
泣き出すだろう


「秩序」

女の人のことは
いまも
よく分からない

見ることも
さわることも
愛することも
できるのに

近くて
遠い
向こう岸へと
ぼくは
憧れの虹を
架けたいと願う

女の人の
小さな手が
カップをつかみ
持ち上げる
本のページに
命を吹き込む
世界が
小さな秩序を取り戻す

ほんとは
どんな音楽よりも
生きている
女の人の声を
聴いていたい
濡れたり
乾いたりする
やさしい声の響きを

女の人の
心が
見えない悲しみ

けれど
ともに
生きていくことができる
喜び


「木の枝」

当たり前のように
口にしていた言葉

「やあ、はじめまして」

けれど
その言葉の
隠された意味を
思い知るのは
ずっとあとのこと

ともに
歩んだ日々の
思い出の
あれこれを
木の枝にひっかけて
ぼくらが言うとき

「じゃあ、さよなら」

©Ikuo  Tani  2023


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