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谷郁雄の詩のノート40

週に2回ほど行く高円寺。その高架下にはさまざまな飲食店がひしめき合っています。この食堂もその一つ。前から気にはなっていましたが、入ったのはつい最近のこと。「米」という漢字が大きく印刷された暖簾が食欲を刺激します。調理場をコの字に囲むカウンター席だけのシンプルな造りの酒場食堂。ふむふむ、さて、何食うかなとお品書きを眺めるぼくは、さながら「孤独のグルメ」の井之頭五郎さん。(詩集「詩を読みたくなる日」他、好評発売中)



「火の玉」

寒さを
ものともせずに
ママチャリを
ぶっとばす
若いお母さん

不安や
悔しさや
怒りを
ごちゃまぜにして

無敵の
火の玉になって



「恩寵」

明日は
見えないけど
今日は
真理の光に
満ちている

そんなに
心配しなくても
いいのかもしれない
明日も
若者は恋をするだろう
子どもは
全力疾走するだろう
年寄りは
居眠りするだろう

けれど
人は悲しみ
人は死ぬだろう

恩寵のように
降りそそぐ
明るい光の中で

それぞれの
明日を思って



「道具」

鉛筆を
ガリガリと削り
言葉を紡ぎ出す

削られて
鉛筆は
短くなっていく

消しゴムを
ゴシゴシとやり
言葉を闇に葬る

ゴシゴシされて
消しゴムは
小さくなっていく

二人とも
ごめんよ
たまには
君たちも
詩に登場させるから

©Ikuo  Tani  2024


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