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谷郁雄の詩のノート16

これは猫バスの停留所です。うちの近所にありますが、変な場所にあるので誰も気づかず、猫バスに乗る人はほとんどいないようです。ぼくもしばらく待ってみましたが、日が暮れて寒くなり、乗るのは諦めました。みんなが寝静まった真夜中にバスはこっそりやってくるのかもしれません。乗った人がいたらお知らせください。今回はちょっとした非常事態が発生し、詩が二つしか書けませんでした。何度もかみしめて味わってくださいね。(最新詩集「詩を読みたくなる日」絶賛発売中)


「木登り」

子どもは
木に登って
遠くの国を
見てみたかった

そこにも
喜びや
悲しみが
暮らしていて

学校や
テストや
恋があって

木の上から
こっちを見ている
子どもが一人
いるのでしょうか?


「ぼくの手」

汚れた食器を
洗った手で
鉛筆を握り
思いを言葉に記し
詩のようなものを一つ

この手で
これまで
してきたこと
良いこともしたし
良くないこともした
人に言えないこともした

いつか
この手で
人を傷つけることだって
ないとは言えない

手は
憶えている
火の熱さ
雪の冷たさ
乳房のやわらかさ
ナイフの刃の鋭さ
小鳥の軽さ
好きな人の手のぬくもり

今日も
ぼくの手は
いろいろな物にさわり
いろいろなことをして
世界を小さく変えていくだろう

ときどき
手と手を合わせて
どこかにいるかもしれない
神さまに祈ったりして

©Ikuo  Tani  2022


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