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谷郁雄の詩のノート38

年の瀬の東京は青空続きの心地よい日々です。巷ではインフルエンザが猛威をふるっていて、病院の待合室には人があふれているようです。年の瀬とくれば年末ジャンボ宝くじ。今年は1等前後賞合わせて10億円。幻のような10億円よりポケットの中の千円札を大切にしたいと思います。夢がないなぁ~。noteも年内最後の更新です。皆様よいお年を。(詩集「詩を読みたくなる日」他、好評発売中)



「ティッシュ」

ポケットから
ティッシュを
取り出して

涙を
拭くのかと
思ったら

いきなり
思い切り
鼻をかむ女の子

大丈夫
生きていくから
という意思表示



「地図」

方向音痴の
あなたのために
地図を描く

いまはもう
なくなった
ケヤキの木や
居心地のいい喫茶店を
懐かしみながら

はい
これと
紙切れの地図を
手渡す
駅はココだよと
指差して

光の中を
歩いていく
細い背中を
見送る

うまく
描けただろうか
愛すべき
平凡な街の
似顔絵



「蕾」

気が小さくて
いつも
聞き役ばかり

聞いてほしいことが
あるのに
誰にも言えなくて
心の中に
隠し持ったまま

蕾は
成長し
いつか
大きく開花するのだろうか

私の話を
聞いてくれる
やさしい人の
心の中で



「一匙」

太宰も
中也も
賢治も
遠くから
挨拶するだけがいい

死んで
文庫本に
なってしまった
作家や詩人たち

日々が
幸せすぎて
物足りなく
感じたら

彼らの不幸を
一匙
分けてもらおう

©Ikuo  Tani  2023


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