学校

私が勢いで全寮制高校の先生になった結果(教員編)

自宅警備員有力候補として、実家の家族と緊迫関係に陥っていた私。その状況から打破すべく私が選んだ職業は、なんと全寮制高校の教員であった。昼は授業に部活に翻弄され、夜は度々起こる不自然なものの移動や物音に悩まされるなど、始まった教員生活は多忙と波乱を極めていた。

これはポンコツ高校教師だった私が体験した、少し変わった教員生活の記録である。

③新卒女教師を狙い撃ち 時代錯誤な懇親会

それは、新人教師たちの歓迎会として開催された懇親会での出来事である。

私は会が始まって早々、先輩の先生方からお酌を受けるなどの一連の動きに対応できず、尚且つ飲みの席の勝手がわからず慌てふためいていた。次々お酌に来る先生方、対応するために慌ててビールを飲むという流れが何度も続けられた。

後から同期に聴いた話だが、あの時私の所にだけ異様な回数のお酌が来ていたらしい。6人いる新人の中で唯一の新卒女子という状況、面白がって飲ませたくなる先輩がそれだけ多かったということだろう。期待に応えたいところではあったが、生憎私はアルコールに強い体質であるためそう簡単に潰れたり、乱れたりすることもなく唯々注がれた酒を飲み続けていた。

すると、「断れない新人に飲ませ過ぎじゃないですか?しかも彼女は女の子ですよ。」と、お酌をしている先輩教員の手を誰かが掴んで声を荒げていった。

声の主は私と同じ新人教員の女性であった。彼女は私より10歳も年上であったが、気さくで初日から親しげに声をかけてくれた親切な人だ。そして、学校にいる誰よりも正義感が強く、己が間違っていると思えば、先輩相手でもたじろぐ事なく進言することが出来る芯の強い人でもあった。

彼女の進言もあって、私はその後お酒を注がれることがなくなった。ただ、そうなると今度は別の教員から「男性の上司や先輩方、新人教員にお酒を注いで。女の仕事だよ。」とビールやお茶などが数本入ったかごと栓抜きを持たされ、男性の教員たちの席を周り歩くことになった。

いくら常識知らずの私でも、上司のお酌をしないのは失礼に当たることは理解していた。しかし、その先輩は私に「男性を優先して」お酒を注ぐように指示を出してきたのである。女性の上司もいる中で、男性を優先するという彼の発言はなんだか時代錯誤で、早くも「現代社会における新しいリーダー」を育成するという学校の特色との乖離を感じてしまったのである。

そんな違和感やもやもやを胸に感じたまま、結局私は先輩に言われるままヘラヘラとお酌に回っていたのである。

④衝撃!学校内窃盗事件

二学期の終わりの出来事である。私は、学校で開催されるクリスマス会の準備で昼夜問わず駆け回っていた。

当時、この学校では全寮制という単調な生活に刺激を与えるため、年に何度も文化発表会が盛大に催されていた。クリスマス会もその内の一つであり、私は教員側の準備委員として生徒とともに連日衣装や小道具の買い出し、食事の打ち合わせを行っていた。

勿論その間、私の荷物はすべて職員室に収められていた。貴重品も連絡用の携帯電話以外は全て職員室の個人ロッカーの中に収められていた。今でも不思議なのだが、その学校は何故か教員用の机やロッカーにもカギは付いていなかった。山奥の学校で盗みなどが入る心配もなく、さすがに教員個人のロッカー(人目につく位置に設置されていた)を勝手に開ける不届き者もいないだろうという楽観的な理由だろうと今となっては推察されるが、当時は何も考えず当たり前のようにそのロッカーに貴重品も収めていたのである。

クリスマス会まであと三日という頃、事件は起こった。

その日、私は生徒とお菓子の買い出しに車を使用する為、職員室のロッカーから免許証の入った長財布を取り出そうとしていた。

すると次の瞬間、朝までは確実に入っていた長財布が忽然と姿を消していた。学校に出勤する前、コンビニに行き公共料金の支払いを済ませていたことから鞄には間違いなく入っているはずだ。

私は頭が真っ白になりながら、買い出しを他の先生に頼み、親しい同僚にも懇願して自宅から車、自分が管理している教室までとにかく学校中のあらゆる場所を探し回った。私たちの常軌を逸した慌てぶりに、そのうち何人もの生徒が好意で一緒に学校中を探し回ってくれた。

教員の中でも、特に懸命になって一緒に探してくれた先輩がいた。私の右隣に席がある一歳年上の男性教師である。彼は無口ではあるものの、生徒対応で困っている私に助け舟を出して下さったり、他教科にも関わらず研究授業に来てアドバイスを下さったりと何かと親切にしてくれる優しい人で、今回も私が慌てている様子を見て誰よりも早く声をかけてくれていたのである。

やがて、日も暮れ外の気温が徐々に冷え込んでくる頃に一人の生徒が声を張り上げた。

「先生、あったよ!!これじゃない!?」

生徒が見つけた財布は、まさしく私のものであった。鮮やかな黄色と施されたダークブラウンの刺繍が特徴的な私の財布。。。

私は、恐る恐る財布の中を開いてみることにした。まず初めに飛び込んできたのは保険証と運転免許証である。よかった、これで最低限身分の保証はできる。そう思ったのもつかの間、クレジットカードと入っていた現金がなくなっているではないか。

現金とカード以外は財布を草むらの陰に潜ませるようにして置いていたことから、金銭目的で財布を誰かに盗まれたのだろう。私は頭を鈍器で殴られたかのような衝撃と寒気を覚えた。状況から察するに、財布を盗んだのは学校内の人間であることが明白だ。

それから何日か、私を含め数人の教員が財布の窃盗に遭っていたことが発覚していた。その度に財布を探しては現金がなくなっているという事態が続き、教員たちが財布を自分の車などで保管するようになったころ、解決の糸口が見えないまま冬休み期間に入っていった。


時は過ぎ3学期が始まると、右隣にいたはずの先輩教師の机が空になっていた。

私は教頭と校長に呼び出され、右隣の先輩が犯人であったことを静かに告げられ、学校の評価に影響するから犯人の教師を解雇する代わりに示談にするように強く求められたのであった。

安全であるはずの学校で、信用していた先輩教員に財布を盗まれ、挙句に学校の世間体の為に示談にするよう強く求められたのである。

この出来事をきっかけに、私のくすぶっていた学校に関する疑問点や不満は、学校への強い不信感となって姿を現したのであった。


あとがき(2019.08.12追記)

これは衝撃的な出来事でした。飲み会に関しては、どんな職場でもある程度高齢な先輩がいればよくある話なのかもしれませんが、もし私がアルコールに弱い体質だったらと思うとゾッとします。

財布の窃盗については、実は後日談があるので本日まとめさせてもらえればと思います。

窃盗の件に関しては、正直盗った先輩教師よりも事態を把握した上で完全に隠蔽しようとする学校の姿勢の方がショックでした。私は、財布に1000円程度しか入れていなかった上に、その場でクレジットカードは止められたので被害も少なかった訳ですが、中には5万円以上盗まれてしまった人もいたので被害届の提出すら拒否されたのは学校の姿勢としてあるまじき行為だったんじゃないかなと、今でも思っています。

では、また次回お会いしましょう。

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