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藍色の空とサンタクロース

藍色の空に我慢の限界。だが、満足だった。

彼女のいない男達はある日に集まりたがる。

クリスマスの夜だ。シングルベルな21歳。

当日は 焼き鳥のチェーン店 鳥貴族にいた。

友人の1人 佐藤が言った。

「サンタは、いないな。」
「はい、他責。そら、彼女出来ないわ。」

他の友人が佐藤に豪速球で雪玉をぶつけた。

12時を回ったクリスマスの鳥貴族には
殺伐とした空気が流れていた。

4人テーブルに突っ伏した男達。
飲みかけの赤ワイン。
焼き鳥でクリスマス気分を味わい潰れた。

豪速球の雪玉が響いたか
佐藤が神妙な面持ちで話し始める。

「そうか、もうプレゼントを貰うのではなく
   プレゼントや幸せを配る側になったのか。
   俺達はサンタにならなくちゃいけない。」

そして、佐藤は凛とした顔である提案をする。

「日の出、見ようや。渡月橋で。」
「何で?」

「写真撮って、Twitterにあげる。
 クリスマスの日の出良くない?」

「みんなには爽やかな朝を
 迎えてもらうのはええな。乗るで。」

徒歩2時間。京都の紅葉名所の嵐山がある。
そこの有名な橋の名前が渡月橋だ。
綺麗な朝日も見える。

酒店で籠いっぱいの酒とスナックを購入。
コンビニで各自好きなホットスナック購入。

見習いサンタ達の冒険が始まった。

缶酎ハイを飲みながら、話し、歩く。
ワインを回し飲み。クリスマスチャンポン。
大き目の袋の持ち手を肩にぶら下げ、歩く。
サンタ気分で深夜徘徊だ。

桂川の河原に行き着いた。進めば、渡月橋。
1時間は歩いただろうか。

流石に疲れたので、一旦休憩することにした。
外で飲むと、音楽を流したくなるのだ。

河原に座りながら、その年人気だった
Back Numberのクリスマスソングを流す。
河原なので、家も近くにない。大丈夫だ。

佐藤が表現力◎の身振り手振りに
また大声で歌っている。最終的に大合唱に。

サンタ達の冒険は突如、危険に侵された。

河原に面した道に赤いランプの着いた車が
のっそりと現れ、そこそこ近い所に停車。

「やべえ、逃げるぞ。」

酒とおつまみが入った袋を握りしめ
僕達はとにかく渡月橋に向けて走った。

袋に入った空き缶がカラカラと響き
袋自体もシャカシャカと音を鳴らす。

乱痴気サンタクロースは桂川を駆け回った。

「誰も追って来てないな。勘違いかな。」

暫く走って、冷静になって振り返る。

とりあえず、騒ぐのは辞めた。

すると急に佐藤が下半身を
むずむずさせながら何かを言い出した。

「俺さ、●の気分。桂川でかましていい?」
「マジか。少なくとも桂川はやめとけ。」

「するなら、shit (嫉妬)だけにしとけな。」

 僕は言った。

「何それ?」佐藤含め僕の顔を覗き込む。

僕はその前の年に留学をしていたのだ。

渾身の留学帰りジョークは
寒風が有耶無耶にしてくれた。

「今日は寒いな。」

佐藤が続ける。

「我慢するわ。いい子にしてないと来年彼女出来ない。」
「お前、まだ貰い癖抜けてへんぞ。」
「サンタがいい子しても良くない?」

冷たい空気が僕達の酔いを
飛ばしてくれたようだ。

シラフの僕達はただ黙って
いい子に渡月橋まで歩く。

空を見上げると
朝を迎えんようとする藍色の空に
月が朧げに鎮座していた。

渡月橋に到着。

空は藍色のままであるが
少しずつ明るくなって
来ているのが分かる。

僕達は幸せを配るのだ。

皆が朝日を目に刻もうと
橋に身体を押し付けて
空を眺めていた。

移りゆく空が僕達の楽しい時間の
終わりを告げているようで寂しかった。

暫く空を眺め続ける。

藍色の空は
表情を一切変えようとしない。

皆が下半身をむずむずさせている。

僕達はいつの間にか佐藤と同じく
何かを催わしてしまっていたのだ。

僕達は佐藤の心意気に共感し
いい子サンタになることにしたのだ。

全てを流す場所までには
結構距離がある。諦めた。

藍色の空に浮かぶ月は
嘲笑うがの如く
僕達に朧げな姿をちらつかせたまま。

もう僕達の袋は我慢の限界。
 
空を見上げる力もなくなり 
僕達は腰を落として桂川を覗いていた。
 
橙色の神光がようやく微かに顔を出した。

みんなへのプレゼントをこの手に収めた。

あわてんぼうのサンタクロース 
おしあいへしあい 駆け出した



↓ご紹介。


今週はとらねこさんの文豪へのいざないと
共同マガジンの企画の同時参加を出来ればと思っています。
※同時駄目なら、文豪へのいざないです!

文豪へのいざないの企画は「藍色の空」
共同マガジンの企画は「思い出に残ったクリスマス」です。

藍色の空を想起した際には、夜更かしして
朝を迎えた日の事が思い返されます。

藍色の空は徐々に時間をかけて、朝を迎える印象です。

あの日、渡月橋に何かを求めて歩いたのは事実で
それを創作として少しばかり脚色はしています。

若干、お下品な文章で恐縮ですが、出来るだけ
直接的な描写は避けるようにいたしました。。

サンタになりたい。

高校生の時、そう思ったこともありました。

インターネットで調べると
公式サンタクロースになるには
体重120kg以上が必須なようで
そっと夢とサイトを閉じました。

↓以下は企画と過去作品です。宜しければ。


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