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シン映画日記『バビロン』初見

MOVIX三郷にてデイミアン・チャゼル監督最新作『バビロン』を見てきた。

 

1920年代後半から1930年代前半のサイレント映画からトーキー映画に切り替わって行くハリウッドの変換期と
サイレント映画時代に成り上がり栄華を誇った映画俳優、女優、プロデューサー、黒人音楽奏者、字幕担当、アシスタントたちの栄枯盛衰と時代のうつろいを描いたデイミアン・チャゼル版『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』。

メキシコ人のマニーはロサンゼルスで映画関係者が集まるパーティーの演出で使う象を届けにパーティー会場に訪れ、そこでスター俳優のジャック・コンラッドと駆け出しの女優ネリー・ラロイと出会う。マニーはジャックに気に入られジャックのアシスタントとして撮影所周りを動き回る。一方、パーティーである映画の主演女優があるトラブルで撮影に行けなくなり、代わりにネリーに代役のチャンスが回って来る。

宣材ポスターや紹介ではブラッド・ピットが主演というふうになっているが、
真の主人公はどちらかというとスター俳優のアシスタントから映画監督に成り上がるメキシコ人のマニーで、
これにサイレント時代のハリウッドの大スターであるジャック・コンラッド、
サイレント時代末期に突如現れ瞬く間にスターにのし上がったネリー・ラロイ、
この三人によるサイレント映画からトーキー映画への転換期のハリウッドにおける立身出世とサバイバルを中心にした群像劇。

映画は全体的にテンションが高く、中盤過ぎ、いや映画の3/4はど派手で下品な乱痴気騒ぎの連続。綺羅びやかなファッションにデイミアン・チャゼルの盟友であるジャスティン・ハーウィッツによるジャズを主体にした音楽をふんだんに散りばめ、サイレイト映画時代の毒気に満ちた栄華をたっぷりたっぷり見せる。
そこで上手いのは一見、乱痴気騒ぎの連続でアゲアゲに作られているようでありながらもパーティーシーンの後は必ず騒ぎの後の静寂や裏側、影を挿入し、ストーリーの動から静、そしてまた動に移り、展開に大小の波を意識的に付けることで189分全く飽きない展開になっている。このあたりはこれまでに音楽に特化した作品を次々と作ってきたデイミアン・チャゼルらしい脚本術と言えよう。

この乱痴気騒ぎに呼応するかのように
マーゴット・ロビーの弾けぶりが凄まじい。
バーカウンターの上で踊るは、パーティーでも叫び踊りまくるばかりでなく突如とち狂った提案をしながら自ら率先してやり遂げたり、最後まで目立ちまくる。
このネリー・ラロイは女優クララ・ボウが実在のモデルと言われているが
どちらかというとスクリューボール・コメディの名女優キャサリン・ヘップバーンのような弾けっぷりとも感じられた。

さらに、
ルイ・アームストロングや黒人ブルース奏者をモデルにした黒人トランペット奏者シドニー・パーマーや
サイレイト映画の字幕担当者でアジア系のレディ・フェイ・ジュー、
ジャーナリストのエリノア・セント・ジョン、
そして後半に現れる暗黒街の住人ジェームズ・マッケイなど、
綺羅びやかに輝くハリウッドの縁の下や裏側の住人を散りばめることで
表の顔であるジャック・コンラッドやネリー・ラロイをより輝かせたり、退廃の溝に引き込んだり、栄枯盛衰をサポートする演出となっている。

それと、本作は全体的に
D・W・グリフィスを抜きには語れない。
映画のタイトルである「バビロン」はグリフィスの『イントレランス』の「バビロン篇」から由来しているし、
映画制作の舞台となる坂道・丘は
後のグリフィス天文台が建つ元の地ではないかと思われる。
そう考えると、
夕陽を受けてのコンラッドと女優の撮影は
『ラ・ラ・ランド』にも通じるし、
ラストシーンのパートの手法も『ラ・ラ・ランド』の終盤のシーンにだぶり、
デイミアン・チャゼルらしさが伺える。

また、これは今後要研究事項になるが、
本作の下品なスカトロや見世物小屋的な描写にうっすらとピエル・パオロ・パゾリーニ監督作品の『ソドムの市』がまぶされている。
が故に、わりと見る人を選ぶ映画になってしまい、アカデミー賞の主要賞へのノミネートを逃したかなとも考えられる。

それと、本作はおよそ100年前に起きた映画界の転換期を描いている。
それはサイレイトからトーキーへの転換ではあるが、
現代の映画界を取り巻く変化・転換と考えると、
やはり、映画館での上映からストリーミング配信での公開という
映画を見せるフォーマット、映画館存亡の危機でもある。
その意味としての『バビロン』は意味が大きく、重い。
また、およそ100年前からの
女性監督の活躍や黒人トランペット奏者、
LGBT描写など不思議と現代にも通じる描写も見逃せない。

終盤の『雨に唄えば』の大胆な拝借や
『サンセット大通り』、『イントレランス』、『ハリウッド・レヴィユー』などの名画へのリスペクトを感じ取りつつ、
後の『ラ・ラ・ランド』や『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』に繋げる
映画の都・ハリウッドの狂気と毒気に満ちた在りし日を堪能させてくれた。

(※随時更新予定)

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