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📖夏目漱石『夢十夜』第七夜

蒸気船に乗っていた〈語り手〉が、最終的に「無限の後悔と恐怖」を抱きながら、黒く冷たい海へと飛び込む話であった。甲板で話しかけてきた宣教師に「あなたは神を信仰しますか?」と問われた際に、沈黙していたのが印象的である。

個人的な所感

『夢十夜』の中で、私が好きなのは第七夜である。意外に思われるかもしれない。第七夜には何の救いもない。〈語り手〉が海に飛び込んで、”終わり”なのだから。そういう点では報われない話であり、とても好きになれそうもない。

が、私はそこに漱石の恐怖心を見出す。漱石が自身の体験として、神を失った近代人の恐怖を描出しているように感じる。それこそ、ニーチェの思想を思い出す人もいたのではないだろうか。また、人によっては、ドストエフスキー『悪霊』のスタヴローギンの独白を思い出すかもしれない。

ともあれ、私はそこに共感し、そして安堵した。漱石も同じような不安を抱えていたのだろう。そう察して、なんとなく安心したのだ。

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