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Q.あなたは誰? A.ストリート建築家

自己紹介をしてください、と言われたら、大抵の場合は所属する、または所属していた学校、会社、団体を述べたり、肩書や役職がある人はそれについて説明することが多い。このnoteで筆者は"横浜黄金町の建築家"と名乗っている。一般には建築家という肩書を名乗るよりも一級建築士という取得資格名を伝えた方がよく通じたりする。一口に建築家といっても、YoutuberやInstagramarのように近年は色々なタイプが存在する。”建築家”という肩書に馴染みのない人は多いと思うので、筆者を紹介する前に、流行りの建築家タイプを簡単にまとめてみる。

・これぞ王道、親族や師匠が有名建築家であるサラブレッド系
・建築設計だけでなく不動産や店舗の企画運営までする商売上手系
・国内外の芸大美大出身でアートコンテストで賞を取る美術系
・内装設計やデザイン事務所の延長で建築も設計する延長デザイン系
・家具職人や大工仕事の延長で設計も担うようになった職人系
・ITやAIなどの先端テクノロジー等と建築を結びつける流行先端系
・会社組織に所属しながら個人で事務所を持つ副業系
・会社に担ぎ上げられインハウス建築家として表に立つ会社広報系

などざっと見てもこれほどある。この中でいうと筆者は副業系に見切りをつけ、美術系に憧れつつ、自分でものづくりを始めた職人系、だけど食えなきゃ始まらないので色々やる商売上手系。(※筆者は建築家成り立て🔰なので今後の予定も含みます。)と、いうように詰まるところ雑食系なのだ。"雑食建築家"とは少し聞こえが悪いのでここでは"ストリート建築家(仮)"として紹介してみよう。

"建築家"という言葉を身近に感じるようになったのは2007年の六本木の展覧会「スキン+ボーンズ-1980年代以降の建築とファッション」を観て以降になる。当時、文系学部に通う大学生であった筆者が美大生の友人に勧められて訪れた展覧会だった。展覧会場には服と建築模型が並び、模型に添えられたキャプションには建築家の名前と、建物の場所が記されていた。建築家だけでなく建築模型も当時の筆者にはあまり馴染みなく、模型の緻密さや建物としての規模に圧倒されると共に、見た目にも社会的な影響力としてもこれほど大きなスケールの物を作り出し、個人名で社会的な責任を取り続けるのは相当な天才か狂人かなにかだろうと驚いたのをよく覚えている。恐れ多くもあり、当時二十歳の筆者には、"建築をつくる"側になる、とは到底思えなかったのだが、その展覧会を見て以降、建築について度々考えるようになっていった。有り余る時間を使って建築に関する本を読んでみたり、建築を理解するには理系の素養が大事ということで、物理数学を勉強してみたり、近代建築の豊富な欧州や渡航費の安い東南アジアを旅して、各地の建築を訪ね歩いていた。大学の文系の学部である社会学部で、文化人類学というニッチな学問をかじっていたので、建築、ファッション、立体造形、構造美、という言葉が並ぶ世界は輝いて見えたのだと思う。結局、文系大学卒業後に再び理系の建築学科のある大学に学士編入という形で入り直し、今に至る。

そういうわけで建築の世界に飛び込み、かれこれ10年ちょっと経つ訳になる。その間に筆者の目にしてきた”建築家”と言われる人々の印象は、とにかく話をするのに忙しい人々だな、というものである。多くはラフなスケッチを自ら描いて、それ以降は、チームメイトに模型制作の指示を出し、クライアントやコントラクターと夜遅くまで話し続ける。その建築家自身がスケッチ以外に実際に何かを作るとすれば、多くはCGを部分的に作るか、図面を部分的にCADで描き、あとはプレゼンや交渉の準備にイラレやパワポを開く、という姿をどこでも目にした。建築学科を出て建築設計事務所で働く中で、いわゆる"建築家の仕事内容"が見えてくるにつれて、筆者の目の輝きも失われていったように思う。しかし、同時に外に目を向けて見ると、自ら実寸台の模型を作り、ドア一枚くらいなら実物までも作ってしまう様な建築家も稀ではあるが居ることも知った。例えば、海外ではジャン・プルーヴェは鍛冶屋として独立してから家具や建具を自らの手で作りながら、最終的にセルフビルドで自邸を制作した。去年、東京都現代美術館で彼の特別展も開かれていたので名前を聞いたことがある人も多いかもしれない。日本の巨匠では村野藤吾は内装の部分の実寸のモックアップを自らの手で作っていたと聞くし、最近の建築家では、スキーマアーキテクツの長坂常は家具制作や内装施工も自ら行うこともあるという。

設計だけでなく自らの手を動かし形を最後まで作り上げる建築家像を切り拓いた彼らを眺めながら自己を振り返っていた時、幼少の頃から動く機械の工作が好きだったことを思い出した。高校生の頃にはバイクやクルマなどの分解や改造にハマっていたこともあり、"機械的な仕組みの分解や制作"にある程度のバランス感覚を持っていたことに気がついた。いわゆる"建築家"の日常である机上でのスケッチや、CG、図面制作をすることだけではなく、"建築をつくる"ということを筆者は機械工作の延長と捉え直してみた。それ以降、内装施工や家具制作のセルフビルドという形の経験を積むことに踏み切ることができた。そうしてセルフビルドの制作と発表を実験的に繰り返す中で、自分なりの理想の建築家像がうっすらと見えてきた。それは建築に限らずあらゆるスケールの物の制作を請け負い、かつ、どの制作でもあらゆる段階で常に自ら手を動かし続ける"ストリート建築家"と言えるのかもしれない。


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