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【書評】途上国の人々との話し方 国際協力メタファシリテーションの手法 和田信明・中田豊一

サービスデザインをしている仕事柄、「インタビューをする」ということがままあります。「ユーザーは問題を認識していない。それをインタビューで掘り起こす」というのがインタビューの目的なのですが、今までとくにインタビュー術などのものをきちんと体系だてて読んだことはありませんでした。

結論から言うと、この本のインタビュー術は特筆すべきものでした。

著者は長年NGOにて途上国支援をしていた和田信明と中田豊一。中田が和田の簡単な質問から住民の当事者意識を見事に明らかにしたそのインタビュー術に感嘆し、その方法論を体系化したのがこの本です。

冒頭、中田氏は住民インタビューで「この村の一番大きな問題はなんですか?」という問にたいして、住民は「子供の病気が多い」、「特に下痢が多い」と答えます。そして「下痢が多いのはなぜですか?」と問います。住民は「清潔な飲水がないからです」と答えます。そして、井戸を作ることを氏自ら「提案」します。

井戸はつくられました。「ほったあとは住民がメンテナンスをする」という約束でした。しかし数年後、村に行ってみると井戸が使われていません。朽ちてしまっていました。

”なぜ?”と聞くのは間違いの始まり

このやり取りの間違いは、質問者と回答者がそもそも対等な関係性が結べていない非対称な関係性であることにあるという。わざわざ日本から人が来て、援助してくれる。当事者は実際そんなに困っている事があるわけではない(問題を認識できていない)のに、偉い人がきて、なにやらくれるという、そこで面目を潰すのもわるいので、相手が求めている答えを用意してしまう。つまり、回答者は自分の欲しいものを知らないばかりでなく、質問者が回答者に欲しがっていて欲しいと期待しているものを忖度して欲しがってみせてしまうという。将来なにになりたいかを問われた子供が、特になりたくもないのに、大人の求めている答え、「なにかしらになりたい」と答えてしまうように。

この本では、現地住民と対等に関係性を構築し、かつ彼らのもつ問題を簡単な事実を問う質問を連ねていくことで暴きだしていく和田氏の対話術、「メタファシリテーション」の方法が、氏の実践と、中田氏の根気強い体系化への執念から紡ぎだされている。

また、「近代化」とグローバル化する状況の中から、そもそも「貧困」とはなにかを考察しており、「貧しさ」が一体どういう状況のことを言うのかということを問いなおしてくれます。

今まで「貧困」=よくない、ぐらいにしか考えていなかった事へ、問題提起してくれる、新たな観方を教えてくれる、大きく「問題の問いなおし」を投げかけてくれる。そもそもの「問題設定」があっているのか?を考える上で非常に大きな示唆を与えてくれます。

この本を読むことで、インタビューや仮説の設定について、考えを改めざるを得ないほどの衝撃がありました。途上国支援の事と企業のコンサルティングは別物ですが、それを鑑みても、サービスデザイン、UXデザイン等に関わる人におすすめします。


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