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【こころ #17 / みみ #10】自閉症の息子から聴覚障害の課題解決へ

遠藤 彰さん


 障害者技能競技大会『アビリンピック』をご存じだろうか?障害のある方々が、日頃培った技能を互いに競い合うことにより、その職業能力の向上を図るとともに、企業や社会一般の人々に障害のある方々に対する理解と認識を深めてもらい、その雇用の促進を図ることを目的として開催されている(独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構HPより)。

 遠藤さんの息子さんはかつてデータ入力の競技で全国1位に輝き、その後、世界大会にも出場し、銅メダルを獲得された。


 遠藤さんの息子さんは自閉症で、対人関係が苦手といった特徴をもつ障害がある。「思ったことをうまく伝えられないし、相手が思っていることも想像できない。でも、集中力があるからコンピュータには向いているのか、小学3年生の頃からのコンピュータにめり込んで、自分で勝手に学んでいた」。現在、息子さんは、企業の特例子会社の社員として、得意なデータ入力の業務についている。


 ただ、このストーリーを美談で終わらせることは難しい。


 『アビリンピック』で全国1位になったとき、それで「良い就職口がくるかと思ったら、全く来なかった」。特別支援学校の先生方が、たまたま大会に足を運んでいた企業の採用担当者にあいさつ回りをしてくれた。その後、学校から企業に赴き何週間の実習を繰り返して採用担当の人が息子を買ってくれ、卒業後すぐに就職が叶った。遠藤さんはもちろん嬉しかったのだが、漏れた感想は純粋に「ラッキーだった」。それまで障害者雇用の実情を、いろいろ見聞きしていたからだそうだ。

 「コンピュータが得意でも一般業務につける子はほとんどおらず、だいたいが倉庫か掃除など裏方業務になるとは聞かされていました」。遠藤さんの息子さんは入社後、メールセンターでのシュレッダー業務や郵便物の仕分けの仕事に就いた。その1年後、『国際アビリンピック』に出場し、世界3位という結果を出せたこともあってか、数年後息子さんは得意のデータ入力の業務に就くことができた。「本人も喜んでいましたし、私もほっとしました。」


 「もともと障害に対する理解は何もなかったと思う。逆に、障害を斜めから見ているような人間だった」と正直に話された。でも、「息子に教育された」。息子さんのおかげで障害の世界に関心が向き、その世界を知りたいと色んな人に出会い、そのたびに知らない事ばかりであることに気づかされた。「息子が人生を変えてくれた」。

 遠藤さんは今、仕事でも聴覚障害者とダイレクトに接することが多いことから、NHKの番組やテキストで手話さえも学ぶようになった。

 遠藤さんは現在、『ピクシーダストテクノロジーズ』という会社で、職場での会議などにおいて聴覚障害者と聴者の間で聞こえの違いが起きずにコミュニケーションをスムーズにするため、誰が何を話したか、発信した“音”をリアルタイムに可視化する『VUEVO(ビューボ)』という製品を開発している。

 遠藤さんが取り組まれる『VUEVO』は、障害のある方々でも特性を活かして能力を伸ばせるよう“障害の有無に関わらず周囲の環境をフラットにする”ものだろう。


 遠藤さんのようにこういった製品の開発に挑戦するエンジニアが増えてほしい。どうしたら増やせるのか、遠藤さんにも尋ねてみた。「いろいろな当事者と触れ合い、友達になること、ではないですかね?私の場合、息子が障害者なので、いわゆる当事者。障害はいつも身近にあり、それが当たり前、それが1番の関心事でもある。そして、息子のことはいつも頭にあり考えている。例え当事者ではないエンジニアであっても、障害のことを理解し、当事者と知り合い、その人のために何かをしてあげたいと身近に思えてくるような機会があれば、一緒に挑戦してくれるのではないでしょうか。」


▷ ピクシーダストテクノロジーズ



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