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ヴィム・ヴェンダース「ベルリン、天使の詩」

「体の中の魂に優しい手が触れる」。
まさしく作中の科白が表現する作品である。
天使が覗く白黒世界と人々が生きるカラフルな世界。誰もが心の世界を持つように、天使の世界と人間の世界は切っても切り離せない。
二つの世界を「優しさ」が繋いでいる。見えない世界は見える世界のなかに生きている。あるいはそれを「愛」と呼ぶのかもしれない。
この作品の要素は簡単だ。「詩」、「音楽」そして「ビジョン」。それはベルリンに住む人たち、市井の言葉たち。楽しみ、喜び、憤り、哀しみ、不安のなかを天使たちが舞っていく。
ヴェンダースの浮遊するキャメラ。心の世界は言葉をもって現れる。誰もが小さな詩人たちであることをヴェンダースは肯定する。
人の心の世界を覗くことは時に楽しく、時にもどかしいほど虚しい。まるで「映画」を見ているような映画だ。人の心を覗き見するのは密かな楽しみがある。しかし見るだけの世界では何が起ころうと手助けはできない。
だからヴェンダースは人間の世界に彩りを持たせる。それは触れて、伝えられる世界。
やがて天使は人となる。あるロマンスに目覚めて。
誰かの心の隙間を誰かの存在が埋めるだろう。心は言葉となり心へと伝わる。その姿をまざまざと捉えるバーカウンターでの対話は、それまでふわふわしていたキャメラと違い、しっかりと固定される。
それは心が通じ合うためのショット。言葉が交わされる大切な時間。カットは許されない。
心の言葉は詩であり、詩は愛のかたちなのだから。

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