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残響/ハーレム/本屋/JAZZ (2016年3月)

私たちの生活にも大きな影響を及ぼすであろう、アメリカの大統領選挙。立候補者たちがしのぎを削っています。国内外に多くの不安を抱えるアメリカという大国が「壁を築く」のか「壁を壊す」のか、日々のニュースに注目しています。

中村寛さんが『残響のハーレム』(共和国)で描いたのは、9.11直後のニューヨーク・ハーレム地区で暮らす黒人のムスリム(イスラム教徒)たち。現在も黒人への差別と暴力があり、またアフリカ系アメリカ人と、近年アフリカから移住してきた人たちとの間には、同じムスリムであっても来歴の違いからくる衝突が存在します。
この本で一番印象が強かったのが、イスラム教に惹かれた理由に「平和」と答えた女性の言葉でした。他者を受け入れる困難さと、学ぶことでそれを乗り越えた時の楽しさを、自分にも身近なこととして受け止めました。

『残響のハーレム』で少しだけ触れられていますが、ニューヨークにはかつて、黒人が書いた、黒人についての本だけを売る店が存在しました。この書店をつくりあげたルイス・ミショーの生涯は、『ハーレムの戦う本屋』(ヴォーンダ・ミショー・ネルソン あすなろ書房)で知ることができます。「黒人は本を読まない」と言われていた時代に、様々な妨害にも屈せず、訪れる客に知識を得ることの大切さを伝え続けました。黒人解放の指導者として知られるマルコム・Xも、この本屋で学んだ一人です。

本を読むだけではなく、音楽を聴くことも、過去を学び現在を知るための有効な手段です。柳楽光隆さんが監修した『Jazz The New Chapter』(vol.1〜6 シンコーミュージック)は、21世紀以降のジャズの新しい動きを網羅したスリリングなディスクガイドです。同時代のロックやヒップホップを当たり前のように聴く世代が、時代と国籍とジャンルを全て飲み込んで鳴らすジャズ。ジャズの長い歴史と同時代のジャズに、ぜひ一度耳を傾けてみてください。新しい発見があるはずです。


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