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【分析レポート】『開幕戦で見えたアクティブの正体』~第1節ファジアーノ岡山VS栃木SC~


試合結果

2024 J2 第1節
2/25 13:00K.O. @シティライトスタジアム
岡山(3-0)栃木
36分 木村太哉
54分 グレイソン
90+7分 柳育崇

スタメン

最優先は前。
浸透感じる攻撃時の共通意識

岡山が攻撃時に狙ったスペースは、栃木の3バックの脇だった。

マイボール時、2シャドーの木村と岩渕の第一選択肢は、藤谷と福島の背後に抜け出していくこと。阿部と鈴木はボールを持つと、躊躇することなく2シャドーが走り込むスペースにパスを流し込んだ。受け手と出し手の関係性が非常にスムーズで、狙う場所とそこへの進入方法を共有できていたことを感じる。だからこそ、栃木が守備体形を整える前に3バックの脇を強襲し、先手を取った。受け手の木村と岩渕はフィジカル能力が高く、体に無理が利く。相手と競り合いながらマイボールにして起点を作り、確実に相手を押し下げた。3分に木村が、5分には岩渕が福島の脇をランニングで突いていく。30分には木村が福島と大森の間から田部井のスルーパスに抜け出してGKとの1対1を迎えた。

3分 木村が福島の外側から抜け出してGKと1対1を迎えた

30分 木村が福島と大森の間から田部井のスルーパスに抜け出す

ボールを保持してからの狙いは全体にも浸透していた。前線にボールを送り込むと、田上がディフェンスラインを押し上げ、田部井と藤田は2シャドーをサポートできる立ち位置に素早く顔を出す。そのため、木村と岩渕が孤立することなく近場のパス交換でマイボールにし、崩しの段階に移行できた。1トップのグレイソンが柔らかなポストプレーを発揮して独力でタメを作る場面もあったが、「奪ったら、すぐに前へ!」という強烈な縦志向をチーム全体で共有できていたことが相手コートでのプレー時間を長くした。

栃木は南野と奥田の2人を起点に前線からプレスを掛けようと試みたが、岡山がディフェンスラインから丁寧にパスを繋がなかったことで総スカンを食らった。大島や小堀も連動して奪いに行きたかったのだろうが、前に出ようとすると、すぐにひっくり返されてしまい奪い所を設定できず。ピッチ中央の人数だけを考えると、栃木は3人(インサイドハーフ+アンカー)で岡山は2人(2ボランチ)だったが、数的優位を生かすどころか無力化してしまった。

相手陣内で起点を作れることが分かった岡山は、ゴールへの矢印をさらに強めた。WBは果敢に縦突破を狙い、サイドの深い位置を潜り込んでいく。それだけでなく、最初のパスの出し手だった阿部と鈴木も攻め上がる。例えば、阿部と藤田、柳貴、岩渕の4人でパス&ムーブしながらPA内進入への糸口を探る。このような場面が両サイドで見られ、質でも数でも栃木を凌駕して、岡山が一方的に押し込む構図を作った。

反撃を許さない3バックの安定感

防戦一方の栃木は最前線に南野だけを残し、奥田が少し下がり、[5-1-3-1]のような並びになって自陣に撤退せざるを得なかった。

完全に5バックにすることで岡山の2シャドーが突いてくるスペースを埋めつつ、中盤の中央エリアを固め、岡山ボランチの前への配球を規制する狙いだったのだろう。その効果もあり、守備ブロックをセットした状態では好き放題やられないところまでは持ちこたえた。しかし、反発するには相手ゴールが遠くなり過ぎ、最前線で孤立していたFWは南野。イスマイラや矢野ならフィジカルを生かしてDFと競り合いながら起点を作れたかもしれないが、背番号42は32分に奥田のスルーパスに抜け出してPA右からシュートを放ったように、一瞬のキレを出してボックス内で勝負するタイプなのだろう。体を張って味方を押し上げる時間を作るプレーを求めるのは酷な状況だった。

ただ、栃木FWの特長を抜きにしても、岡山の守備陣が見せた起点を作らせない対応は完璧だった。

田上は南野を厳しくマークし続け、力強くロングボールを跳ね返した。南野がスペースに活路を見出して流れようとしても、鋭い読みで反応。豊富な経験に裏打ちされた出足の早さも相まって、単純なスピード勝負で負けなかった。流れてきたボールに対して、南野よりも先に体を入れて、ゴールキックにするプレーは非常にクレバーだった。

ならば、と栃木は大島や小堀、奥田が岡山の3バックの脇でロングボールと待ち合わせをすることで陣地挽回しようと試みた。しかし、阿部と鈴木の機動力が勝る。特に秋田での武者修行から帰還した阿部は激しいチャージで相手選手の態勢を崩し、余裕を持ってボールをコントロール下に置くと、クリアではなく前方に繋ぐメッセージを込めたロングボールを供給。ピンチの芽を潰すこと、攻撃の出発点になることを両立させた。鈴木も鋭い読みを働かせカウンターを許さず、スルスルと上がっていく動きでスムーズに攻撃に厚みをもたらした。

今季は全体を押し上げて攻め込む分、3バックは広大なスペースを管理しなければならない。常にカウンターのケアを念頭に置いてプレーすることが求められ、単独で相手の攻撃をストップする力強さも必要になる。決して簡単ではないタスクを課される中、開幕戦は相手との力関係もあって安定感バツグンの対応の連続だった。栃木がやっとの思いで奪ったボールを、田上、阿部、鈴木がすぐに回収して岡山の攻撃のターンにしていく。メンタル面でも栃木にダメージを与えたに違いない。

主導権を離さず得点も生み出した
迅速な切り替え

岡山はボールを失った後、奪い返した後の迅速な切り替えでも栃木を圧倒した。木村が決めた先制点とグレイソンが決めた2点目に、その要素が凝縮されている。

36分に奪取した1点目は、柳貴のクロスを跳ね返されて、セカンドボールを小堀に拾われた。しかし、ボールが高く上がって小堀がトラップする間に岩渕と藤田がフルスプリントで挟み込み、それに慌てた小堀の縦パスを田部井がカット。攻→守の鋭い切り替えでボールを奪い、そのまま攻撃に移行し、田部井、藤田、岩渕と1タッチパスを連続して繋いで栃木の即時奪回を回避した。そして岩渕がゴールに向かってドリブルした後に軸足を通してスッと下がる動きで相手の逆を突き、左サイドの木村に展開。背番号27が中央に切れ込みながら右足を振り抜いてネットを揺らした。

54分に挙げた2点目は、グレイソンがアンカーの佐藤を背中で消し、木村が三度追いして栃木のディフェンスラインにプレッシャーを掛け続け、それに岩渕が連動することで、栃木のビルドアップを慌てさせた。GK丹野のキックが精度を欠き、福島も苦し紛れのヘディングしかできず。中途半端になったボールに大島が反応するも、阿部が後ろから捕まえていた。背番号4がしっかりと競り勝ち、木村とのパス交換で前を向いた田部井が右サイドへスルーパスを出す。抜け出した柳貴が倒れ込みながら折り返したボールをグレイソンがGKの逆を突くシュートを流し込んだ。ゴール前にクロスが入る時、岩渕はニアサイドに走り込んで、相手DFを引っ張っている。だからこそ、背番号9がフリーでシュートを打つことができた。

グレイソンの得点シーン

攻→守から切り替えた時には素早くボールにアタックし、守→攻に切り替えた時には一目散にゴールに向かってプレーすることにより、栃木が守備陣形を整える前に攻め込んで得点を奪ってみせた。相手との力量や成熟度には差があったが、アグレッシブなスタイルが3-0という最高の結果に結びついたことは自信になる。プレシーズンに準備してきたものが間違いではなかったと安堵し、勝利できた喜びがさらなる積み重ねの原動力になっていく。

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