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【日記】『ダービーマッチの熱狂』~東京23FCvs南葛SCにて~

やっぱりサッカーにおけるダービーマッチの盛り上がりは格別だ。僕の立場からすると、直接的な関係を持たないチーム同士の対決だったけど、雰囲気に魅了された。初めて訪れた江戸川陸上競技場(通称:スピアーズえどりくフィールド)は、両チームのサポーターによる熱気で満ち溢れていた。

初めは見学者の気分だった。栃木で開催されるファジアーノ岡山の試合の前日を、どのように過ごすか。サッカーメディアで働きたいという気持ちを前面に出していた大学生の頃にお世話になった(言い過ぎかもしれない)方がゼネラルマネージャー(GM)と広報を務めているということで興味があった南葛SCの試合を見に行きたいと思って決めた。また、日韓W杯で得点を決めた稲本潤一選手、2016年のプレーオフでファジアーノのゴールを守っていた中林洋次選手をはじめ、元Jリーガーの選手たちのプレーを見たいというミーハーな気持ちも間違いなくあったと思う。お客さん気分でスタジアムに向かった。

重たいリュックを背負いながら約25分歩いてスピアーズえどりくフィールドに到着し、スタジアム正面広場(狭いから通路の方が適した表現だろう)に行くと、人で埋め尽くされていた。そこは約10台のキッチンカーが並んでいる江戸横丁と題したエリアだった。辺りを見回せば、未就学児からご高齢の方までのたくさんの人がキッチンカーの前に並んでいる。デーゲーム開催ということもあり、かき氷を売るお店が長蛇の列を成していたが、スタジアムグルメ(通称スタグル)を買い求める両チームのサポーターが入り乱れていた。あまりの人口密度により、立ち止まって商品を確認することもままならず、2往復はしたと思う。いや、優柔不断だから3往復していたかもしれない。熟考の末、15分くらい列に並んでオムカレーを購入し、スタジアムの入場ゲートをくぐり抜けた。

スタンドに入ると、ほとんどの席が埋まっていた。自由席だったから、自分の座る席を探さないといけないのだが、なかなか見つからない。購入したチケットは1000円の自由席ではなく、1500円のメインスタンド限定エリア(メイスタンド中央の前段)で、そのエリアも約90%の席が埋まっていた。運よく前から3番目の席に座ってオムカレーを食べながら一息付くと、ウォーミングアップが始まる。すると、メインスタンドの端に陣取る東京23FCのコールリーダーが応援団体だけでなくメインスタンドのお客さんも煽る。スタメン紹介の前には、スタジアムDJが盛り上げ、東京23FCの試合をライブ配信している実況者さんも登場してサポーターの心を焚きつける。彼らが共通して使った言葉は、“ダービー”だった。

メインスタンドからの景色
ヤマダイニングさんのオムカレー。
トマト風味のカレーが美味しかったです。

そう、江戸川区を本拠地とする東京23FCと葛飾区をホームタウンとして活動する南葛SCが対戦するこの試合は“隣町ダービー”だったのだ。想像以上の観客の多さに納得できる。

また、この一戦が盛り上がる理由は、地理的な問題だけではない。関東一部リーグを戦う両者は勝点7で並んでおり、東京23FCが5位、南葛SCが6位という直接対決でもある。さらに互いにJリーグ参入を目指していて、目標達成に必要なプロセスであるJFL昇格を成し遂げるためにも順位を上げる勝利が欲しい試合だった。

会場で配布されたリーフレットにも
"隣町ダービー"の文字が。

両チームのサポーターがチャントを歌う中、ベンチ横で2つの大きな円陣が組まれた後にキックオフを迎えると、激しい球際の攻防が繰り広げられる。身体を強くぶつけ合い、マイボールにして、勢いよくゴールに向かっていく。

南葛SCイレブン

前半は元Jリーガー8選手を擁する南葛SCが個人の能力の高さを発揮してボールを保持しながら攻め込む。大前元紀選手がセットプレーで高精度のボールを供給して惜しい場面も作った。しかし、最後の局面で相手の粘り強い守備に遭って得点できない。

精度の高いキックでチャンスを演出した大前元紀選手

対する東京23FCは、身体能力の高い2トップを起点にサイドからクロスをゴール前に供給したが、精度を欠いた。スコアレスドローで折り返す。

0‐0で迎えた後半もハーフタイムに2選手を投入した南葛SCがボールを保持して敵陣でのプレーを増やすも、ゴール前中央を固める相手のブロックを崩せない。47分には後半から投入された相澤祥太選手が負傷退場するというアクシデントにも見舞われた。

ボールを奪い合う両チームの選手たち

東京23FCはGK大石文弥選手を中心に相手の攻撃を食い止めて、2トップと後半の後半途中の交代で右サイドに移った原科勇我選手を起点に、エネルギッシュなカウンターを繰り出していく。すると、75分だった。細かなパスワークから原科選手が右サイドを抜け出してクロス。これをCBの背中を取った清水光選手が頭で流し込んで、ネットを揺らした。背番号9は一目散にベンチへと駆け出していき、ベンチ前で熱い抱擁をして喜びを爆発させた。キャプテンでありエースの一撃にスタジアムは大いに盛り上がる。「やったー!」「よっしゃー!」「ナイス!」の声があちこちから聞こえてくる。チャントも、それに合わせた手拍子も大きくなった。

得点を決めて吠える清水光選手

先制を許した南葛SCだったが、サポーターが南葛コールでチームの背中を押し続ける。81分には184cm80kgの柳裕元選手を投入して彼のポストプレーで反発するも、最後まで相手の守備を崩すことができなかった。

試合終盤に前線で身体を張って
起点を作ろうと奮起した柳裕元選手。

タイムアップの笛が鳴ると、大きな歓声が上がった。南葛SCの選手は下を向き、東京23FCの選手は両手を天に突き上げてチームメイトと検討を称え合う。決勝点を決めた清水選手は雄叫びを上げながら地面に倒れ込んだ。ホームチームが“隣町ダービー”を制した。

勝利を喜ぶ東京23FCの選手たち
敗戦に悔しさを募らせる南葛SCの選手たち

試合後に笑顔で挨拶をする東京23FCの選手たち、温かい拍手で迎えるサポーターを見ると、胸が熱くなった。絶対に負けたくないダービーマッチで勝ち切る気持ち良さ、爆発的な喜びを味わう彼ら彼女らが羨ましかった。“同じリーグを戦う相手チームの一つ”を越えた関係のライバルとプライドを懸けて戦う試合のエネルギーを肌で感じることができた。

おそらく僕にとって、初めてのダービーマッチ観戦になった。ファジアーノ岡山で言えば、カマタマーレ讃岐との“瀬戸大橋ダービー”だけど、2019年から対戦がない。またファジアーノのダービーマッチを体感したいという願望が強くなったし、当事者としてダービーマッチに臨んでいる人たちへのうらやましさが増した。カテゴリーなんか関係ない。2,357人が駆け付けたスピアーズえどりくフィールドの熱狂の渦に巻き込まれた僕は、確かな刺激を受けてスタジアムを後にした。


ファジアーノ岡山でもプレーした中林洋次選手(上)、
松本健太郎選手(下)も元気そうでした!

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