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詩のようなものだけ集めてみます。
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夜凪

夜凪

黒い水のうえ
夜を横切るいっぽんの線
誰かが立っている
両のうでを宙にさしだし
片足を前にすべらせて
ひとあし
ふたあし
綱渡りがはじまった

星々が見守る沈黙のパフォーマンス
月は知らんふり
海もなりをひそめてる
地上で見守るのはわたしだけ

魚が跳ねた!
静寂がみだれた一瞬
古い記憶がよみがえる
朱に紫に空を染めかえたショウタイム
反対の空からほそい雲がいっぽん横へと伸びていったあれは
そうか

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てんてんと

てんてんと

点々と
道に落ちているしみ
不規則に
でも途切れずに
ずっとつづいてる
しみを踏む
尻尾がはえる
もうひとつ踏む
長い足がのびる
跳ねあがる!

楽譜は読めない
旋律がわからない
なのに
暗い音色がからだをつたう
悔いやうらみや
罪やあきらめ
わたしのなかに潜んでる
しみが誘われ浮きあがる

音のない音が逃げる
しみは転々と
かたちを変えて
そらまた跳ねる!
知らぬ間にわたしは踊らされてて
ねえ追

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冬の終わりの日だまりの
ぬくぬくから生まれたと
本人は申しておりまする

沈むお日さま追いかけて
山に砂漠に海越えて
たどり着いたはこの家と

お日さまの匂いがするだろと
背中のふかふか撫でさせて
これが証拠といいまする

終点

車掌ですお客さま切符をはいけん

切符はお持ちでないですか
それではICカードなら
了解しましたぴっぴっぴー

いいえ火星にはまいりません
金星にも停車いたしません
いやはやお乗り間違えです
残念ながらこの列車は
銀河鉄道ではございません

途中停車はいたしません
折りかえし運転もありません
終点までの直行です

おきのどくですがお客さま
いったん乗車されたからには
降りる手立てはございません

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夜気

夜気

夜が息をして
山は息をひそめ
張りつめた夜気に触らぬよう
息を殺してむすめは歩く

喋る岩
想う岩
冷たい夜は岩が鳴く
岩の声はさざなみ立って
夜が身じろぐ

むすめは岩のひとつひとつに
指で白いしるしをつける
むすめのつけたしるしを目指し
天から雪が降りてくる

またひとつ
もうひとつ

雪が声を包んで溶ける
岩は鳴くのをあきらめる
夜気はほぐれてまろくなり
夜の眠りは守られる

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ぼくはばく I am a tapir (baku baku)

ぼくはばく I am a tapir (baku baku)

8月に『ぼくはばく』という詩を作ったのですが、その詩が歌になりました!

キタハラエイジさんの新曲『ぼくはばく I am a tapir (baku baku)』に詩を使っていただいたのです。

自分でも気に入っている詩で、勝手に「ばくばく~」とでたらめな節つけて歌ったりしてたので、ほんとに曲にしてもらえて感激です。にたにた笑いながら聴いてます。軽やかな曲で、最初の一節から可愛いんですよ。ばくばく

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ぼくはばく

ぼくはばく。ばく。ばく。
ゆめをたべる。ばくばく。

どんなゆめでもたべるけど、
にんげんのゆめがこうぶつ。
こわいがたくさんはいってて、
ばくのぼくにはごちそうなんだ。

こわいはからい、
かなしいはにがい、
はずかしいはすっぱい。

たのしいはあまくて、
うれしいはあますぎる。
ぼくらばくらは、からとうなのさ。

きょうのごはんはちとにがすぎた。
こんなときにはくちなおし。
ねているこねこをい

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はしる

ぼくとあたしはけんかした
あたしはいかりにわなないて
ぼくのそばにいたくなくて
ぼくのかおをみたくなくて
ぼくにくるりとせなかをむけると
はしってぼくからとおざかった
ずんずんはしった
ひたすらはしった
ちのはてめざして
どこまでもはしった
はあはあ
たったっ
はあはあ
たったっ
はあはあ
はっはっ
はっはっ
はっ……
いきがきれて
たちどまったそこには
おいてきたはずのぼくのすがた
ちきゅうをい

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春月

春が来るよ春が来たよ花が咲くよ
耳に馴染んだ名調子に女たちは色めきたつ。
今年も、春のパーツ売りがやってきた。

冬の顔は流行遅れ。
春の顔に着替えなきゃ。
「これまでのわたしを脱ぎ捨てて」
春の花を咲かせなきゃ。

「知的な女になる口紅の魔法はいかが。
 乙女の肌が蘇る魔法の頬紅だよ」
梅の雨には溶けて消えてしまうのに、春の魔力には抗えない。
女たちは魔法を買い漁る。

「悪くなりたけりゃこれは

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つむじ風たち

やあ、旅の人!
旅の人だとすぐにわかるよ
この町寄るのは初めてなんだろ
だって回ってないんだもの!

つむじ風ばかり吹くこの町じゃ
風に逆らえば飛ばされる
だから回ってやり過ごすのさ

歩くかわりに地面を蹴って
トン!と風に乗って回るんだ
慣れりゃ二階までも飛んでける
ほら、あそこの葉っぱのようにな

トン!と蹴って、ヒョイ、と乗るのさ
つむじ風はわしらの自転車
風を扱うのはお手のもの
コツをつか

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貴方にはたてがみがあるのですよ
わたしだけに見える 雄々しいたてがみ
わたしにもだれも触れられない 貴方だけのたてがみが

夜を掬う

夜を掬う

るるる……るるる……

山の奥深く。
虫の音に何百というカエルの輪唱がかぶさって、山は震える鈴の音色に包まれている。
そこへ、空気をかすかに乱す話し声。

(こんばんは。今夜はとりわけ空気が澄んでいますね)
(空のあなたが羨ましい。さぞかし気持ちの良いことでしょう)
(水面に泳ぐあなたこそ、波に揺られていつも楽しそう)

空に浮かぶ月と、湖面に映る月。

彼女らのいつものやりとりに、山の木たちは首

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MASHED POTATO

お芋がたくさん採れたので
洗ってゆでて皮むいて
ミルクをちょろりと足してから
混ぜてするするなめらかに
へらで形をととのえて
テーブルと椅子ができました

椅子はほかほかあったかで
テーブルほくほくいい匂い
ぬくぬくうとうとしていると
ひょっこり熊があらわれて
お腹がすいたと言うのです

「それじゃここにおかけなさい」
お芋の椅子にすわらせて
お鍋のスープをあげました

ところが熊は欲張りで
「ス

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もう出発のベルが鳴る
残るものたちにさよならを言おう
几帳面な車掌が別れをせかす

立ち去る僕らを見送る声は
ひと吹きの風にかたちを変えて
哀しむ僕らの背中を押した
あとのことはまかせたよ、と

僕らは時間の列車に揺られ
いつかどこかの終着駅を目指す
時代をまたひとつあとにして