本を「聞く」ことが好き
深い瑠璃色の空に
一、二粒の星が
音もなく点る如月の早朝。
私は、パジャマに
あたたかい上着を羽織って
ひとり、キッチンに立ちます。
それから
携帯電話を片隅に置き、
液晶の上の再生ボタンを押して
昨晩の続きをリクエストします。
ナレーターの方の声が
シンとしていた空気の中に、
しっとり響きゆくのを聞きながら
私は、朝食の支度にとりかかります。
流れるのは
川端康成作「伊豆の踊子」。
ナレーターは榊原忠美さんです。
渋く落ち着いた声。
染み入るような深い声。
美しい日本語を、
情緒豊かに読み上げる声に
耳を委ねて
静かに堪能します。
*
このところ、
本を「聞く」のがすきです。
いわゆる、オーディオブックに
夢中です。
ゆっくり本を広げられない時でも
耳さえ傾ければ、忽ちそこは
物語の舞台。
オーディオブックはそこが魅力ですね。
以前までは、
本はやっぱりじっくりと、
自分で読み進めてゆくのが
いちばんだと思っていたのですけれど、
聞いてなるほど。
本を楽しむという点では同じでも
活字を目で追うのと、
耳で聞くのでは、
全く異なるエンターテインメントなのだと
気付かされました。
*
手を動かし
刻んだ白ねぎと青菜と
さいの目に切ったお豆腐を
小鍋へ放ちます。
出汁の香りを含んだ湯気が広がり
野菜がことこと煮立つその合間も
傍らでは、
ストーリーが展開してゆきます。
青年の目に映る無垢で美しい踊り子。
彼女を取り巻く環境と揺れる青年の心情。
上品な色気が漂う描写。
口調、声色、読む速さをかえながら
何役をも演じ分ける声が
本来紙面上にあったはずの“文字”を
目の前の“風景”へと
ふうわり、浮かび上がらせます。
本を「聞く」ことが出来る、
今までは淡々と過ぎていた時間が
物語によって彩られる
空が薄い明かりを宿しはじめてもなお、
儚い想いを語るナレーションは、
やさしく、美しく、続きます。
*
これからもあたたかい記事をお届けします🕊🤍🌿