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切実と天衣無縫の音世界、好きな歌集を一冊選ぶ


◆はじめに:好きになったきっかけ

1.『短歌ください』で受けた衝撃

雑誌『ダ・ヴィンチ』で連載中のコーナー『短歌ください』。
選評が穂村弘さんという、ゴージャスな読者投稿ページです。

その連載が書籍化、そして文庫化されていることを知って、なんとなく読んでみました。

投稿作どれもこれもレベル高いなすごいな……と、穂村さんの選評コメントも含めて楽しく読んでいた時。
自由題として唐突にあらわれたのが、

ペガサスは私にはきっと優しくてあなたのことは殺してくれる

冬野きりん

でした。

震えました。
そりゃもう衝撃を受けました。
余分な言葉が何一つ無い。
それでこんなふうに、いやここまで自由な、あらゆるしがらみから解き放たれた感情を表現してしまえるって。

この一首との出会いが、
短歌ってすごいな!?
という高揚の原体験になっています。



2.旧Twitterの短歌bot

それをきっかけに短歌にハマり。
旧Twitterで、現代歌人の短歌をランダムにツイートするbotをフォローしました。

後述する雪舟えまさんも岡野大嗣さんも、知ったきっかけはこのbotです。
が、それでもなお。
そこで紹介されていた中で、一番印象深いのがこちら。

会わなくても元気だったらいいけどな 水たまり雨粒でいそがしい

永井祐

読んだ瞬間、本当にびっくりしたんです。
「雨やどり中にふと懐かしい人を想う」たったそれだけの瞬間を。込められた感情から情景まで、限られた文字数かつ独自の表現で、雄弁に物語っている。

「会わなくても元気だったらいいけどな」の内的な静けさ、からの「水たまり雨粒でいそがしい」で現実世界に雨が猛烈に降っている情景と音。
上の句と下の句の対比が素晴らしい。


その後、永井祐さんのお名前を頼りに、この短歌が収録されている歌集を探しました。
出会いと購入のきっかけまでもらえたので、botも侮れないものです。



◆一冊選ぶなら『たんぽるぽる』

その後、歌集をいろいろ読みました。

・俵万智『サラダ記念日』
・斉藤斎藤『人の道、死ぬと街』
・斉藤斎藤『渡辺のわたし 新装版』
・岡野大嗣『サイレンと犀』
・岡本真帆『水上バス浅草行き』

などなど、心に残った歌集がたくさんあります。

しかしそれらを含めてもなお、好きな歌集を一冊だけ選ぶなら。
迷わず雪舟えま『たんぽるぽる』を挙げます。

短歌botで一番印象的だったのは、永井祐さんと書きました。
が、雪舟えまさんの一首も、出会いの鮮烈さも含めて忘れられません。

目がさめるだけでうれしい 人間がつくったものでは空港がすき

脈絡の無さと発想の飛距離に、とことん「人間」を感じます。
と同時に愛おしさが募る。

短歌の定型へと落とし込むことは、言葉を厳選した上でなお削ぎ落とすことでもあります。
五感や感情の純度を保ったまま、素直にこれが出来るのは驚異的なこと。


逢うたびにヘレンケラーに[energy]を教えるごとく抱きしめるひと

すきですきで変形しそう帰り道いつもよりていねいに歩きぬ

あかいレゴブロックひとつ手にのせて想うは二人用の棺おけ

私の手元にある『たんぽるぽる』は、心の琴線に触れた短歌が多すぎて頁が折り目だらけです。
(が、それ全部引用してたら文字数がすごいことになるのでこの辺で自重します)

そして読み進めるうちに、歌集のタイトルにもなっている『たんぽるぽる』に出会える構成も大好きです。納得と賛同に満たされましたとも。

日常や思い出を切り取って、美しく鮮やかにとどめること。
何気ない発想を詩情へと昇華させること。
そういう、短歌という表現ならではの可能性が詰まった一冊。やっぱり何度読んでも大好きです。



おまけ:歌集ではないけど特別な一冊

せっかく短歌や歌集の話をしたので…。
木下龍也『天才による凡人のための短歌教室』も推させてください。

過去にも語ったことがあるけど改めて。
短歌教室という名目だけど、普遍的な創作論にも通ずる熱い内容です。日常の解像度を上げる一冊でもあります。


以上、お読みいただきありがとうございました。
週明け月曜日ですね。
今日も良い日になりますように◎


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