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ダイエットについてあれこれ考察

今回のテーマ:ダイエット
by らうす・こんぶ


30歳になってスポーツジムに通い始めた。この年、フリーランスという働き方を選んで、「もう有給休暇も病気休暇もない。病気になって働けなくなったらアウトだ」と腹を括ったからだ。以来、「身体的にも精神的にも絶対に無理はしない」、「ジムに行く時間がないほど忙しければ、ジムに行く時間ではなく仕事を減らす」、「生活が苦しくなったら、他の出費を削ってもジム通いはやめない」を徹底してきた。

というとなんだか強い意志を貫いてきたように聞こえるが、実は、元来怠け者で根性なしなので、睡眠時間を削って仕事をするようなことが全くできないことはわかっていたからに過ぎないのだけれど。

ニューヨークに住むようになってからは、あの、世界的に悪名高い高額医療費が恐ろしくて、病気になったらもうニューヨークには住めなくなると肝に銘じて、ますます健康を大事にするようになった。そのおかげもあってか、今のところいたって健康で(食事制限という意味での)ダイエットもしたことがない。

ニューヨークでも週に2、3回はジムに行くようにしていた。最初に行っていたのは料金が比較的安いYMCA(当時料金は月額35ドルくらい)だったが、引っ越して通うのが大変になったので、マンハッタンのあちこちに点在するNew York Sports Club(場所によって料金が異なり、マンハッタンでは月額100ドルを超えたが、クイーンズでは80〜90ドルくらいだった)に通い始めた。

帰国する数年前、クイーンズに住んでいた時、アパートから徒歩5分くらいのところに新しいジムがオープンした。そのBlinkというジムの料金はなんと月額15ドル!マンハッタンにもあり、そっちは高いがそれでも月額25ドルほど。New York Sports Clubにはサウナもさまざまなクラスもありタオルも使えたが、当然Blinkにはそういうサービスはなかった。でも、私にはそれで十分。何より歩いて行けるというのがサイコーで、すぐにそっちに移った。

どうしてこんなに安い料金で経営が成り立つのかわからないが、このジムは他の老舗のジムと大きな差別化を図っていた。ジムのエントランスを入ると壁に大きなポスターが貼ってあるのだが、そこには肥満体型の人たちが楽し気にジムでトレーニングをしているイラストが描かれていた。

アメリカは肥満大国で潜在的にはスポーツジムのニーズは高い”はず”なのでBlinkの目のつけどころは悪くないが、このジムに数年通っている間、肥満の人がトレーニングしているのはほとんど見たことがなかった。

ニューヨークでも東京でもいくつかのジムを体験したけれど、そこで汗を流しているのは、若者やすでにジム通いが習慣になっているような人ばかり。生活習慣病予防や体重を落とすために運動していると思しき人はほとんど見かけない。たまにそういう人を見かけてもすぐに挫折してしまうのか、2度と見なくなってしまう。

月額15ドルなら手軽に始められていいけれど、途中でやめても惜しくないので、かえって安さが仇になって挫折しやすいかもしれない。むしろ、ライザップのように高額料金を払って、パーソナルトレーナー付きで運動から食事まで管理してもらってビシビシやらないとだめなのだろう。

今もあるかどうかわからないが、「The Biggest Loserー最も(体重を)たくさん減らした人」というテレビ番組があった。これは視聴者参加番組で、肥満に悩む人たちが30週間にわたって運動や食事制限を行いつつ、いかに体重を多く減らすかを競い合うというリアリティーショー。まだテレビを見ていた頃、何度か見たことがあった。

日本のライザップのCMなどに出てくるタレントさんたちは、太っていると言ってもせいぜい10キロくらい体重を落とせばかなりスリムになるし、筋肉もついてかっこよくなる。だが、The Biggest Loserに出てくる人たちは体重が150キロ超くらいの人たちがほとんど。日本ではお相撲さんでも150キロ以上体重がある人は多くないだろう。そこから体重を何十キロも落としていくのは相当に過酷だ。

番組では毎回、パーソナルトレーナー付きでハードなワークアウトに取り組み、食事はカロリーが少ない鶏肉のささみとか、私でもこれじゃまったく足りないと思うような内容。辛さに泣きながら、時には挫折して去っていく仲間を涙で見送りながら30週間がんばるのだ。最後までやり抜いた人たちはみんな体重が数十キロ落ちて、かつてとは別人のようになっている。

私が見たファイナルでは20歳くらいの男性が優勝した。その男性は「もう2度と肥満にはならない」と涙で誓っていた(ような気がする)。こんなに意志力と忍耐力を試されるようなことを30週間もやり続けるなんて本当にすごい。私には絶対できない。

肥満の人はニューヨークなどの都市部には少ないが、それでも日本と比べればびっくりするほど多い。その要因は、家庭や学校で食育がされず、食べたいものを食べたいだけ食べる習慣がついてしまっている人が多いためだと思う。しかも、子供のうちからカロリーが高いファーストフードの味にならされ、ジャンクフードや冷凍食品が中心の食生活がずっと続いてしまう人が少なくない。

以前、また聞きしたことだが、某大手ハンバーガーチェーンは子供をターゲットとしたマーケティングを行なっていた(いる)という。子供が喜ぶようなおもちゃがついてくるセットメニューがあったり、郊外の大きな店舗には遊具が備えられていて、子供たちが遊ぶかたわらで親たちがママ友とおしゃべりができるようになっていたり。子供をターゲットにしていたのは、小さい頃に慣れ親しんだ味は、生涯おいしいと感じて食べ続けるからだそうだ。子供のうちから顧客にしてしまうというわけだ。

かくして、ハンバーガー、フライドチキン、ピザ、ドーナツなどなどが食生活の核を成すようになってアメリカ人の肥満人口が増えていき、ファーストフードビジネスが儲かる。ファーストフードチェーンのメニューには、日本にはないとてつもなくビッグサイズのシェークや生クリームがモコモコとのったコーヒー飲料などが並んでいるが、そのカロリーたるや1500キロカロリー!砂糖と脂肪だけで1500キロカロリーである。私の1日の必要カロリーに相当する。

しかも、肥満は糖尿病や心臓病その他の病気を引き起こすから薬品会社が儲かり、ダイエット食品が売れる、という負のループができあがっている。ここにBlinkが目をつけたのだが、The Biggest Loserでもわかる通り、運動やダイエットで成果を上げるのは常人には無理。効果なんかほとんど期待できないようなダイエット食品を気休めに使うだけなので、一旦肥満になってしまうと健康的な生活にはなかなか戻れなくなってしまう。

ニューヨークにはアジア人が多いが、太っている人はいても肥満体型の人は見たことがない。やはり食習慣の差が大きいのだろう。本来の意味でのダイエットー食習慣・日常的に食べるものーって本当に大事だ。




らうす・こんぶ/仕事は日本語を教えたり、日本語で書いたりすること。21年間のニューヨーク生活に終止符を打ち、東京在住。やっぱり日本語で話したり、書いたり、読んだり、考えたりするのがいちばん気持ちいいので、これからはもっと日本語と深く関わっていきたい。

らうす・こんぶのnote:

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