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ぷーさんの気まぐれ読書ノート

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私(ぷーさんこと大嶋友秀)がこれまで読んだ本の紹介をするノートです。どの本もおすすめの本になっています。
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記事一覧

『カムイ外伝』白土三平作、小学館文庫

ずっと前から気になっていたのが、『カムイ伝』と『カムイ外伝』だ。1年ほど前に、古本の全巻セットで大人買いしたが、読み出すタイミングがないまま、昨年の暮れまで書斎の本の山に鎮座していた。『カムイ伝』の方は、ずいぶん前に一度、読みだしたが、三巻ぐらいでやめてしまった。漫画とはいえなかなか読み応えがありすぎたからだ。考えてみれば、『カムイ伝』は、江戸時代の専門家である、法政大学の田中優子が、大学のゼミ研究の対象にしているのである。江戸風俗や時代を考察できるほどの情報の宝庫なのだから

往復書簡の魅力

 往復書簡をとは、簡単に言えば、手紙のやり取りです。それも、今回は選んだのは、雑誌や新聞で公開しながら手紙をやり取りしたものです。ここでは、二冊の往復書簡を結びつけて、その面白さに迫っていきます。選んだ本は、『父と娘の往復書簡』(松本幸四郎&松たか子、文春文庫)と『手紙、栞を添えて』(辻邦夫&水村美苗、朝日新聞社)です。  まず、この二冊に共有しているのは、快感でした。二人の親密な人たちのやりとり、あたかも秘め事のようなやりとりを、盗み聞きしているような倒錯した思いをいただ

『雨のことば辞典』倉嶋厚監修、講談社

 今日はいつもと違って辞典を紹介しましょう。こういう書物はがっちり読むというより、ときどき書棚からひっぱりだしてぱらぱらと好き放題にザッピングをしてみると面白いです。この辞典の中には、雨にまつわる言葉だけで、1190語も紹介されているのです。いやあ、こんなに雨を表現できる言葉があること自体が驚きでした。やはり日本は四季が移ろいがあり、その時々に雨も降ります。春雨もあれば梅雨もあり、夏場の夕立もあれば冬の冷たい雨だってあります。最近だとゲリラ豪雨なんていうのもありますね。その時

『悪魔の辞典』A・ビアス著、奥田俊介・倉本護・猪狩博訳、角川文庫

 なんとも怪しげな書名であり、その内容もえげつない毒を含んでいる寄書といえる。辞典だから言葉の解説なのだが、そこは「悪魔」という物々しい言葉で形容される書であるから、言葉や概念のとらえかたも、「悪魔」がかっておりにたりと笑わせる薬がよく効いている。  私はときどき、こいつを書棚から取り出して言葉を意味を引いてみる。その定義の的確さに喝采したくなったり、意味がよくわからなかったり、あまりに毒気に反発したくなったりしたりもする。そして、しばらくすると、その意地悪な見方をふたたび

『嫌われた監督 落合博満は中日をどう変えたのか』 鈴木 忠平著、文藝春秋

 なぜいつも一人なのか。  著者の鈴木忠平が落合を語るのに投げかけた問いだ。  なぜそんなに孤高であり続けられたのか。  この本を読みながら、私の頭に何回も出てきた問いだ。  野球人として、突出した理論と技術。残してきた圧倒的な数字。選手としても監督としても輝かしい記録。しかしそれに熱くなることなく、いつもクールに見える。薄情なのか、無関心なのか。批判され揶揄される。にもかかわらず、平然としている。どうしてそんなに強くいられるのか。そんな理由を少しでも知りたい。そんな思いで

『村上T〜僕の愛したTシャツたち』村上春樹著、新潮文庫

 ビジュアルというテーマとして、誰もが身近に触れているトピックを選んでいる本を紹介します。これは、著者が気に入ったり、持っているTシャツを紹介することで、その思いや考えを綴っていくエッセイです。そこで知れる村上春樹のこだわりやスタイルを知れるのが面白いです。  例えば、私はこの本を読んだことで、村上さんはほとんどいつもTシャツと短パンで過ごしているのがわかりました。また、どこかに出かけて(例えばレストランとか)、スボンを履いていない方は入場できません、と言われたら、カバンの中

「人生は単なるから騒ぎ」鈴木敏夫、角川書店

 ジブリっていうアニメーションプロダクションを考えると、まず宮崎駿、そして高畑勲を連想するでしょう。日本アニメーション界の監督としても二代巨頭と言えるでしょう。でも、もう一人肝心要な鍵になる人がいます。それはジブリのプロデューサーの鈴木敏夫です。そして、今日紹介するのはその鈴木さんが書いたものです。  まず、この本を読んで私が驚いたのは、鈴木さんのマルチぶりです。プロデューサーであり、クリエーターであり、イノベーターであり、キューレーターと言えるでしょう。あの個性的な宮崎駿や

『火車』宮部みゆき著、新潮文庫

『火車』は、私がはじめて読んだ宮部ワールドだった。いつだったかはっきりと覚えていないのだが、冬休みの前だったのは確実だ。私は滅多とない休みに、くつろいで読む本を探していた。あまり難しいものではなく楽しみたいと考えて、ミステリーか本格推理ものを探していた。年末に出される雑誌の「このミステリーがすごい」でベスト1にランキングされていたのが本書だった。  まず、文章がいい。無駄なものがない鍛え抜かれた体を連想する。情景描写もさらりとしているのだが、うるさすぎず、少なすぎず、私は小

『オケピ!』三谷幸喜著、白水社

 『オケピ!』は、2001年の白水社の第四十五回岸田國士戯曲賞の受賞作だ。三谷幸喜が「戯曲が活字で残るのって好きじゃない」とこだわりがあるため、彼の舞台が本になるのはまずない。テレビのシナリオはいくつか出版されているものがあるが、舞台のものはないのだ。だから、この価値が倍増する。  タイトルの『オケピ!』とは、オーケストラピットのこと。私は、劇場で見たかった。しかし、チケットを入手できず、ぐずぐずとあきらめきれない時に、この本と出会った。そして、DVDで鑑賞した。だから、私

『みんなの映画100選』絵:長場雄、文:鍵和田啓介、オークラ出版

紙の本が嬉しくなるとき・・ 今日は中目黒の蔦屋書店に行きました。空手の稽古に行くまでの少しの時間だったけど、久しぶりにのぞいていたんです。 そこで、なんとも嬉しくなる本を見つけました。 『みんなの映画100選』絵:長場雄、文:鍵和田啓介、オークラ出版 なんかタイトルだけ聞くと、全く手に取りたくないような感じなんだけど、本のカバーを見ると、和田誠みたいなシンプルな絵が気になって手に取りました。昔の名作から最近の映画なんかも扱われています。表紙はレオンでしたね。 この本

『わが性と生』瀬戸内寂聴+瀬戸内晴美著、新潮社

 いやあ、この本はエロい。心底そう思います。人間の持つ官能を求める性を、こんなにさらりと語れるのは、瀬戸内晴美(寂聴)という小説家だからでしょう。私はこの本を見つけたときに、徹底徹尾、人の情欲に関わる深い話になると期待を持ったのです。何しろ、著者自身が情欲を深く求めた自身と、それを絶ちきった自身との対話なのです。だから、そこで語られる「性」や「生」が半端なわけはありません。そして、この本は、私の期待など軽く飛び越えて、もっと大きく広くそして深く、性の話に立ち入っていくものでし

『森繁の重役読本』 向田邦子著、文春文庫

 向田邦子が亡くなって40年になるということで、本屋さんでも特別コーナーができているようです。私は向田さんのエッセイが大好きで、いくつもブログでこれまで紹介してきました。今日は、9年前に紹介した、向田さんのラジオデビューしたエッセイの原稿です。        ※         ※        ※  昨日偶然見つけたんですが、この本は古い内容なのに新刊です。これまで本として日の目を見ていなかったものです。たまたまJR桜木町にある駅前の本屋をのぞいたら、新刊書の中に、「あ

『父の詫び状』向田邦子著、文春文庫

 ほぼ1週間ほど前のことだが、私は鹿児島の近代文学館を訪れた。出張したついでに1日だけ帰るのを伸ばして、鹿児島市内を歩いてみたのだ。私はJR鹿児島中央駅より天文館をめざした。途中、フランシスコ・ザビエル公園をのぞき、サビエル教会に入り、礼拝堂で静かな時間を過ごし、そのすぐ近くに見つけたのが近代文学館だった。本が好きなものにすれば、迷わずそこを訪ねたわけである。ポスターには向田邦子の大きな写真があった。他にも鹿児島に馴染みのある作家が紹介されていた。  数ある作家の中でも、私

『極上の孤独』下重暁子著、幻冬舎新書

 この本のタイトルの「極上の」というのがいい。その言葉に誘われて本を読んだ。それに考えさせられたのは、自分をしっかりと見つめ、いつでも本当の自分でいる重要性だった。そのためには、下重は「独りの時間」が必要だと主張する。  しかし今の世の中は一人でいるのは簡単ではない。時間を見つけては、FACEBOOKやLINEをチェックする。オンラインゲームをしたり、携帯でテレビを見る。単に一人でいればいいわけではない。インターネットに繋がったり、テレビやDVDなどを見ないで過ごすのである