見出し画像

【八百長戦士ノリ高間】 統失2級男が書いた超ショート小説

高間に取ってあの男は異世界の生き物だった。あの男はどんなに高い金を積んでも、どんなに誠意を見せて交渉しても、頑なに八百長に応じて来なかった。長年八百長界に身を置き大金を稼いで来た高間には、あの男の精神構造が微塵も理解出来なかった。こちらの提示した条件は2試合で2億円、互いに傷付く事のない1勝1敗の筋書き。八百長とは本当に優しい文化だ。しかしあの男にはそれが理解出来ない。あの男はロサンゼルスの交渉の席で高間の目を見ながらこう言った。「八百長はゴミ人間のやる事だ、私はゴミ人間ではないし、ゴミ人間になりたくもない。この申し出は拒絶する」あの男は八百長を拒絶するだけでは飽きたらず、これまで八百長界に身を置いて来た高間を暗にゴミ人間呼ばわりして来たのだ。しかし高間は腹が立たなかった。高間は元来気の小さな男だ、弱者には強気に出れても強者の前では萎縮してしまい怒りという感情が沸いて来る事はない。高間は純粋に不思議に思った。危険のない八百長を2試合行うだけで2億も手に入るというのに、あの男は学校で算数を習って来なかったのか?そしてあの男はこうも言った「私は格闘家だ、リアルなら戦っても良い」と。しかし高間に取ってそれは受け入れる事の出来ない条件だった。高間の武器は均整の取れた美しい肉体と、ゲイ有力者への性接待の2つだ。この2つの武器でこれまで八百長界に君臨して来た。リアルファイトなど論外だ。交渉は決裂した。

日本に戻った高間は性接待を武器に金策に走った。あの男へのギャラを2倍にして八百長を受け入れて貰う為に。そしてその性接待の時に相手のゲイヤクザから「真剣勝負をやれば良いじゃねぇか」と言われたのだ。高間はそのヤクザが怖かった、逆らう事は出来ない。怖い怖い、仕方なく高間は真剣勝負を承諾した。季節は秋になっていた。試合当日まで高間はあの男の交通事故死を祈っていた。しかしそれは叶わず、あの男はハリウッド映画の音楽をバックに東京ドームの花道を入場して来た。高間はフード姿のあの男を見て瞬時に敗北を観念した。それ程あの男の佇まいに圧倒されていたのだ。高間は簡単に負けた。八百長チャンピオンだったから当然の事だった。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?