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【書評】『歴史学者と読む高校世界史』(勁草書房)

 一般的には、「教科書に書かれていることは、おおむね信用していい」と思われているはずだ。だが、「歴史教科書に書かれていることが絶対に正しい」とは限らないことを伝えてくれるのが本書だ。歴史学者、高校の教諭、教科書検定に関わる(元)調査官などが執筆陣である。

 さて、「高校世界史教科書の問題点」といっても論点は多数ある。

正確な史実とするのが難しい場合

 高校世界史の古代イスラエルの項目には、
・モーセがヘブライ人を率いてエジプトの圧政から逃れた。
・ヘブライ人がヘブライ王国を築き、ダヴィデ王やソロモン王の時に最盛期を迎えた。
 といった記述がある。これらは『旧約聖書』に書かれた伝承で、考古学的・文献学的には実証されていない。日本史でいえば、『古事記』にあるイザナギ・イザナミの神話などを史実として教えているようなものだ。

 ユダヤ教やキリスト教の信仰の内容を知ることは教養として大切だが、教科書を読んだ生徒が「史実だ」と思ってしまうような書き方は避けるべきだろう。

歴史のとらえ方が偏っている場合

 東南アジア史については、インドや中国など、他地域との交流と絡めて学ぶことが多い。しかし、「東南アジア諸地域はインドの文化を受容した」といった描かれ方をするため、東南アジアの歴史はずっと受動的だったという印象を与えてしまう。

歴史教科書はあてにならないのか

 本書には様々な問題点が提起されており、興味深く読ませてもらった。それでも、「教科書の記述が正解とは限らない」ことと同時に「教科書があてにならないわけではない」ということも伝えておきたい。

 世の中には、「教科書が教えてくれない歴史の真実」といったふれこみの書籍やyoutubeなどがあふれている。「太平洋戦争は正義の戦争だった」「ヒトラーは実は良いこともした」といったものが多い。だが、その大半は学問的な裏付けのないトンデモ説であることがほとんどだ。

 中学・高校レベルの教科書をしっかり読んでいれば、こうしたエセ歴史に騙されることはない。研究の進展や社会の変化によって記述が微修正されることはあっても、おおむね間違いのない記述であることは確かなのである。

 


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