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すこしふしぎな王道ジュブナイル「ぼくらのよあけ」

ある漫画を買おうかどうか迷った時、購入の後押しになる考え方として、

「映画を1本観た場合」の出費と比較する事がある。まあ、映画を観たと思えば安いもんだ・・ってやつだ。

今回紹介するSF漫画「ぼくらのよあけ」は全2巻で2冊で1080円(紙の本は現在は絶版なのでKindle価格)映画のレイトショー料金よりも安い。そして1本の2時間長編アニメ映画を観たかのような適度な時間の消費と最高の満足感が味わえる。さらに映画と違って漫画は手元に残る。再読ができる。よって、この作品は間違いなく「買い」なのだ。

本作の舞台は2038年の東京。主人公の宇宙好き小学生・沢渡ゆうまと人口知能を持った家庭用オートボット(ロボット)のナナコを中心としたひと夏の物語だ。ある日、ナナコは何者かに体を乗っ取られる。それは28年前に地球に降りて故障し、団地に姿を隠していた宇宙船の人工知能だった。ゆうまはその人工知能に宇宙に帰る手伝いをして欲しいと頼まれる・・簡単なあらすじはざっとこんなところ。

今から5、6年前の作品である本作のテーマのひとつが人工知能だ。人工知能の話題が多くなってきた今では、より身近なテーマとして読み込む事ができるだろう。そして、少年とロボット。日常とロボット。真っ先に思いつくのは藤子・F・不二雄・著「ドラえもん」だ。作者の今井哲也氏もまた藤子作品が大きな血肉になっている漫画家の一人である事は間違いないであろう(藤子Fトリビュート漫画にも参加している)

「ぼくらのよあけ」はその日常SFの要素を下敷きにしつつ、ハードなSF部分とリアリティのある日常部分のエピソードをふんだんに盛り込んだ、より現代的で高密度な日常SF作品になっている。子供から大人まで各世代の多くの登場人物たちが物語に密接に関わる事で子供目線の世界から大人目線の世界までいろいろなテーマを楽しむ事ができる。何と言うか・・もう、全てが詰まっている。たくさんの大切なことがこの物語には詰まっているのだ。
また、本作における夏の団地の使い方のアイデア、その描写、表現力が本当に素晴らしい。

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さて、先ほどドラえもんと書いたが、実は自分がこの作品を読んで連想した藤子F作品は実はもう1作ある。
34年前に描かれたSF短編「宇宙からのおとし玉」だ。

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この作品も地球に漂流した宇宙人を宇宙に戻すために主人公の少年が奮闘する話で、SF(すこしふしぎ)なF作品のエッセンスが凝縮された後期の名作である。
自分は藤子SF短編にはまった10代の時にこの作品を読み、ちょっぴり感動した事を覚えている。この「宇宙に戻すために奮闘」設定は鉄板なのだ。
そして藤子チルドレン世代である今井氏がこの鉄板要素に挑み、ハートフルで現代的な王道ジュブナイルに仕上げた本作を読んで、やはり涙を流さずにはいられない。

なぜこの名作が紙では絶版なのだ・・と日々嘆いているものだが、嬉しい話もある。今井氏の現在の連載作「アリスと蔵六」がこの4月からTVアニメとして放映されるのだ(祝!今井作品初アニメ化)
しかも、少し情報を見ただけでも主人公の蔵六に大塚明夫、主題歌にコトリンゴ・・最強布陣感。これはいよいよ今井哲也大ブレイクの予感・・?

となるとこの「ぼくらのよあけ」
本当に劇場アニメ化なんて展開もこの先無くはない?
関係者の皆様、劇場アニメに適した最高の原作がここにありますよ。
いや、実はもうすでに目を付けられているのかもしれない。

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