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政治講座ⅴ903「ロシア軍の失敗を『他山の石』とする人民解放軍」

 中国の人民解放軍が台湾への侵攻は、ロシア軍より脅威であることが次の報道記事から伺える。事前準備対応が必要である。
中国共産党は民主主義の弱点も十分熟知して、その弱点を突いた国民の懐柔工作を仕掛けてくる可能性が高い。孫子の兵法の「戦わずして勝つ」である。作戦がばれないように武力行使を盛んに強調しているが、奪い取る領土を破壊しては元も子もない。孫子曰く「兵は国の大事にして、死生の地、存亡の道なり。察せざるべからざるなり」。習近平氏はここまで考えているかはわからない。
今回は、その報道記事の内容を紹介する。

     皇紀2683年3月6日
     さいたま市桜区
     政治研究者 田村 司

なぜロシア軍はこれほど弱いのか、中国人民解放軍が徹底分析

3/4(土) 6:02配信

 ロシア・ウクライナ戦争(=露宇戦争)が勃発してから1年が経過した。ロシアのウクライナ侵略直後、世界中の多くの専門家は「ロシアが短期間でウクライナを占領するだろう」と予想していた。  
しかし、米国の統合参謀本部議長マーク・ミリー大将が「ロシア軍は、戦略的にも作戦的にも戦術的にも失敗している」と発言したように、ロシア軍はこの戦争で大苦戦し、多くの失敗を繰り返している状況だ。  
世界中の軍事関係者は、露宇戦争から多くの教訓を引き出そうとしている。特に中国にとって、これらの教訓はより重要な意味を持つ。  
なぜなら、中国は大規模な戦争の経験がなく、過去数十年間の急速な人民解放軍(=解放軍)近代化のためにロシアの兵器とドクトリンに大きく依存してきたからである。  
そのロシアが始めた戦争の帰趨は、中国が目指す台湾統一のための軍事作戦と密接な関係があるからだ。  

本稿においては、解放軍が露宇戦争、特にロシア軍をどのように分析し評価しているか、解放軍の機関紙である『解放軍報』を根拠に明らかにしたいと思う。
■ 露宇戦争は長期戦の様相  ウラジーミル・プーチン大統領はロシア軍に対して、「ドンバス地方の2州(ドネツク州、ルハンシク州)の3月末までの完全占領」を命じている。  この命令を受けたロシア軍は、ドンバス2州においてほぼ全力で攻撃している。  
しかし、多大の犠牲を伴ったロシア軍の攻撃は順調に実施されているとは言えない。  確かに最大の激戦地であるバフムト正面では、民間軍事会社ワグネルを中心としたロシア側の攻撃が徐々に進捗し、ウクライナ軍を包囲する態勢ができつつある。  
一方、ロシア軍が重視しているドネツク州南西部の要衝ウフレダル(Vuhledar)では数千人の犠牲者を出して攻撃が頓挫している。  ルハンシク州のクレミンナやスバトベ正面でも大きな部隊が攻撃しているが、ウクライナ軍の激しい抵抗に遭遇し、攻撃は進捗していない。  つまり、露宇戦争の現状は「膠着状態にある」と言わざるを得ない。

ロシア軍の人員・兵器の損耗は大きい  ロシア軍がこの戦争で被った人員と兵器の大量損耗は、今後の戦況に大きな影響を与えることになる。  
英国防省によると、2月末の時点におけるロシア軍の死傷者は20万人で、死者数は6万人に上る可能性があるという。  
この6万人という数字は、第2次世界大戦以降の戦争で死亡したロシア兵士の数よりも多い。  戦略国際問題研究所(CSIS)のリポートは次のように分析している。  
「ウクライナ戦争でのロシア軍の死者数は6万から7万人だ。ロシア軍の毎月の死者数は、チェチェン戦争での死者数の少なくとも25倍アフガニスタン戦争での死者数の35倍である
 ロシア軍の兵器の損耗であるが、オープンソースの情報を分析している組織「Oryx」の分析によると「ロシア軍はウクライナで毎月約150台の戦車を失い、2022年2月以降、合計1779台の戦車を失っている」という。  一方、エコノミスト誌によると、ソ連は1940年代、月に1000台の戦車を生産することができた。  現在、ロシアには戦車会社がウラルバゴンザボード(UralVagonZavod)1社しかなく、毎月20台前後の新型戦車を生産することができるが、1つの会社がウクライナ戦争における膨大な需要に追いつくのは困難である。  ウラルバゴンザボードはまた、毎月8両の古い戦車を改修しており、ロシアの他の3つの修理工場は毎月17両ほどを改修している。  ロシアは近い将来、新たに製造される毎月20両の戦車に加えて、毎月約90両の戦車を復活させることができる可能性はある。  しかし、ロシアはウクライナで毎月約150台の戦車を失っており、再生可能数は損失数には及ばないだろう。  つまり、経済制裁下における兵器生産の限界により、戦車以外の兵器においてもその損耗を穴埋めできない状況だ。  その結果、ミサイルや弾薬は不足し、戦車等の主要兵器が不足する状況である。  
ロシアは、イランや北朝鮮から弾薬や兵器を入手する努力をしているが、それでは不足を賄えない状況だ。  
そこで注目されるのが、中国からの弾薬や兵器の入手である。  もしも中国が武器や弾薬を大量にロシアに提供すると、露宇戦争に根本的な影響を与えることになる。  そのため、ジョー・バイデン政権は何が何でも中国の武器等の提供を阻止しようとして、その帰趨が注目される。  いずれにしても、中国がロシアの戦争遂行能力に大きな影響を与える可能性があり、中国がロシアの運命を左右する存在であることは確かだ
ロシア軍にダメ出しする『解放軍報』  解放軍は、露宇戦争におけるロシア軍の動向に注視し、その教訓を将来の台湾統一作戦に生かそうとしている。  解放軍の『解放軍報』は2023年1月12日付の記事で、苦戦するロシア軍に対してダメ出しを行っている。  その記事は、露宇戦争におけるロシア軍の問題点を率直に指摘した興味深い内容であるので紹介する。
 ●ロシア核戦力の統合  ・『解放軍報』の記述内容  通常戦力が立ち遅れるロシア軍にとって、核戦力は米国やNATO(北大西洋条約機構)との戦略的に対等な立場を維持するため不可欠な戦力になっている。  ロシア軍は、戦略核戦力の「3本柱」へのコミットメントを維持し、2022年に核兵器の近代化率を91.3%に高めた。  
 この年、最初の戦略爆撃機「Tu-160M」が航空宇宙軍に引き渡され、955A(ボレイ)型戦略原子力潜水艦「スヴォーロフ」が北方艦隊に編入され、大陸間弾道ミサイル(ICBM)サルマトが戦闘任務に就いた。
 また、ロシアは核封じ込めを効果的に補完するものとして、極超音速兵器に代表される非核兵器の封じ込め戦力を拡充し、「核と通常戦力」による2重封じ込め戦略効果を狙ってきた。  また、核演習によって核戦力を誇示し、核戦力の運用能力の向上を図り、「第3次世界大戦は核戦争になる」と西側諸国に警告を発した。  一方、実戦では戦略爆撃機による巡航ミサイルの発射、極超音速ミサイル「キンジャール」の反復使用などで決意を示し、NATOの直接軍事介入を抑止した。  
 ロシアはNATOに対する効果的な戦略的抑止力を確保するために、主権と領土保全、国際戦略バランスの重要な保証として、戦略核戦力の「3本柱」を維持し続けるであろう。  
筆者の解説  プーチン大統領が戦争の終始を通じて多用しているのが「核のカード」である。ロシアは、通常兵力ではNATOに劣っており、NATOとの均衡を保つために核抑止力に依存している。  ロシアは、「核演習を行い、核戦力の戦闘態勢を高め、第3次世界大戦は核戦争になると警告する」ことで西側諸国のウクライナへの支援を抑止している。  つまり、プーチンの核の脅しにより、バイデン政権は「F-16」や「ATACMS(陸軍戦術ミサイルシステム)」のウクライナへの供与を拒否している。  私はこの状況を「プーチンの核の脅しによる認知戦がバイデン政権に対して効果を発揮している状況だ」と表現している。  
『解放軍報』の記事では、ロシアが通常弾頭の極超音速ミサイルを使用することで、「NATOの直接軍事介入を抑止した」と記述しているが、私はこの記述に反対する。  私は、ロシアの極超音速ミサイルの効果は限定的だったと思っている。やはり、非核ではなく核ミサイルの抑止効果の方が圧倒的に大きいのだ。

陸上部隊を中核とした諸兵連合作戦の態勢構築  ・『解放軍報』の記述内容  
ロシア・ウクライナ戦争は、依然として陸上での勝敗が戦局のカギを握っていることをロシアに十分認識させた。  戦争開始当初、ロシア軍は作戦目的達成のため、大隊戦術群(BTG)を中核とした多領域連合作戦(多域联合作战)を行おうとした。  しかし、NATOの作戦支援に力を得たウクライナ軍を前に、諸兵連合作戦(CombinedArmsOpearation)能力の不足、戦争継続能力の不備など、BTGの弱点が次々と露呈された。  また、ロシア軍の諸兵連合作戦能力は限定的であり、ロシア軍は効率的な諸兵連合作戦を行うことができない状況だ。
 報道によると、陸上戦場における戦闘指揮関係を合理化するため、ロシア軍は陸軍を中核とする連合戦力システムを再構築し、戦術作戦レベルで部隊の高度な指揮統一を実現しようとしている。  そして、ロシア軍伝統の大軍団作戦の優位性を最大限に発揮して戦場における主導権を獲得しようとしている。  
 そのための第1の方策は、旅団の師団化プロセスの推進である。  
 旅団には柔軟性はあるが、規模が小さ過ぎて戦力に限界があり、長期にわたる高強度の消耗戦に効果的に対処することができない。  
 ロシア軍は師団を復活させる方針で、7個歩兵旅団を歩兵師団に拡大し、新たに3個歩兵師団を編成するほか、空挺部隊も2個空挺突撃師団の編成を増やす、さらに既存の海軍歩兵旅団をベースに5個海兵師団を編成する予定だ。
 第2の方策は、各集団軍に航空・宇宙軍を割り当てて作戦を行うことである。  露宇戦争において、ロシアの航空宇宙軍の出撃回数は少なすぎ精密打撃の効果がなく、陸軍との連携も限定的であった。
 この点で、ロシアは各集団軍に混成航空師団と陸上航空旅団を1個ずつ配置し、空地での統合作戦を確保する方針である。
 第3の方策は、西方戦略方面への兵力配置の最適化である。  フィンランドやスウェーデンのNATO加盟後に出現する脅威に対処するため、ロシア軍はモスクワとレニングラードの2つの軍管区を新設する計画で、西部軍管区はウクライナ方面の脅威への対処に特化する可能性がある。
 ・筆者の解説  ゲラシモフ参謀総長が鳴り物入りで導入した大隊戦術群(BTG)は現在、解体されている。  記事で書かれているように、諸兵連合作戦能力の不足、戦争継続能力の不備など、BTGの弱点が次々と露呈され、BTGは解体されている。  バフムトなどの激戦地では、BTGに代わる小規模な突撃部隊を多数編成して、人海戦術による波状攻撃を行っている。
 『解放軍報』は、ロシアが諸兵連合作戦の問題解決に苦戦していることを認め、「ロシア軍は諸兵連合戦の効果的な実行ができていない」と述べている。  西側のアナリストは、戦場におけるロシアの航空戦力の不在を推測している。この点がロシア軍の最大の問題点である。  
 『解放軍報』は、ロシア空軍は「出撃回数が少なすぎる」と批判し、「精密攻撃の効果が不十分で、陸軍との連携も限定的だった」としている。

ロシア軍の情報化作戦能力の不足により、特別軍事作戦においては従来の機械化戦争の戦法が継続されている。  ロシア軍は戦略・戦術を積極的に調整し、作戦のスピードアップ化を図り、情報化作戦能力の向上に力を注ぐべきだ。
 第1は、指揮・通信システムにおける情報レベルの向上である。  ロシア軍は指揮自動化システムの適用範囲を拡大し、大隊以下の戦闘部隊に指揮自動化システム端末と新世代デジタル無線を優先的に装備すべきだ。
 人工知能の技術を積極的に導入し、戦闘システムの有効性を向上させるべきだ。
 第2は、戦場状況認識能力を向上すべきだ。  主に分隊や小隊の戦闘部隊に無人機を装備し、戦場の偵察ネットワークを統合し、秘匿された通信チャンネルを通じてリアルタイムで情報を伝達し、「偵察と打撃」間のループの有効性を大幅に向上させるべきだ。
 第3は、ドローンなどの知的戦闘装備の開発を加速し、戦略ドローン、監視ドローン、徘徊型自爆ドローンの開発を中心に進め、特に精密誘導砲弾の生産を拡大することである。  また、ロシア軍の初期作戦や動員過程の後方支援に生じた問題や矛盾を受け、ロシアは軍事産業化委員会の役割を重視し、特別軍事作戦の材料や技術的なニーズに焦点を合わせている。  高度な医療キットや防弾チョッキなどの装備を部隊に提供している。  同時に、「外注」の後方警備のシステムをさらに最適化し、軍独自の「随伴」装備の整備と警備能力を向上させ、各レベルの修理部隊を復活させ、警備能力を戦場のニーズに合わせるとしている。
 ・筆者の解説  解放軍では、作戦の発展段階を「機械化→情報化→智能化」と表現している。  情報化作戦の典型は米軍の湾岸戦争やイラク戦争における作戦であり、ICT(情報通信技術)の進歩に伴い可能になった先進的な作戦である。  情報化戦争を可能にするのが指揮・統制・戦闘システムの開発と配備である。  この解放軍の分析でも、「ロシア軍の情報化戦闘能力は不十分である」と評価している。  ロシアは情報化戦を効果的に実行できないので、この理解によれば、「機械化戦の伝統的な戦術に頼らざるを得なかった」ということになる。  1990年代から2000年代にかけてバルカン半島や中東に展開した米軍の研究から、中国共産党は、将来の戦闘は情報を核として行われ、「非接触戦争」に大きく依存するだろうと考えるようになった。  これは紛争地域周辺から行う長距離精密打撃を意味する。ロシアが長距離精密打撃により、どの程度ウクライナでの作戦に成功したのか、解放軍は疑問視している。  情報化戦におけるロシアの現在の不備に対処するため、中国側は3つの分野に優先的に取り組むべきだと分析している。  それは、大隊以下の戦闘部隊への指揮自動化システム端末の装備を優先して、指揮自動化システムの利用拡大をすること。そして無人機の導入拡大である。  無人航空機(UAV)は分隊や小隊レベルで使用し、戦場の状況把握やリアルタイム情報の伝達により「偵察と打撃ループ(侦察-打击回路)」を改善する。  つまり、リアルタイムの目標情報に基づき、迅速な火力打撃により目標の迅速な撃破を実現するということだ。
 ロシア陸軍は、ISR(情報・監視・偵察)のプラットフォームを使用し、最下層の部隊や指揮官に権限を与え、目標捕捉、偵察、攻撃を迅速化することの価値を認識するに至った。
 解放軍は、米国の無人偵察機と攻撃用ドローンの導入についてはすでに研究しており、中国の巨大な国内ドローン産業とともに、中国軍のあらゆるレベル、各兵科における高レベルのドローン使用を加速させるものと思われる。  
 結論として、解放軍はロシア軍の作戦を情報化作戦に至らない古い機械化作戦レベルであると批判しているのだ。
 結言  中国共産党は将来的な台湾統一を睨んで、露宇戦争の動向をよく観察している。
 『解放軍報』の分析記事は、露宇戦争におけるロシア軍の軍事的失敗を率直に認めている。  つまり、ロシア軍は、解放軍にダメ出しされているのだ。  露宇戦争においては、表面上はロシアに有利に見える烈度の高い戦争も、エスカレートするリスクを伴う長い消耗戦に陥りやすい可能性が非常に高い。  
 中国の指導者たちが、これを単に克服すべき一連の軍事技術上の問題と見ているのか、それともそもそも戦争は避けるべきだという警告なのか、いずれの結論に達するかが注目される。  いずれにしても、露宇戦争で明らかになった問題点を改善するために、北京の政治家や戦略家が日夜努力していることが、中国語の文献から読み取れるのである。   渡部 悦和

参考文献・参考資料

なぜロシア軍はこれほど弱いのか、中国人民解放軍が徹底分析(JBpress) - Yahoo!ニュース

圧倒的な空軍力を誇りながらロシア軍が航空優位を取れない理由の一つが、米軍が供与している携帯型地対空ミサイル「スティンガー」だ(写真、米海兵隊のサイトより)

本格攻勢に出始めたロシア軍と崩壊寸前のウクライナ軍 損耗著しいウクライナ兵に代わりNATO軍兵士も戦闘参加(1/6) | JBpress (ジェイビープレス) (ismedia.jp)

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