都村つむぐ

読書と酒と旅が生きがいの元書店員兼書く人。あー今日も仕事行くの面倒だな、とか、寝たら明…

都村つむぐ

読書と酒と旅が生きがいの元書店員兼書く人。あー今日も仕事行くの面倒だな、とか、寝たら明日が来ちゃうのか、とか、そんな憂鬱なひとときを少しだけ楽しくしたいエッセイと小説。

最近の記事

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読書メーターに本気でレビューを投稿し続けた8年間のこと

読書メーターに投稿した本の感想が400冊を超えた。 2012年から始めて約8年。 「うわ、書くことない!」と途方に暮れた日も、「こんなの言葉にならん!」とさじを投げそうになった日も、辛抱強く目の前の1冊と格闘してきた。 1年で50冊、というと読書家の中では少ないけれど、1本のレビューに半日は費やす。一冊一冊と過ごした時間は誰よりも濃密だったんじゃないだろうか。 「嫌いな夏休みの宿題は?」と聞かれたら迷わず「読書感想文!」と答えていた私が、気づけば人生の3分の1以上せっ

    • 推しのライブが終わってからの悲哀と慕情の1週間の日記

      3月24日(日) ◉朝8時、池袋のホテルにて起床。昨夜、ルミネtheよしもとのセンター最前列で観たしずるの単独ライブ「不自然な藍色」の余韻がまだ東京の一室を浮遊している。 ライブ終わりにタフネス(しずるのファンの呼称)たちと交わしたビールの炭酸の痺れも喉に残っている。本当のお名前もお仕事も知らないけれど、好きなシーンやセリフを共有するだけでいつまでも話すことができる。 昨夜は観たばかりのネタに登場した「酢橘をおしぼりにかけて清涼感を味わう」くだりをフリだけでもやりたくて

      • ハロー、チェルシーのない世界

        「酔いそうー」 子どもの頃は車酔いしやすく、帰省ラッシュの渋滞にはまると決まって気分が悪くなった。本格的に酔う前に後部座席から助手席の母に自己申告。 つられて妹も「酔ってきた」と声を上げる。促音とカ行の引っかかりのリズムが楽しくて「酔ってきた、酔ってきた」と到底不調を訴えているとは思えないビートをふたりで刻む。にゅっと母の腕が伸びてくる。開かれた手のひらには色とりどりの飴玉。 「ほな飴ちゃん舐めとき」 大阪のおかんのイメージそのままに、母はいつでも飴玉を持ち歩いていた

        • 書店員最後の1週間の日記

          1月某日(月) 最後の出勤まで1週間を切った。ここ数年、シフトは遅番固定だったので、久しぶりにしてラストの早番。 入社からの2年で施設内のコピー機5台が示し合わせたように順次再起不能となり、ついに全撤去が決まった。スマホで写真を撮れば解決するケースも増え、USB接続のできないコピー機の利用は減っている。技術の進歩の中で静かに取って代わられるものを、抗いながら見送るのも書店の仕事なのかもしれない。機械の中にセットされた釣銭を回収し、膨大な小銭をちゃらちゃら弔うように数えた。

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        読書メーターに本気でレビューを投稿し続けた8年間のこと

        マガジン

        • 次の駅までのひとときに
          38本
        • 転職を余儀なくされる書店員の赤裸々
          8本
        • 都村の入口
          17本
        • 本にまつわるエトセトラ
          29本
        • 短編連作『今日も今日とて私を生きる』
          6本
        • 一歩踏み出せ、旅とならん
          7本

        記事

          転職を決めたら”たられば”を考えない(#転職を余儀なくされる書店員の赤裸々)

          「もう少し早く、なんとかできたらよかったんですけど」 最後の出勤日まで1週間を切ったある日、バッグヤードで伝票処理をしていると、久しぶりに見回りに来た本部の上司がつぶやいた。 心意をはかりかね、振り返る。上司はパソコンの画面を見つめたまま「僕が、なんとかできたらよかったんですけど」と付け足した。 「人件費削減の方針でシフトが減り、もう生活できない」という私の退職理由への返答なのだろう。 面接し、私の入社を決めたのは彼だ。本が好きでこの職場を選んだことも伝えてある。「都

          転職を決めたら”たられば”を考えない(#転職を余儀なくされる書店員の赤裸々)

          レジカウンターで退職を申し出るみじめさが、書店員の愛と誇りを知っている(#転職を余儀なくされる書店員の赤裸々)

          「それでは、内定をお受けする形でお願いします」 正式に入社の意向を伝え、内定先との通話を切る。スマホをエプロンのポケットに戻し、深いため息とともに椅子に沈む。 家で落ち着いて電話を受けるつもりが、急遽出勤せざるを得なくなり、30分だけ職場の書店が入った建物のテラスまで抜け出してきた。 顔を上げると、換気のために開け放された窓から本棚が見える。転職活動をしていることは職場には伝えていない。レジに立つ同僚は死角にいるとはいえ隔てるものはなにもない。先ほどまでのやりとりが届い

          レジカウンターで退職を申し出るみじめさが、書店員の愛と誇りを知っている(#転職を余儀なくされる書店員の赤裸々)

          所持金が500円になるまで楽しんだ私の文フリレポート@京都

          回してください、と隣に並んでいる女性から差し出されたパンフレットを受け取る。東京での盛況の噂を聞き、開場の30分前にみやこめっせに乗り込んだが、すでに横4列の待機列ができ始めていた。想像以上の熱狂に圧倒される。 文フリこと文学フリマは、小説やエッセイ、詩歌などの作り手が集まり、自ら販売するイベント。大手書店に流通する本だけでなく、個人で制作したものも多く出品される。 かくいう私もこの文フリの出店を目標に、1年前からいくつか並行して制作していたのだが、どれひとつとして間に合

          所持金が500円になるまで楽しんだ私の文フリレポート@京都

          会社だからみんな同じ志のもと働いていると信じていた(#転職を余儀なくされる書店員の赤裸々)

          赤裸々と銘打ちながら、選考中にあれこれ書いてよいものか迷っているうちに内定をいただいた。書店に未練がないわけではないが、就活を始めた当初の予定通り経理の仕事に決めた。 一次面接を終え、昼休みのサラリーマンに紛れチェーン店のカツカレーに食らいつく。さっくり揚がったカツをスプーンで口に運び、手ごたえなのなさを一緒に飲み込む。 求人に「経験が浅い方でも」とあったので応募してみたが、企業の想定している「経験の浅さ」がプールの前に入る腰洗い槽だとしたら、私のスキルは雨上がりの水たま

          会社だからみんな同じ志のもと働いていると信じていた(#転職を余儀なくされる書店員の赤裸々)

          2024年達成できなくても問題ないけどできたら嬉しい10個

          祖父の七回忌法要の後、従妹弟家族と会食することになった。畳敷きの和室には明るい光が差し込み、卓に料理が美しく配膳されていく。 会うのは祖父の葬儀以来である。こちらの人見知りをものともせず、まるで毎日顔を合わせているかのように従妹弟家族は話しかけてくる。この人たちと血がつながっているのだなあと不思議な感慨にふけっていると、叔父が改まって音頭を取った。 「それではせっかく集まったことですし、一人ずつ今年度の目標を発表しましょう」 私は驚きのあまりポカンと口を開けたまま叔父を

          2024年達成できなくても問題ないけどできたら嬉しい10個

          リアルタイムを書く覚悟を決めたら、noteが少し豊かになった

          思考はいつも感情の後にやって来る。私の場合、心動かされる出来事が起きてもすぐには言葉にならない。書くときも少し時間を空けて、結論までの道筋が経ってから机に向かう。 一度感情に専念している分、記憶には残りやすいらしい。その時の心情の変化や周囲の景色、ささいな物音まで思い出せる。長く抱えている間に、他の経験と組み合わせて思考を強化させたり、熟成させたりもできる。自分のこの習性に書き手として何度も救われた。書くことはいつだって思い出の中にある。 と思っていたのだが、今年に入って

          リアルタイムを書く覚悟を決めたら、noteが少し豊かになった

          習慣化のコツはアイテム選び!2023年始めた趣味と買ってよかったもの6個

          子どもの頃に想像していたほど、大人は満ち足りていないなあと思う。 多少の自由はあるけれども、時間のほとんどは労働に割かれ、稼いだお金は生活に取られる。体力は失われ、襲い来る理不尽に気力はつき、気づけば友が減っている。ありとあらゆるものがぼろぼろこぼれ落ち、あと5年もすればからっぽになるのではないかと時々不安になる。 由々しき事態を避けるため、2023年下半期は”小さくはじめる”をひそかな目標にしてみた。 書き手の性ゆえ、なにごともエッセイのネタにできる程度には極めようと

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          お金のない書店員がたくさん読むためにしていること

          本にだけはお金を惜しまない。社会人1年目から守り続けてきたマイルールを、書店員になって覆すことになった。 社会に出たての頃も苦しかった。食堂の定食代を払う余裕もなく、厨房から漂う匂いをおかずに具なしの爆弾おにぎりを貪る日々。それでもどうにかやりくりして、好きな作家の単行本をためらわずレジに持っていく贅沢だけは許すことにした。 その緩みすら看過できないほど、生活は当時より厳しい。時給は最低賃金。首相が引き上げを表明するたび、シフトは減らされる。手取りから通院費と生活費を引く

          お金のない書店員がたくさん読むためにしていること

          そりゃ、緊張するよね、面接だもの。そりゃ、必死になるよね、辞めたいくらいの環境なんだもの。(#転職を余儀なくされる書店員の赤裸々)

          転職サイトを利用していると、求人に応募するハードルはずいぶん下がったなあと思う。 やれやる気が起きないだの、書いてあること全部嘘っぱちに見えるだの言い訳して2カ月もログインをサボった人間とは思えない感慨であるが、実際Web履歴書を登録しておけば、志望動機だけ作成して、ぽちっとな、で選考に参加できちゃうのだ。 締め切りに追われ、泣きながら企業オリジナルのエントリーシートを手書きした新卒就活はなんだったのか、むなしさすら覚える。 流れに乗って、気になっていた企業の求人に応募

          そりゃ、緊張するよね、面接だもの。そりゃ、必死になるよね、辞めたいくらいの環境なんだもの。(#転職を余儀なくされる書店員の赤裸々)

          書店員、初めて選書してもらう

          通り過ぎる瞬間、思わず一冊の背表紙に惹かれるように、ひとつのツイートが目に留まった。 CAVA BOOKSさんは京都出町柳にある書店。商店街の一角に佇む副業施設「出町座」の中にある。カフェやシアターが併設され、一歩踏み入れば立ち込める濃密なカルチャーの香り。カウンターで一杯傾けながら上映時間を待つ客を背に、しっとりと本を選ぶ時間はちょっと他では味わえない。 京都文学レジデンシーについて調べてみると、世界各国から作家や翻訳者を招致し、滞在期間中、講演会などのイベントを開催し

          書店員、初めて選書してもらう

          永遠は意味のないものの中に

          繁忙期の連勤終わり、ケンタッキーのオリジナルチキンと缶ビールの入ったビニール袋を揺らして秋めく夜の田舎道を歩く。カーネルサンダース感謝祭とご褒美のタイミングがマッチした今夜くらい、贅沢したっていいだろう。 いつになくほくほくとした足取りで帰宅すると、父から一通の茶封筒を渡された。卒業した大学の学会誌である。会長に就任した教授の挨拶文や活動報告が確か年に一度か二度くらいのペースで届く。ビールを冷蔵庫に入れてすぐに封を切った。英文学から離れた私には特に縁のない情報を読むともなく

          永遠は意味のないものの中に

          大きな決断に必要なのは大きな勇気じゃない(#転職を余儀なくされる書店員の赤裸々)

          転職サイトにログインし直すのに2ヵ月かかった。利用するのは約2年ぶりだが、仕様が変わって手間取ったわけでもないし、パスワードを忘れたわけでもない。ただただ気乗りしなかったのだ。 「経営難につきシフトを減らす」と店長から宣告を受けた直後は、「この給料で生きていっけかあ!」と啖呵を切り、すぐさまnoteで転職の決意表明をするくらい息巻いていたのに。 Googleの検索窓に職種と条件を打ち込み、軽く求人を調べてみると、 「人気ありそうなのにこの求人2年前にも見た……人が定着し

          大きな決断に必要なのは大きな勇気じゃない(#転職を余儀なくされる書店員の赤裸々)