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【書評】MLSから学ぶスポーツマネジメント/中村武彦/東洋館出版社

MLSから学ぶスポーツマネジメント/中村武彦/東洋館出版社


「最近、アメリカのサッカーが熱いらしい」

と、どこで目にしたのか耳にしたのかはハッキリわからないが、そんな曖昧な情報だけが自分の中の片隅にあった。

いつかラグビーを引退した時には、海外のスポーツ機関で働きたい、そのために海外でスポーツマネジメントを学びたい、と漠然と考えている自分にとっては、本書は心臓バクバク、ドキドキしまくりで大興奮の一冊だった。

MLSとは、アメリカのサッカーリーグ、メジャーリーグサッカーのことである。アメリカには昔同じようなサッカーのリーグがあったのだが、倒産してしまい、一度失敗してしまっている。そこから復活を遂げ、今ではアメリカの中では4大スポーツとされている、フットボール・バスケ・ベースボール・アイスホッケーに、今後5つ目のスポーツとして名を連ねるのではないかと言われるほどの人気が、アメリカで起こっている。

そんなMLSで、5年にも渡ってスタッフとして活躍された著者・中村武彦さんが、自身の経験と、そんな躍進を遂げているMLSやアメリカにおけるスポーツのあり方について細かく描かれていた。

「世界のスポーツ」という大きな枠の中ではとても小さい「日本のラグビー」という枠の中でしか生きてこなかった自分にとっては新鮮すぎる事ばかりで、自分の生きてきた世界の狭さを痛感した。

本書の中では、衝撃的な事や、なるほどと思う事が多すぎたので、自分の中で残っていること3つを紹介してきたいと思う。

下記の感想を通して、「アメリカだから良い」とか「日本だからダメだ」とかそんなことを述べているのではなく、そんな世界があることを知って、日本らしさを改めて考えるきっかけになればと。

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なるほどな、その①

まず、アメリカのプロスポーツリーグは、リーグとしての成功を一番に考えている。各チームのオーナー達も、「ピッチの上では競合だが、ピッチの外ではパートナーである」という共通認識があるのだ。

このようなシステムのことを

シングルエンティティシステム

という。

チームはリーグに属する。リーグの発展が一番。

だから、どこか一つのチームが莫大な資金を投資されて強化して、常に優勝している、というような状況が起きない仕組みができているのだ。

そのため、応援しているファン達は、常に自分のチームの優勝を期待できる。

車のレースに例えると、ある人は高級車、ある人はボロい車ではなく、全員同じ車に乗ることで、誰が本当に腕の良いドライバーかわかる、という見る側にとってのワクワク感がある。

サラリーキャップの上限を設けることや、上限を超えるような例外がある場合は資金の乏しいチームに余分にお金を分配するルールがあったり、NFLではドラフトは低い順位のチームから取っていくような仕掛けがある。

日本のラグビー界を考えた時、確かに日本でラグビーが盛り上がって欲しいと、ラグビーに関わる全ての人が思っていると思う。

その一方、トップリーグを考えてみても、あそこのチームはお金があるから良い選手がたくさん集まるとか、あそこのチームは最近会社が危ないから選手が集まらないとか、リーグとしての均衡を保たせようという動きはあまりない。どれだけ自分たちのチームが魅力的か、金持ちかという、オーナー会社の資金力で差をつけようとする傾向が見られる。

ただその分、リーグとしてのレベルは急激に上がっている。均衡を保つMLSよりも歴史は短いが、グローバルな舞台で戦えるレベルになってきている。

リーグの発展を重視し、ファンに期待させ、たくさんの人を呼び込むMLS

勝つために現場に資金を投下し、観客は少ないものの、世界で戦えるレベルまで引き上がっている日本のラグビートップリーグ。

なるほどな、その②

オフ・ザ・ピッチへの投資が半端じゃない。

アメリカのスポーツにおける根本的な考え方として、

勝敗やスター選手のケガなど、計算できないことに対して投資をするという考えが、ない。

スポーツは勝ったり負けたりするもの。選手もどんな良い選手だって、ケガはつきもの。だから、そんな選手に大金を出して、試合に勝つことで元を取ったとか、負けたから損したとかそういう発想がないのだ。

そんなオフ・ザ・ピッチのプロフェッショナルな人材も選手と同様にヘッドハンティングされて移籍したり、チケット販売要員養成所があってそこにチームからオファーがあったり、優秀なスタッフはピッチに立つ選手の出す結果よりも確実性が高いものとされている。

日本のラグビー界では、完全プロ化をしていないこともあり、基本的にはチームのマネジメントは元々会社にいた社員がやるか、そのチームのOBが所属する流れとなっている。そのため、なかなか選手やコーチ以外で外部から戦力としてスタッフが入閣するという風習は見られない。

優秀なスタッフがいることでファンが増え、資金が集まり、良い選手が入り、試合に勝つ、というそこまで計算できるのなら、選手でなくてもチームの勝利に貢献できる外部からのスタッフ(オフ・ザ・ピッチの選手)に投資をするというのは、今のトップリーグにおいては面白い試みだと思う。

なるほどな、その③

アメリカでのスタジアムの考え方として、

「スタジアムを維持するためのコンテンツの1つとしてチームを持つ」

という考え方がある。これには驚いた。

でも確かに、

「チームのためにスタジアムが存在している」

という考え方だと、年間行われる試合の数も多くはないし、その維持費や建設費を考えても、明らかに元は取れない。

このアメリカの発想は、自分の中では新鮮であった。

日本でも、最近ズタジアムやアリーナの計画が多くあるが、そういったアメリカ的な発想が導入されているのか、どれも何かと併設していたり、スタジアムがあることで街の活性につなげていくという、スポーツだけじゃない仕掛けが必ず含まれている。

自分のチームにはまだスタジアムは存在しないが、いつか関われる時がくるなら、そのようなスポーツ以外の仕掛けに注目していきたい。

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終わりに。

純粋に、本だけでこれだけ興奮してしまって、今は現場で生で体感したいという思いが募りまくっている。

そして、世界のスポーツ界も目まぐるしいスピードで変化していっているので、そのスピードに遅れないように普段からもアンテナ張っておきたいと思った。

こんな本に出会えてよかったと思った。めちゃ読みやすいし。

今は現役の選手としてプレーに集中する一方で、逆算して学べること、実践できることを考えて行動していこうと思う。

アメリカのスポーツマネジメント気になる人にとっては、オススメの1冊です。


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