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【好きになる人はいつも海の向こう〜Episode 4〜】

一目惚れした彼がフランスへ留学して3ヶ月が経った頃、私たちはある場所で再会を誓った。

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最高にいい気分で朝を迎えた。

半年前に一目惚れした相手と今、フランスで朝日を浴びている。

その日は、近所で開催される食の祭典へ足を運んだ。

各地からのすごい出店数で試食がもはやフルコースの域。


私は、「行き当たりばったりの無鉄砲野郎」をここで存分に発揮してしまった。


Dijon マスタード店
に出会ってしまい、
今なら10個分の値段で12瓶を購入できる。

しかも、カシス味、ハニーマスタード味、なんだか忘れたけどとにかく色んな種類があって、
無類のマスタード好きの私は止まらない。


旅3日目にして、これからイタリア旅行も控えているというのに2泊3日分しか入らない小さなトランクに詰めて帰ると思うとワクワクしてきた。

すごい重量。


途中で、店員のおばあちゃんに、

「かわいいカップルだね。」

なんて話しかけられて、なんて答えていいか分からず、Japanese Eshakuでお茶を濁す。


えっさほいさと、螺旋階段をぐるぐるのぼり、最上階の彼の部屋へ戻る。

どうにかマスタードを詰めて、明日から始まるイタリア旅行の計画を立てる。

とは言っても、
世界一小さい国、バチカン市国へ行って、ローマでジェラート食べて、パスタとピザ食べて、フィレンツェへ向かおう、

というすごくざっくりした計画。


そして、翌朝事件は起こった。


ジェントルマン瑛太は、いつも重い荷物を持ってくれる。


私は、自己責任でマスタード12瓶も買ったので申し訳なく、彼が鍵を閉めている間にえっさほいさとトランクを持って階段をくだった。



「僕が持つよー!」

「大丈〜bbbbb&@/-?!薔€$%£•\$!!!!’nn」**



凄い勢いで一歩目で踏み外し、私は螺旋階段をグルグルと回りながら落ちていった。


思えば短い命だった。


そもそも、イタリア旅行1日目ですでにマスタード12瓶ってなんやねん。

素直に瑛太に荷物を持って貰えば良かった。


ああ無念。


走馬灯のようにマスタードのことが頭をぐるぐる回り、なぜかローラースケートのことを思い出す。


そういえばあれには足先にゴムのようなストッパーが付いていて、地面と摩擦することで止まる仕組み。


そうだ、壁に拳を押し付けて、ストッパーにすれば止まるはず!



まだ死にたくない私は、壁に拳を当て、摩擦を利用してやっと下の階の人のドアの前で止まることができた。


我ながら、頭の悪い策だったように思うが、
幸い下まで真っ逆さまに落ちることはなかったので良しとしよう。

一応、有名な鈴虫寺のカード型お守も財布にいれていたのに全然効き目がないじゃないか!
あ、くそう!

でも、大事に至らなかったからよしとうしよう。ありがとうな!鈴虫!

半ばやけくそで感謝していると、
怒号のような音を立てているの聞きつけて、
私が落ちた目の前の部屋のカップルが出てきた。

「cjchdjdhuicsdh?agcziajiodsuiahui???」

フランス語で、なにか言ってるのだが、全然わからない。

私の手は、もはや血まみれで、
それでも唯一知っているフランス語で答えてみた。

**「トレビア~~~ン(最高です)」 **

(血まみれの手で親指立てながら)

すると、

サイコパスアジア人!!
と思ったのか、

ドアをバタン!と閉められた。

そりゃ気持ち悪いよな!自己防衛としては満点!


ものすごい音を聞きつけて、瑛太がすごい勢いで降りてきた。

「大丈夫?!!!!」


とりあえず、走馬灯の話とカップルへの血まみれトレビア〜ンの話を簡潔に話すと大爆笑してくれた。

真面目に恋愛エッセイを書いているつもりなのに、なぜかすっとんきょうな要素が全面に出てしまう。

右手の拳は血まみれで、パンパンに腫れているが折れてはなさそう。

治療してもらい、仕切り直し!

さぁ、イタリア旅行だ!!

駅に行くまで日曜日の閑散としたDijonの街を案内してもらう。週末、下宿生は親元に帰ったり、仕事はみんな休みだからお店も開いていない分、働いている家族と過ごしているんだとか。いいな、なんかいいな。


駅について、イタリア行きのチケットを買った。スイス経由でイタリアに入るルートだ。私たちは、ずっとずっと手を繋いでた。

たまに、右手を握られそうになり、「痛い!」というと、"トレビア〜ン"エピソードを思い出すのか、瑛太はクククと笑ってた。


初めて着いた、スイス。

そこでも事件が起こった。

震えるほど、悔しかった。


スイスにはスイス語はなく、いろんな国の言葉が使われている。乗り継ぎを待つ間、私たちはマクドナルドで休憩することに。

荷物と席の番をして、瑛太がオーダーに行く。

すると、隣に座っていた金髪角刈りシャ乱Qみたいな男女グループ(推定19歳)がずっとずっとこっちを見てヒソヒソ話をしてきた。

明らかに、私を見下してる。明らかに、差別されている。と肌で感じた。英語で論破しても、きっと笑われる。でも、悔しい。

私の一挙一動を真似してゲラゲラ笑ってる。差別ってそんなに美味しいの?


泣きそうになる私を瑛太が見つけて、

「どうした?」

「隣の時代遅れカップルがずっとバカにしてくる。悔しい。」そういうと、瑛太は、

「僕も、フランスに来て何度も同じような経験をした。差別する奴本当にたくさん会って来た。」

留学をすごく楽しんでいると思っていたけど、その笑顔の奥では計り知れない努力と経験をしているってことが少し垣間見れた。

それでも、隣の角刈りは退治しないといけない。銃とか持ってたら怖いけど、悔しい。


考えに考えた私の策はまたしてもサイコパス要素を含んでいた。


こっちをチラチラと見てクスクス、ヒソヒソ、私の真似をしてゲラゲラ。そいつらの方を、

「薄ら笑いでずっと見つめて、パンを艶かしく頬張り、血の滲んだパンパンに腫れた拳を時をりちらつかせる」

という打開策。

「はいはい、差別って楽しいね、人を小馬鹿にして楽しいね、私はそんなんへっちゃらよ。」という意思を示したかった。


すると、やっぱり気持ち悪かったのか、早々に出て行き、最後の捨て台詞に

「このチャイニーズ野郎が!!」

と言われた。

さすがに、瑛太もブチ切れして、

「黙れコラー!!!」

と、撃退してくれた。


すんごい腹がったったけど、差別された側の気持ちをちゃんと理解できる経験値として学んでいこう。

私たちは転んでもただでは起きない。


数時間のスイス滞在は、ハプニングしかなかったけど、

恋のスパイスには角刈りも役に立った。

・タイミング

・フィーリング

・ハプニング

恋の三大要素。

その日はハプニングしかなかったけど、ネガティブなことを笑いにできること、撃退してくれたこと、フランスでいろんな経験しながら頑張ってることが知れて距離がぐっと縮まった。


空が漆黒に染まる頃に、私たちはイタリアへ降り立った。


to be continued...




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