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「予測できる売上」のつくり方『成功しなきゃ、おかしい』読みどころ紹介

まずは「成長準備」を整えるために、なすべきステップを知ろう

起業家や新規事業開発の責任者にとって、どのように事業成長を描くかは大きな至上命題の一つです。

「数年間で、あなたが100億円ビジネスを築き上げるなら、いったい、どんな道程を進めばいいのか?」

このデジタル時代において、最短距離でゼロからビジネスを成長軌道に乗せる。そのためのプロセスを体系的に学べるのが、今回ご紹介する『成功しなきゃ、おかしい 「予測できる売上」をつくる技術』です。

本書の著者の一人、アーロン・ロス氏はSalesforce.comで見込み客獲得プロセスを設計し、数年で年商5億円から100億円企業に成長させた人物。現在は様々な企業の新規ビジネスを短期間で2〜3倍の規模に伸ばすコンサルティングを展開しており、ベストセラーとなった著書『Predictable Revenue』は「シリコンバレーのセールスバイブル」と呼ばれています。

もう一人の著者であるジェイソン・レムキン氏は、IT企業の起業家やベンチャーキャピタリストとして活躍し、SaaS起業家の世界最大コミュニティSaaStr.comを立ち上げた人物です。

SaaS業界をリードする二人によって書かれた本著は、「成功は予測不能なんかじゃない」として、デジタル時代に最速で成長するために通過すべき段階を以下の7部に分けて体系化しています。

①ニッチを決める
→成長の加速させるための準備を整える。

②予測可能なパイプラインを構築する
→売上につながる営業パイプラインをつくる。

③売上をスケーラブルにする
→成長すると生じる様々な問題を解決し、売上拡大に必要なキャパを準備する。

④取引規模を大きくしていく
→大口取引やアップマーケットで成長に弾みをつける。

⑤「耐え忍ぶ時期」と腹をくくる
→創業者の誰もが直面する「地獄の1年」を乗り越えるための蓄えを行う。

⑥社員オーナーシップを採り入れる
→社員に経営者意識を持たせ、職務を超えて自発的に仕事をする企業文化をつくる。

⑦自分で運命を決める
→依存ではなく、チャンスを後押しし自分の意思で生きる。

新しい成長を作る仕事は、一度、回り道をしてしまうと、もとの軌道に戻るのが、極めて難しい」というように、回り道をしないためにも各段階についてはぜひ本書を読んでいただきたいところ。

ですが、今回は「デジタル時代で成長するためには、通過すべき段階に沿って、予測できる売上を上げる集客モデルと組織を作り上げていかなければならないのであり、それをすっ飛ばしてしまえば、すぐに事業は枯れ落ちてしまう」と書かれているように、「集客モデル=マーケティング」と「組織を作ること=組織づくり、採用」の2つのポイントに絞って本書の読みどころを紹介したいと思います。

ニッチを絞り込むと、成長のための膨大な時間と費用を節約できる

日本語版監修者の神田昌典氏は、本書の価値を「全体の道程を、読者に試行錯誤させることなく、最短距離で導いてくれるところ」と評価し、その一例として「あったらいいなというもの」ではなく、「なくてはならないもの」という商品・サービスを突き詰めて考えるだけでも「膨大な時間と費用を節約できることになる」と述べています。いわゆるプロダクト開発やターゲット設定の段階の取り組みになりますが、これについて詳しく書かれているのが1部「ニッチを決める」です。

著者は「ニッチ」とは「小さく考える」ことではなく、「焦点を絞り込む=「特定」の頭痛の種を抱えている「特定」のターゲットに絞り込む」ことであり、同時に「最高の価値を生み出せる独自の強み」に絞り込むことでもあると言います。

そもそもなぜ、事業成長にニッチが欠かせないのでしょうか?
その理由について著者は、ビジネスの初期段階は「アーリーアダプター=直感的にわかってくれる人」を相手にするケースが多いが、「売上100万〜1000万ドルに達するあたりから、壁にぶちあたる」と述べ、売り込めるアーリーアダプターや口コミ・紹介が頭打ちになることを説明します。そうなると、次は「メインストリーム」に売り込む必要があるのですが、メインストリームはこちらのことを知らないし、直感的にわかってくれることもないので、売り込むのは簡単ではありません。

このアーリーアダプターとメインストリームの間にある「信用の溝」を乗り越えるためには、「①わずかな時間で言いたいことを伝える工夫」か「②関心を払ってもらえる時間を増やす」必要があり、ニッチを明確に決めておくことで①と②を実現するマーケティング活動が可能になるのです。

本書では著者の失敗談や企業事例を交えながらニッチを決めるための様々な手法が紹介されていますが、ここでは一例として、絞り込んだニッチが正しいかを確認するための「20人インタビューのルール」を取り上げたいと思います。

20人インタビューのルール」とは、「会社の規定づくりやニッチの最終決定など、なにか大きな行動に出る前に、実際の潜在見込客20人に話を聞く」というもの。潜在見込客の中に友人や知り合いは含めず、もし営業課長に売り込むなら営業担当者ではなく、セールスオペレーションの担当役員か部長クラスに話を聞く必要があります。

インタビューの具体的な手順は下記のとおりです。

  1. 最初の5人:入り込める余地やいまある案件をしっかり把握する。売り込もうとしているプロダクトを買い手の視点で理解する。

  2. 次の5人:最初の5人から学んだパターンが合っているかを確認する。

  3. 11〜20人:売り込み方や伝えたいことを磨いていく。こちらの主張や戦略を研ぎ澄ませ、「ないと困る」から「あったらいいな」をすべてふるい落とす。

この20人へのインタビューにおいて「手抜きは禁物」であり、きちんと相手の話を聞いたうえで、「話を聞いて学んだことに基づいて、想定していたものに重要な修正を必ず加えよう。その甲斐は必ずある」と著者は説いています。

「予測できる売上」は、ハイパー成長企業の必須条件

ニッチを絞り込むことができたら、次は本書のサブタイトルでもある「予測できる売上」をつくる段階に進みます。予測できる売上=Predictable Revenueとは、「今日の顧客データの動きを眺めれば、数ヶ月後の売り上げを高い精度で予測できる事業モデル」のことを指す、ロス氏が最初に生み出したと言われるキーワードです。

この予測できる売上をつくることがハイパー成長に欠かせない重要な要素であり、第2部「予測可能なパイプラインを構築する」でその方法を詳しく解説しています。ロス氏は、「売上を3倍にする一番いい方法は、営業の人数を3倍にすることじゃなく、有望リードの数を増やすことだ」と述べ、新たな有望リードを先回りして獲得することの重要性を説いています。

リードについては、具体的に3種類に分けてそれぞれの構築方法を説明しています。

① シード(種)
口コミ、ネットワーク、人脈などから獲得する多対多のリード。人間関係やネットワークを築きながら相手の成功支援を行い、顧客満足を高めて継続利用を増やしていく。いわゆる、カスタマーサクセスのこと。

② ネット(網)
1対多の各種マーケティングキャンペーン。リードを大量に獲得し、ゆくゆくは購入してもらうようにコミュニケーションを行う。いわゆる、コンテンツマーケティングやインバウンドマーケティングのこと。

③スピア(若芽)
ターゲットを絞ったアウトバウンドマーケティング。見込み顧客を開拓し、コンタクトやアポイントを取ること。

その上で、ロス氏は「たった1種類のリードジェネレーションにしがみつき、それ以外には見向きもしない企業が非常に多い」ことに警鐘を鳴らし、3種類のリードをどんなタイミングでどのように使うのかを理解すべきだと言います。

例えば、「シード」は売上性が高く、クチコミの場合は成約までのスピードが一番早く、成約率も一番高いという特長があります。一方、増える速度をコントロールしにくいという側面もあり、シードを育てるには優れたカスタマーサクセス構築が重要であることを述べています。

本書ではカスタマーサクセスはカスタマーサポートとは異なり「顧客の満足度をアップさせることではなく、売上をアップさせること」と定義しています。例えば、活動や成果を測定する「顧客維持率」や「アップセル売上」を成果に入れることで財務上の責任を持たせ、「最終的なマイナスチャーン」を上げる、といった「カスタマーサクセスへの6つのカギ」についても解説しています。

さらに、「毎月の解約率を4%から1%に引き下げたギルド」の事例では解約率を引き下げた3つの手法やチーム構成についても具体的に紹介しています。カスタマーサクセスについて詳しく知りたい方にはおすすめの内容です。

次に「ネット」はリードを大量獲得しやすく、オンラインコンテンツで測定可能なリードを常時獲得できるというメリットがありますが、人件費などの固定費がかかることや、コンバージョン率が低い点に注意しなければなりません。

インバウンド獲得の手法はいろいろとありますが、マーケティング改善ではじめに着手すべきなのは、マーケティングリーダーにノルマを課す「リードコミット」が重要だと言います。著者は「つかみどころのない目標」や「獲得できればそれでいいじゃん」という考え方、「リードを一瞬だけ急増させる手っ取り早い方法」を否定し、持続可能なリードコミット施策を打ち出すために、最初は概算や推測で始めてもいいから「出発点として正確に測定できるものを、なんでもいいからなにか見つけよう」とアドバイスしています。

また、著者は自身の経験から、限られた人員や予算でマーケティングを行う際に、できるだけ成果を出すための方法として、下記のような勘違いをなくすことが重要だと指南しています。

「マーケティングをすれば客が来るはず」
「やればやるほど効果がある」
「インバウンドリードなら費用がかからない」
「効果がすぐに表れるはず」

そして、マーケティング施策は「コンテンツ、マーケット、ニッチ、ブログ、動画、テキストメッセージ、ウェブセミナー、ニュースレター、ランディングページ、ソーシャルメディア、コンバージョン率……」と選択肢が多く、いくらやってもキリがないように感じますが、まずはベースを一つ選び、例えばブログがうまくいっているならまずはそれに専念すること。スムーズにいくようになれば他の施策を増やしていくこと。さらに、ライブイベントでわかりやすく相手に伝える力を身に付けることで、たとえリードジェネレーションがうまくいかなくてもニッチの再検討の機会が得られることや、パートナーがいれば共同マーケティングを行うことで集客の課題を軽減できることなどにも触れています。

最後に「スピア」は、営業担当者が見込み客開拓の訓練を受けていればインバウンドリードに依存することなく自分で事を起こせる点や、型さえ定まっていれば人員を増やすことで成果を倍増できるし、また、少人数だったとしても効果が出せる点、より大きな案件に狙いを定めることで取引規模を3〜10倍にできるといった利点があるといいます。一方、軽い気持ちでアルバイトを雇い、その後、任せっきりになってしまうケースや、顧客プロフィールを絞らずコンタンクトを取ってしまい、なかなか精度が上がらないケースなど、アウトバウンドの向き不向きや適切なタイミングがあることにも言及しています。

――さて、ここからが2つ目のポイント「組織を作ること=組織づくり、採用」のお話です。

営業部長の採用に失敗しないための教訓とは?

予測できる売上を創出できるようになったら、次はその売上をスケールさせるための人材採用や組織づくりが必要になります。この段階について詳しく書かれているのが第3部「売上をスケーラブルにする」です。

著者のジェイソン氏は「成長しても頭痛の種がすべて消えてなくなるわけじゃない。新たな問題が生じるだけ」と、自身の会社や他の成長企業がスケールさせる過程で失敗した体験談を交えながら、失敗しないための教訓を紹介しています。

その中でも、最も売上アップにつながる方法として、営業担当者には複数の業務をやらせるのではなく、営業業務に特化させることを推奨しています。そして、「どの企業もみんな異なっているから、自社特有の環境や市場に当てはめて特化する必要がある」と述べています。

大きい組織の場合、「人、かけひき、長年のやり方やシステム」といった要素が複雑に絡み合っているため、業務を特化させるために現体制を変えるのは簡単ではありません。その時は営業組織全体を編成し直すのではなく、「いまの営業組織に開拓者チームを新たに追加」し、小さなチームで実績をつくることから始めることをおすすめしています。

逆に「営業がひとりかふたりしかいない」ような小さい組織の場合に有効なのは「作業時間を特化すること」。まとまった時間を定期的に確保し、具体的な目標を立てて、2人1組でお互いの目標を確認し合ったり手伝ってくれる人を探すことで、営業プロセスの実体験を積むことができると言います。

また、ジェイソン氏は営業部長の採用に失敗するケースが多いことを述べた上で、事業の段階に応じてふさわしい営業部長のタイプがあることを解説しています。

例えば、売上をゼロから100万〜200万ドル規模に成長させるフェーズでは、自社のプロダクトに夢中になって情熱的に売り込みをしてくれる「伝道者タイプ」、100万ドル以上の売上を1000万ドル規模にするフェーズでは、売上を予測可能なものにしてくれる「再現可能タイプ」。このタイプの仕事は「よくわかっていない状態」を「物事が何度も繰り返し進行していて、その理由もちゃんとわかっている」状態にすること。成長準備が整っている初期段階のどの企業にも本当に必要なタイプであり、事を起こせる人。そして1000万ドル規模を4000万ドル規模にするフェーズでは、すでに企業をさらに拡大させるために「思い切って勝負するタイプ」が必要だと言います。

さらにジェイソン氏は、営業部長の採用面接で必ず尋ねる11の質問を紹介しています。

質問①どのくらいの規模の営業チームがいまの当社に必要だと思いますか?
質問②どのくらいの平均取引額を扱ってきましたか?
質問③直接指揮されたチームの話を聞かせてください。どのようにまとめましたか?
~(一部省略)〜
質問⑪現段階で、当社の営業部門とマーケティング部門はどのように協力し合うべきですか?

候補者が本気かどうか、真のリーダーとして会社を次の段階に導いてくれるか、そして自社、とりわけこの分野にフィットするかを見定める上で役立つとのことなので、興味のある方はぜひ本書を参考にしてみてください。

さらにVCの立場から、スタートアップ企業に向けたアドバイスも

第3部「売上をスケーラブルにする」でもう一つ注目したいのが、ジェイソン氏がVCの立場から、スタートアップ企業に限定したアドバイスにページを割いている箇所です。

例えば、顧客に満足してもらうサービスをつくるためには、顧客と密接に関わってニーズを知ることが重要だから、テック系スタートアップ企業であるなら、なおさら「サービス部門」を設置してサービス料金を請求すべきだとアドバイスしています。

なぜなら、比較的規模の大きい企業であれば、新しい業者にチェンジするたびにコストがかかるので、多少のサービス料金でオンボーディングの手間やコストを短縮できるのであれば顧客にとってもありがたい話だし、売上を数倍にすることもできるからです。

また、ジェイソン氏は自身が運営しているVCで投資を行う際にチェックする項目「優れた創業者」「平均を上回る財政状態」「面白そうな分野」を明らかにした上で、「どうすれば資金提供してもらえるか」について「トラクション(実績)」と「チーム」という2つのマトリックスで考えることが一番分かりやすい方法だと述べています。

他にも、スタートアップ企業が見るべき2つの主要指標「成長率」「バーンレート(マイナスのキャッシュフロー)」についての解説や、年間経常売上1千万ドル規模のSaaS企業に必要な人員数(約100名程度)の人員構成の目安についても詳しく述べています。SaaS企業の経営を考えている方は参考にしてみてください。

今の仕事に悩みを抱えるすべてのビジネスパーソンにおすすめ

本書はSaaSモデルやIT関連のスタートアップ企業経営や事業開発に取り組むリーダーはもちろん、もっと経営視点やオーナーシップを取り入れて自分の仕事に向き合いたい方にもおすすめです。特に第7部「自分で運命を決める」には、現状の仕事に悩んでいたり、今の仕事にフラストレーションを感じているすべてのビジネスパーソンに響くアドバイスの数々がしたためられています。

例えば、今すぐに行動を起こすためには、自らの「ニッチ」を絞り込み、関心があることや、うまくやれそうだと思うことから始めることをおすすめしています。そのためには、①一番関心があることのリストアップと、収入につながるアイデアのリストアップを行い、いまの職場で学べる方法を探す→②リストアップしたことについて「20人インタビュー」を行い、「あったらいいな」ではなく「ないと困る」を見つけ出す→③メンター、コーチ、支持者を見つける→④ある期日までに何かをすると他人に宣言して「強制コード」を働かせる→⑤ここまでのステップを何度もくり返しながら、リストを常に更新し、関心を維持するようにする。といったプロセスを踏むことでチャンスを広げていくことができると述べています。

神田氏が「デジタル時代において、新しい成長を生み出す体系的プロセスを、類書にはないほど丁寧に、分かりやすくまとめたノウハウ書」と評するように、本書はスタートアップ企業や新規事業のあらゆるフェーズ、ひいては個人の人生も含めて、いま直面している課題の解決方法と、さらなる成長のためのヒントが得られるのではないでしょうか。

非常に読み応えのある分厚い本ですが、何かに立ち止まった時に何度も参考にしたい一冊だと思いました。


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