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人間、ずっと真顔でいられるのか。

私はアキ・カウリスマキというフィンランド人監督の映画が好きです。彼の作品を全部見ているわけではありませんが、これまで彼の作品をいくつか見てきて、気づいたのがコレです。彼独特のユーモアのセンス…人類みな真顔。

希望のかなた

シリア人の青年カーリドは内戦が激化する故郷を追われ、生き別れた妹を捜すうちにヘルシンキに流れ着く。内戦で全てを失ったカーリドにとって、妹を捜し出すことだけが唯一の望みだった。ヨーロッパ全体を悩ませる難民危機の影響か、無情にも難民申請を却下され、いわれのない差別や暴力にさらされるカーリドだったが、レストランを営むビクストロムに助けられ、彼の店で働くことに。ヴィクストロムもまた、行き詰った過去を捨てて人生をやり直そうとしていた。ヴィクストロム役に「過去のない男」のサカリ・クオスマネン。(映画.comより転記、名前だけ表記変更しました)

彼の作品では、ユーモアと厳しい現実が織り交ぜられていて、見ている方は何とも言えない気持ちになるんです。それを心地いいと感じるか奇妙すぎて受け付けないか。

にしてもです。登場人物が表情を変えることはほぼありません。皆、真顔。いつだって真顔。困っていても、焦っていても、しんどくても、辛くても、楽しくても、嬉しくても、真顔。こちらは、それを見て、ついニヤリとしてしまう。

冷たい、無表情、とも違うんです。彼らは真顔の中にあらゆる感情を押し込めていて、全員が最大限に表現している。それがまた面白くて。

扱うテーマは深刻です。フィンランドにおける難民受け容れの問題を描いている。また、フィンランド版ネオナチみたいな愛国主義者も幾度となく出て来るし、去年、東京国際映画祭で見たフィンランド映画「ペット安楽死請負人」でもそういう輩は出てきていて、多分本国ではかなり問題になっているんでしょう。カーリドも例外なくそういう輩から暴力を受けます。

この映画、私たち外国人、特に日本人はスシのシーンもあるからか、笑えるんです。外国人の日本のイメージは、まだこんなものなのか?でもカウリスマキの日本愛はとくと感じることができる。それにしても紀伊國屋書店のブックカバーとかよく見つけたな…。

おちょくってるのかとも思えるこのシーンで、幾分か深刻さを和らげている…。

また、ヴィクストロムが買い上げた場末のダイナーの従業員たちが厨房で匿っていたワンコが、もうかわいすぎる…!

哀愁漂いすぎでしょ、何なの、この可愛さ。狙いすぎだよ…。

カウリスマキ作品ではワンコの存在がとてもカギとなっていますので、是非他の作品もご覧ください。

ついつい、言いたいことから逸れてしまいますが、彼の作品はえてして暗く(文字通り、極力照明を抑えている)、人々は真顔で日常を過ごし、そんな中で、ポッと灯りを灯すような出来事を拾い上げているんです。

ヴィクストロムはアル中の妻と決別し、場末のダイナーを買い上げて、第二の人生を送ろうとする。従業員の声を聞き、また、なぜか難民のカーリドを雇うことになって、店を何とか盛り上げようと努力する姿は、常に真剣かつ真顔で、それが笑いをも誘う。

常に挑むような表情で、フィンランドに降り立ち、生き別れになった妹ミリヤムを探し続けたカーリドが彼女と再会し、満面の笑みを浮かべるシーンがものすごく印象的です。ああ、これまでの真顔は、このシーンのためにあったのかと。

難民問題を別の側面からとり上げつつも、人生捨てたもんじゃないなと思わせられるステキな作品なのです。

暗く寒々しいシーンの中に、ポッ、ポッと灯りが灯される。そんな映画なんです、カウリスマキの作品は。それがすごく好きで。

私たちは、日々生活する中で、誰しも様々な出来事に対峙している。意識して、真顔でいられることって少なくて、カウリスマキは敢えてそういう表現を使って、笑いをとったり、問題提起をしているんだなって思いました。

シュールかと言われたらそうなのかもしれないけれど、人間、常に真顔でいることって、逆にできないし、その方が辛いんじゃないかなって思うのは、私だけかな。だからこそ、この映画には、他の作品にはないおかしみがあるなぁと。

リトアニアからミリヤムを運んできてくれたドライバーの一言が心にしみる。「こんな素敵なものが運べたんだから、お金なんて要らないよ」って。誰しもそうだといいんだけどね。

フィンランド版ポスター↑

イタリア版ポスター↑

↑実際はカーリドとヴィクストロム、鼻にティッシュ詰めとります。そこは、なぜか、見てね。

2018年3本目。シネリーブル梅田にて。

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