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実録「上から書店員」10:シュリンクちゃんを守れ!

いらっしゃいませ。
いやあ、この夏はホントに暑い。過酷ですな。容赦ないです、猛暑のヤツ。
書店員にとって、こんな季節のなかで一番キツい作業は「シュリンク」です。

シュリンクとは、コミックスなどが包まれている透明フィルムのこと。立ち読みできないように、また汚れ防止のために包装されています。みんな、もうよく見かけるから説明しなくても分かるかもしれないけど、念のため、こんなフィルムね。

ちなみにシュリンクのモデルになっていただいたのは、さかきしん先生の『大正の献立 るり子の愛情レシピ』(少年画報社)です。先生、すみません。もちろん、この後スタッフでおいしく読ませていただいてます♡(スタッフ私1人だけど)すっごく可愛いし感動で(இдஇ; )うるうるしちゃうよ♡

専用のプラスチックフィルム(コミックスより少し大きめサイズ)に入れて、シュリンカーに通して、熱によって収縮させて、ぴっちりサイズに包装するのです。この作業のことも「シュリンク」と呼びます。

まずね、コミックスが発売前日に入荷されたら(この時点で欲しがるお客さんもいるけど、ぜーったいに売らない。週刊マンガ誌もヒモで縛ってる作業が見つかって、買いたいって言われることも多々あるけど、ぜーったいに売らない!)シュリンク専用のプラスチックフィルムに1冊ずつ入れます。フィルムのサイズはいろいろあるので、ほんの少しだけ余裕のあるサイズが理想。

で、全部入れ終わったら、フィルムの開いてる方の端っこを持って、シュリンカーの四角い入口にガンガン入れる。シュリンカーの中はベルトが回っていて、高熱でフィルムがぴっちりキレイに縮んだものがケツから出る(失礼♪おほほほほ)ワケです。

このシュリンカーがね、かなり熱くなるんですわ。でも、この機種は古いから熱が上がるのに時間がかかる。作業開始の何分か前にスイッチオンしておかないと、熱が低くてうまく収縮しない。何度もシュリンカーに入れなくてはいけなくなる。上の天板の部分も熱くて、シュリンカーに通した後、そこに積んでおいたりもする。

何度も言うけど、この作業、夏には地獄です。
有象無象書店ホルス無双店は駅ビルの中にあるから冷房きいてると思われるけど、店員が作業をするバックヤードって労働環境が一番悪い位置にあるのです。夏は暑く・冬は寒く・梅雨は湿度高し! 空気の通りが本当に悪い。接客業経験のある人はよく分かると思う。

夏は汗ダラダラかきながらシュリンクかけるし、冬は冬で汗ふきふきやりましたがな。なぜなら、魚住は更年期障害で痩せているのに大量の汗をかくのですよ。
「更年期障害なんてババアじゃん。ダセー!」とか思ったヤツ! ちょっとそこ並べや! おまえもシュリンクしてやろうか!(←閣下みたいだな(笑))あ、失礼いたしました。

でもね、実は魚住、シュリンク作業が結構好きでした。
可愛い可愛いコミックスちゃん達をキレイにお化粧してあげて、「明日からみんなの元にいってらっしゃーい!」って気持ちでシュリンクちゃんしてました。

コミックスのコーナー担当はメガネ先輩で、陳列などはやれなかったから、なおさら前日送り出しの気分があったワケです。
どんな子が手に取るのかな?」「いい人に読まれるといいね
ってな気持ちですな。

コミックスがシュリンクされるようになったのは、だいだい平成になってからぐらいじゃないかな?(確かじゃなくてスマン)。
魚住が高校生の頃にはシュリンクはまだなくて、立ち読みし放題だった。でも、立ち読みする時に異常なくらい丁寧に扱って読んでいたから、シュリンクされるのが主流になってきた時に少し寂しい気持ちがしたもんだ。
書店員やってみてからは、シュリンク作業が「楽しい送り出し行事」になったのでキレイにシュリンクできると嬉しかった。

そんななかで、やっぱり許せないのが万引きである!

有象無象書店ホルス無双店の場合、ひと月で10万円以上、1年では120万円以上の万引き被害があった。よく言われる「万引きは窃盗犯です」。その通りだが、窃盗犯はなんか響きがかっこよくて(犯罪に憧れるバカもいる)ちっとも響かない。みうらじゅん氏も「暴走族って呼び方がかっこいいから減らないのでは? すごくかっこ悪い呼び方にすればいい」って言ってた。だから、もう「こそ泥」でいいと思う。こいつら絶対にモテない。

万引き現場を見かけたらとっ捕まえたいところだが、オタク店長に「見かけたら声をかけずにすぐ報告だけして!」と強く止められていた。

なぜならば……最近の万引き野郎は刃物を持っているからだ。

こういう危険なヤツはコミックスを万引きして、○ックオ○に売りに行くのとは別の目的がある。

アイドル集団の写真集に挟まれているカードだけ欲しいのである。
また別のヤツは、雑誌の付録ブランド物ポーチだけが欲しいのだ。

写真集に挟まれているカードは何が出てくるか買ってみないと分からない。お目当てのアイドルのカードが出てくるかなんて確率的にかなり低い。だから、シュリンク包装されている写真集を端からカッターナイフで切って、カードだけ抜き取っていくのだ。「こそ泥」本人からしたら「本を万引きしているわけではない」から犯罪意識は低いかもしれないし、書店の被害もないと思ってるだろう。版元に返本もできると思っているかもしれない。こそ泥ってバカか!

書籍や雑誌、コミックスは「付録(おまけ)を含めて1つの商品」なのだ。付録が盗まれてしまった商品は書籍や雑誌が無事でも返本はもうできない
ビリビリに破かれてしまった雑誌が返本できないのと同じ状態なのだよ。
一番被害を受ける書店にもだけど、本やマンガを作っている人全員に謝れや!
てか、そんなことすんなや!
おまえらが書店を廃業に追い込んどるんじゃ!

商品を盗むだけではない。私ら書店員の労働時間も無駄にしているのだ。
キレイにお化粧してあげているシュリンク作業も全部無駄にしやがって! プラスチックフィルムだって安かないんだぞ(←そこ?)。

有象無象書店ホルス無双店にも監視カメラが一応付いている。でも、万引きGメンにお願いしたり、監視カメラに1日中張り付くような人件費はない。
近所のブッ○オ○に協力を呼びかけてもいつも無視されている。
監視カメラに万引き現場がバッチリ映っていた場合、その画像をプリントアウトし、バックヤードに「指名手配犯」のように貼っておくのが関の山だ。

ある日、出勤したらオタ店長が「またやられた」と暗い顔をしていた。女性雑誌の付録のブランド物ポーチだけが盗まれていた。
縛られていたビニールヒモをカッターナイフで切られた痕がある。

「監視カメラに映っていたよ」
オタ店長がプリントアウトした画像を見せてくれた。

そこには…制服姿の女子高生が書棚に挟まれた通路を堂々と歩いてくる画像だった。全身が映っている。

彼女の左手には戦利品のブランド物ポーチが、右手には刃先をめいっぱい出したカッターナイフが握られていた

ぞおぉーーーとした。

まるで、彼女1人のファッションショーのように見えた。
それは…猟奇的なランウェイだった。

(10話・了)

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